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    S女史@94

    @szy_pdl

    吸血鬼マイクロビキニ様バンザイ!
    四兄妹よ永遠なれ!
    拳ミカはいいぞ

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    S女史@94

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    2022/7/10
    フォロイー様がつぶやいてらした、「ガチギレで畏怖いミカエラ」をなんとか自分なりに書きたくてこれ。

    『ホラホス』ことホラーホスピタルは新横浜の人気アミューズメントスポットである。
    住所を公開している吸血鬼にとって十分に考えられるリスクではあったが、気のいい住人が大半を占めるシンヨコエリアにおいては杞憂だと高をくくっていたところはある。正常性バイアスと言ってもいい。
    だが今夜それは起こった。
    営業終了後の深夜、敷地内に不埒な輩が徒党を組んでやってきて『吸血鬼退治・幽霊退治』と気炎をあげた。正体はただ暴れたいだけのごろつきである。おそらくホラホスの住人であり経営者である透とオバケのあっちゃんの友好的な姿を見て自分らより弱いと踏んだのだろう。
    正面切って戦えば人間に負ける二人ではないが、不意打ちに状況が掴めなかったこと等の不運が重なり透が倒されてしまう事態となった。

    気を失った透から真っ赤な血が流れ出し、あっちゃんはパニックに陥ってしまった。ホラホスがまだ生きた病院であった頃、血まみれで運び込まれて助からなかった人々の記憶がフラッシュバックして、アマルガムを構成する『あっちゃんたち』が一斉に悲鳴を上げる。
    あっちゃんは強い。だがその性質は幼い少女なのだ。卑劣な大人の男たちと戦う術をどうして知っているだろう。

    透は異変を感じた瞬間に兄2人と、友人で県警の吸血鬼対策課所属である半田に事件発生を知らせていた。賢弟と呼ばれる所以である。
    最初に到着したのが次兄のミカエラだ。今夜は偶然新横浜駅でもホラホスのある篠原町側を活動範囲としていたことが幸いした。普段は兄弟に気弱だ繊細だ泣き虫だと評される彼だったが、その実高等吸血鬼としてのポテンシャルは高い。実力派の兄の陰に隠れがちではあるが、多人数相手の戦闘能力では兄にも引けを取らない。
    そんな彼が、倒れ伏す透と泣き叫ぶあっちゃんを見たことにより、生来の繊細さを突き抜けて膨れ上がる怒りの感情に我を忘れてしまう。

    「貴様らか」
    地獄の底から突き上げてくるような声が廃病院の空虚な廊下に響き渡った。その場にいた人間たちにキッと一瞥をくれると、5~6人の男たちが一斉に金縛りにあったように立ち尽くして動かなくなる。
    「ミカ おに いちゃ」
    男たちをそのままに、ミカエラは透とあっちゃんに駆け寄った。傷を確認すると自分の腕の皮膚を食い破って透の口元にあて血を流し込む。意識的に嚥下ができる状態ではないが緊急事態だ。誤嚥を防ぐ目的で弟の延髄に意識を介入させる。咽頭の反射運動を補助できればそれでいい。
    「あっちゃん、頼みがある。ごはんの棚から血液のパックやボトル持ってきて透おにいちゃんにかけてあげてくれるか?」
    「うん!」


    次にホラホスに到着しようとしているのは半田とロナルド、ジョンを抱えたドラルクだ。
    「まずい、透くんの気配が小さい。急ぐぞ!……うっ」
    「どうした半田! なんだよ、鼻血?!」
    「さっき病院に入った高等吸血鬼の気配が急激に増大している」
    「お兄さんかな」
    「お兄さんって、野球拳か」
    「彼が到着しててくれたら好転してるんじゃないかな」
    「半田が鼻血噴くほど気配がデカくなってるってヤバイだろう」
    「うん。まあ犯人が心配かもね」
    「いいから走れ!バカめ!」

    人気オバケ屋敷『ホラホス』のバックヤード、廃病院のまま留めおかれているエリアの薄暗い空間で三人と一匹が目撃したのは、白装束を真っ赤に染めて倒れ伏す透、全身から何本もの腕を生やして持てるだけの血液パックから透の身体に血を与えるあっちゃん、不自然な姿勢で硬直しガタガタと震えている男たち、そのうちの2人の頭を両の手に鷲掴みにし、発光しているかのように赤く輝く瞳で男の目を覗き込んでいる吸血鬼マイクロビキニであった。

    (尋常じゃない)
    ロナルドの背筋が凍り付き、退治人としての経験がけたたましく警鐘を鳴らす。

    ドラルクが透の怪我を検分し、半田が救急要請を出す。
    「よくがんばったな、きみは少し休みなさい」ドラルクがあっちゃんに笑いかけてボトルを引き継ぐが、あっちゃんは首を振って透に血をかけ続けている。ジョンが仲良しのあっちゃんを心配してヌーヌー鳴きながら周りを回っている。
    「ロナルドくん! こちらは大丈夫だ、犯人を確保したまえ」
    「てめえが仕切んのかよ!ってか、ビキニの様子がおかしい!」
    「吸血鬼マイクロビキニ! あとは吸対が引き取る! 下がれ!」
    半田の叫び声にもミカエラは振り返らない。ロナルドは半田の声にかすかな震えが含まれていることに驚愕した。
    「おい、ビキニ!オレも来たから!もう大丈夫だから手ェ離せ!なっ!」

    「貴様だな」それまで目の奥を覗き込まれていた男が痙攣したかのようにガクガクと頷くと、ミカエラは右手を離した。男は硬直したままの姿勢で白目をむき、口から泡を吹き始める。
    ミカエラの燃える目が左手に掴んだ男の目の中に移動する。「貴様はどうだ」

    「……何が起こっているんだ」
    初めて見る吸血鬼の様子に、半田の口からうめき声が漏れた。半田もロナルドも目の前の容疑者と思しき男たちの確保に動きたいのにどうしても一歩が踏み出せない。眼球の奥でキーンという高い音が鳴っている。

    「トオル!!無事かっ!!」
    そのとき飛び込んできた長兄の拳が、トオルより先にミカエラを目にしてぎょっとする。
    「お兄さん、待ってました! 『トオル』くんは大丈夫だよ」
    拳が口にした『トオル』が透、下半身透明のことだと瞬時に判断したドラルクが声を掛けて視線を誘導する。紅に染まった透を見て息を飲み色を失うが、ドラルクが真っ直ぐに拳の目を見てゆっくりと力強く頷くと(信じていいんだな)という顔で頷き返した。

    「野球拳、ビキニが変なんだ! どうしたらいい?!」動けないままのロナルドが叫ぶ。
    いつもなら反射的に出てくる「まあビキニは変だよな」といった軽口は出番を失っている。素早く視線を動かして状況を飲み込んだ拳から耳慣れない言葉が出てきた。
    「まずい。ミカエラが、噛んでない」
    ミカエラ?と聞き返す時間はなかった。いきなり正面に回り込んだ拳がロナルドの眼前でパンッ!と一つ手をはたくと同時に足が動いてロナルドはたたらを踏んだ。「うぉっと!」
    続いてもう一つ破裂音が響いて半田も動き出した。飛び出そうとするのを拳が掴んで止める。
    「悪ィ、ブチ切れたときのあいつの催眠だ。おまえらに向けたんじゃねえ、ちっとあてられてただけだ」
    「わかっている。止めるぞ、人間はそうはもたん」
    「まず俺がミカエラを抑える。あいつの気が逸れたら人間どもを引っぺがしてくれ」
    「ビキニはあれ何をやってるんだ? 洗脳か?」
    ロナルドの質問に拳が固い表情で首を横に振った。
    「脳の中身をスキャンしている。トオルをやった奴だと確証を得たら」
    潰すつもりだろう、とは退治人と吸対相手に口には出せなかった。

    「ミカエラ!!」
    拳の叫びはミカエラの耳先をピクリと動かすだけの威力があった。ゆっくりと、機械仕掛けの人形のように首だけが回り、白磁製の横顔に埋め込まれた濃赤色のコランダムが励起して辺りを射た。

    (こいつ、こんなに綺麗な男だったっけ)
    およそ場違いな感想が腹の底からせりあがり、ロナルドは慌てて頭を振った。まだ『あてられて』いる。

    「やべえ」
    拳が小さく吐き捨てた。そんなにヤバイのか、どうすればいい、と退治人が助言を求めることを高等吸血鬼は許してはくれなかった。再び発せられた呼び声はしかし明らかにそれまでとは違う音色を奏で始めた。
    「Michaela!」
    え?と音の違和感を拾い上げたロナルドは正しかったらしい。拳の口から続く言葉は歌うように、だが聞いたことの無い音の羅列だった。

    「え? 何?呪文? 英語?」
    「バカめ、これのどこが英語だ」油断なく目を配りながら半田が応える。
    透の容態が落ち着いたのか、すぐ側まで歩いてきたドラルクがその先を引き取った。
    「彼らの母国の言葉だろうね。戻ってくるように呼び掛けているだけだ。呪文じゃない」
    ロナルドと半田に内容を伝えるためか、はたまたミカエラの耳に日本語もダブルで届けるためか、ドラルクが朗々と通訳を開始した。

      私の愛しいミカエラ。帰っておいで。私の元に。
      あなたが立つその場所は、あなたの居るべき場所ではない。
      あなたは私の小さなミカエラ。忘れないで、私の腕の中で眠ったことを。

    「コラそこォ! ヒトの決死の説得をなんか美文調に意訳すんな!!気が散る!」
    恥ずかしさに負けた拳が日本語に戻ってドラルクを怒鳴りつける。
    「えー、だって同時通訳って難しいじゃないか。直訳でこんなもんだろう」
    「うるさい!黙ってろ!」

      囚われの天使よ、汝を縛る鎖は断ち切った。
      汝はもはや暗き館の主にあらず 帰り来よ我が胸に
      我こそは汝がゆりかご 汝こそは我が愛 赤き瞳に映せよ我を

    「悪化させんなァアアア!!」

    今度こそ耳まで真っ赤になった拳が、ミカエラが捕らえていた男を横から掴むとドラルクに向かって投げつけた。
    ロナルドと半田が丸太のようになった男の身体を抱き止め、ドラルクは順当にショックで砂になった。
    拳の説得が功を奏したのか、はたまた急にスキャン対象を取り上げられたせいか、ミカエラの瞳が拳を映した。
    「……兄さん?」
    「ああ、兄さんだ、兄ちゃんだぞミカエラ」
    拳が大きく腕を開いてミカエラを抱きしめた。ミカエラ自身を拘束したようにも見えるし、ミカエラの視界に男たちの彫像が入らないよう遮断したようにも取れるが、その姿は先程の『帰り来よ我が胸に』を文字通り実践していた。
    「兄さん、トオルが!」
    「ああ、もう大丈夫だ。がんばったなミカエラ」
    拳はいまだ血を流し続けるミカエラの左腕を恭しく持ち上げて言う。
    「おまえの血を飲ませてやったんだな。良い判断だ。聞こえるか?救急車も到着する。トオルはもう大丈夫だ」
    透は大丈夫だ、を刷り込むように繰り返し、腕を伝う鮮血を長い舌で拭い取る。大きく開けた口元に牙が光った。
    赤い筋を追ってたどり着いた傷口を唇が覆う。ミカエラが小さくホウと息を吐き、目に見えて緊張を解いた。
    唇は弟の白い腕に置いたまま、拳が眼だけでロナルドと半田に合図を送る。人間どもを引っぺがせ。

    過たずサインを受け取った歴戦の勇士2人はようやく容疑者の確保に動き出したが、如何せん対象の硬直が解けていない。恐怖で涙や鼻水よだれとありとあらゆる液体を垂れ流している男たちの身体を運搬するのは一苦労だった。
    「ビキニ、これ固まってんの戻せねえ?」
    ロナルドの問いにミカエラの返事は無かったが、代わりに拳がしっしっと片手を振って否定を表した。口元はまだ傷口にあるらしい。先刻までは見開かれ恐怖を撒き散らしていたミカエラの目が今は閉じ、陶酔したように薄く開いた唇から浅い呼吸が漏れている。
    ロナルドは少しどぎまぎしてしまい、殊更声を低めて半田に話しかけた。
    「なあ、アレ、何やってんだろうな」
    特に答えを求めていたわけではないが、半田は律義に言葉を返した。
    「知るか。舐めときゃ治るというヤツじゃないのか」
    中腰状態に固められた男の身体を持ち上げるのにダンピールの膂力を目一杯使っていますという体を取ってはいるが、ブーストされた半田の力がこの程度の肉体労働にそこまで頬を赤らめなくてもいいであろうことをロナルドは知っている。あえてツッコまないのは武士の情けであり墓穴を掘るのを防ぐためでもあった。
    享楽的にツッコミに回りそうな高等吸血鬼を横目で確認すると、透の意識が戻ったのだろう、しゃがみこんで何やら話しかけながらあっちゃんの背を撫でていた。末弟の視界から今の兄2人の姿を隠してくれて少しありがたい。


    到着した救急車にまずは透を運び入れる。離れようとしないあっちゃんと共に拳が付き添うことになった。「私も同行する」と言い張るミカエラに、半田が護送車への乗車を促す。まだ解けていない人間たちの硬直を解除すること、事情聴取があること、救急車の乗車定員。

    まだ後ろ髪を引かれているミカエラを、拳がもう一度腕の中に包み込んで耳元に何やら囁く。外国の言葉だ。ミカエラが同じ言語で応じる。そのまま二つ三つやりとりをした後ようやくミカエラが頷いて、兄弟は別々の車両へと歩を進めた。
    救急車に乗り込もうとした拳が振り返り「ミカエラ!」と呼んだ。駆け寄るミカエラに中を見るよう促すと、まだ弱々しくはあるがストレッチャーから首を上げた透が「ミカ兄、ありがとね」と精一杯の笑顔を贈った。
    ミカエラの両目から大粒の涙がこぼれ落ち、待機する護送車内部から「容疑者、硬直解けました!」と報告の声があがった。


    遠ざかるサイレンに一息つきながら、ロナルドは現場検証参加に気持ちを切り替えていた。
    ドラルクは至極のんきな様子で吸対職員に「私、帰っていい?」と聞いている。
    半田は護送車に同乗していった。ミカエラの連行という名目を掲げていたが、半田は透と仲が良い。今後の捜査にどう関わるかは上の判断であろうが、できる限り吸血鬼兄弟の心に寄り添ってやりたいというのが本音だろう。

    現場検証は夜明けを跨ぎそうなので、ドラルクには帰宅許可が下りたらしい。
    「ゴリルドくんご苦労! では私は帰ってゲームの続きをするよ」
    「おうおう、帰ってクソして寝ろや」
    「ヌヌヌヌヌン、ヌンヌッヌ」
    「ジョンありがとう~、俺もうひと頑張り頑張るよ~」
    ジョンには相好を崩し、ドラルクには反射的に素っ気ない口を叩いたが、今夜のドラルクは的確に良く働いてくれたとロナルドは思っている。おそらくロナルドが帰宅すれば朝食が準備されているだろうとも思っている。たまには何かその働きに報いるべきだろうか。
    「そういやあいつら、さっきのなんか、ナントカ語でしゃべってたのは何だったんだ?」
    「ヒミツ」
    「はあっ?」
    「やだなあロナルドくん、あれだけ愛のポエムを聞いといてまだ足りないのかね? さすがは童貞ロマンティックラブストーリー作家だけのことはあるスナァ……」
    「殺す」


    いつもの調子を取り戻してプンスコ怒りながら仕事に戻っていく後ろ姿を見送って、ドラルクはデスリセットで軽くなった身体でジョンを抱き上げた。
    「さ、ジョン帰ろうか。今夜は疲れたねえ。少しなら甘いものを食べても許されると思うよ?」
    ヌーヌー喜ぶジョンを胸にマントを翻らせた。先程、違う車両に乗り込む2人の同胞からほとんど同時に軽く会釈を受けたことをしっかりと呑み込む。
    「私べつに通訳を生業にしてるんじゃないんだしさ。雑談の報告義務はないよねえ」

     『ミカエラ、あの下衆野郎共にマーキングしたか?』
     『一応は』
     『俺にもわかるような形と強度で上書きしといてくれ』
     『わかった』

    人間による吸血鬼の集団暴行傷害事件。計画的で悪質であるが、吸血鬼の傷が素早く治りやすい性質も手伝って重刑を免れるケースが多い。今夜のこれも大した刑罰は科されないだろう。むしろミカエラが過剰防衛と指摘されるほうが心配な程だ。
    だが、今夜の犯人たちが罪を償った後、個別におかしな災難に遭ったりビキニになったりすることはここシンヨコでは珍しくない。そして吸血鬼は執念深いのだ。
    「おかげさまで長く生きてると気も長くなるよね」
    ドラルクの意を正確に汲み取ってジョンがヌシシと笑った。
    今夜もシンヨコの空には在り得ない姿の月が輝いている。

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