匂い(仮題) 玄関が開かれる気配を察知したのは丁度シャワーを浴びている最中だった。
「え?七海?」
水音の向こうに聞こえた物音と捉えた呪力にシャワーを止める。からり、と風呂場の戸を開けて廊下の向こうに声をかけた。
「なーなーみー?」
廊下を進んでいた足音が止まる。そうして開けられたドアの向こうから疲労を滲ませた七海が顔を見せた。
「おかえり。早かったじゃん」
「ただいま帰りました。急な変更があって今日は早々に上がれました」
五条の姿を認めて七海の表情がふっと緩む。それを愛しく思いながら五条はにんまりと笑って濡れた手先を揺らした。
「オマエもさっさと汗流したいだろ。一緒に入ろうぜ」
久々に会えた恋人。しかも明日七海は休みで自分は夕方に高専に行けばいいのでゆっくりできる。となればすぐにでもいちゃつきたいに限る。そう思っておいでおいでと手招いたのに、七海はビタッと動きを止めて五条の元には来てくれない。
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