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    とこのべ

    @tokonobe75

    七五・五受推し/20↑Shipper

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    とこのべ

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    繁忙期の七五+伊の後日談
    繁忙期を終えた七と伊の小話(五は出てきません)

    #七五
    seventy-five

    繁忙期の七五+伊の後日談繁忙期をなんとか乗り切り比較的穏やかな時期に入ったある日、七海は高専に出向いていた。本日は都内の任務が1件入っており、七海に随行する補助監督は伊地知だった。彼は五条の任務に付くことが多いが、あの人は今日一日高専で教鞭を取れる日らしい。「丸一日生徒と過ごせるのって久々〜♪」と昨晩食卓を囲みながら満面の笑みで話していた姿はこの上なく可愛らしかった。きっと今は授業中だろうと思いを馳せていると、七海の待つロビーに伊地知が小走りでやって来た。
    「七海さん!お待たせしてすみませんっ!」
    「いえ、まだ時間前です。私が早めに着いただけですので」
    立ち上がり頭を下げようとする伊地知を手で制すと、代わりとばかりに突然七海が頭を下げた。伊地知は驚いて目を剥く。
    「えっ?!七海さんっ?!!」
    「伊地知くん、先日は見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」
    伊地知とまともに顔を合わせるのはあの繁忙期の時以来だ。七海は今日必ず伊地知にこの話をしなくてはと思っていたのだ。
    「へ…?あっっ?!!い、いえ!!そんな!!」
    どうやら七海の謝罪が何に対してのものなのか思い当たったらしい。青くなったり赤くなったり顔色が忙しいことになっているのだろう。視界に入らなくても彼の声音で簡単に想像ができた。
    「今後は気をつけますので、どうかあの日のことは忘れてください」
    「その、はい!もう忘れますので!!あああ七海さんどうか頭を上げてくださいぃぃ!!」
    尊敬する先輩に頭を下げられてしまい、謝罪を受ける側の筈の伊地知は大いに慌てる。これ以上続ければ逆に彼が気の毒かと思い七海は頭を上げた。
    「あの、先日はその、私もノックもなく入ってしまいまして…」
    「いいんですよ。忙しい時期でしたし、非常識だったのは私の方ですから気になさらず」
    「な、七海さん…!!」
    普段五条の傍若無人さに慣れている伊地知からすれば、七海の対応は神である。さすがは大人オブ大人。
    そんな風にひとり感動を噛み締めているところに七海の声が届いた。
    「どうかくれぐれも、忘れてくださいね」
    はた、と伊地知はそこで何かに気づく。その声にどこか温度の違う硬質な響きを感じ取ったのだ。伊地知は思わず七海を見上げた。七海はただ、静かに伊地知を見下ろしている。
    なんだろう、この、どこか背筋がヒリつくような感覚は…強いていうならば威圧感、が近いだろうか。
    しかし先程の七海の謝罪の言葉には誠実さが滲み、伊地知への怒りは感じられなかった。
    ではこの威圧感の正体は…?
    そこまで思考したところで脳裏にある光景がフラッシュバックする。

    蕩けた青い瞳、上気した桃色の頬に、小さく開いた口から赤い舌が覗いていて…

    「伊地知くん」

    低い声に呼ばれてハッとする。
    さっきよりも漂う威圧感が増している気がしてヒュッと息を呑んだ。七海は感情の全く読めない目をサングラス越しに伊地知に向けている。しかしそれも一瞬のことで、彼が一つ瞬きをして「そろそろ行きましょう」とまったく普段通りの口調で伊地知を促すと、もう先程まで感じていたそれは跡形もなく霧散した。
    先に歩き出した七海と数メートル距離が空いたところで我に帰り、慌ててその背中を追う。そして、ついさっき頭をよぎったあの日の五条の姿には全力で蓋をした。少なくとも七海といる時に思い出してはいけないと、本能が警告音と共に訴えかけている。しかし封じ込めようとすればする程より鮮明に思い出してしまうのが人の性というもの。何度頭を振ってもあのよく知る上司の艶事を匂わせる顔が浮かんできてしまって伊地知は焦った。

    あの日、上司と先輩のとんでもない場面に遭遇してしまい廊下で狼狽えるばかりだった伊地知だが、結局は五条が「伊地知ー!行っくよー!!」といつもと変わらないテンションで部屋から出てきたことで窮地を脱したのだった。その時の五条は包帯を身に付けた通常通りの姿で先程のハプニングなどなかったかのような振る舞いであったし、何より次の任務が押している為に伊地知は強制的に仕事に集中せざるを得なかった。それが結果として良い方向に働き、今日まで伊地知はあの日の衝撃に悩まされることなく過ごしてきた。…いや、全く悩まされなかったと言えば嘘になる。確かに呪術師の中で最も多忙な五条に付いていたので、あの後の繁忙期はもう脳内メモリを120%仕事に振っていたと言っても過言ではない。しかしそれは後々のことで、最初の数日は目元を隠している五条の唯一色づいていると言っていい口元がいつもよりやけに赤い気がして落ち着かない気分になったし、繁忙期が過ぎやっと自宅に帰れるようになった頃は稀に、あくまでも極稀にあの日の光景がフラッシュバックして必死に頭を振って無理やり記憶を追いやった日も、ないことはなかった。こんなこと七海には絶っっっっっ対に言えないが。
    しかし伊地知は猛烈に弁明したい。自分は五条に対して口にするのも色々と恐ろしい邪な感情を抱いているわけでは決してない。ただ、名実共に最強を背負い絶対強者として立つ五条の、あんなか弱げに誰かに縋り庇護欲を刺激するような姿など見たことも想像したこともなかったので衝撃が強すぎただけなのだ。だが怖過ぎてそんなことを口にするわけにもいかず、その日一日伊地知は己に焼き付いた記憶に頭を悩ませ、内心半泣きで職務に就くことになったのだった。


    任務先へ向かう車の中は静かだった。
    七海は後部座席で後ろに流れていく景色を見るともなしに眺めながら本日何度目かも分からない溜息を噛み殺した。今ハンドルを握っている伊地知は運転こそいつも通りの丁寧さだが、その心中は全く穏やかでないのが手に取るように分かる。原因は紛れもなく朝の七海とのやりとりだろう。しかしそんな動揺した精神状態でも仕事をしっかりこなしているのは流石である。そんな優秀な後輩を慮って、七海は舌打ちしたい気分が一切顔に出ないよう努めて無表情を保っていた。
    伊地知が悪いわけではない。それはわかっている。充分わかってはいるのだが、
    (…やはり忘れているわけがないか)
    伊地知は覚えているのだ。以前目撃してしまった七海の恋人のなめまかしい姿を。
    ここが一人きりの空間であったなら、七海は、はあああぁぁぁぁ…と肺の息を全て絞り出すほど思い切り溜息を吐き出したい気分だった。それほどまでにあの日の己の失態を悔いている。
    ----軽薄で個人主義、傍若無人を地で行く最強の男。そして七海にとってどうしようもなく愛しくこの上なく可愛い恋人の快楽に蕩けた姿を他人に晒してしまうなど迂闊すぎた。と内心で盛大に自分を罵った。
    願わくば、伊地知が少しでも早く、永遠にあの日の五条を忘れてくれますように。絶対に無理だと分かりながらも祈らずにはいられなかった。そして七海は移動の間中、平静を装う顔の下で恋人との逢瀬に浮かれて暴走したあの日の自分を脳内で殴り続けていたのだった。

    車内は消せない記憶と様々な恐怖で内心半泣きの伊地知と、失態を犯した過日の己を脳内で殴り続ける七海というそれなりの地獄絵図であったが、各々表面上はそれを押し隠していたので車は恙無く二人を目的地へと運んでいった。
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