【妄想メモが長いよ】拳ミカで、兄への恋情を長年自己催眠で抑えていたミカエラ。「私は兄さんのことを別に好きじゃない」と自分に刷り込むのも回数を重ねすぎて限界が来そう。これ以上は脳が耐えられない、ってところまで来てしまう。
マイクロビキニは催眠の触媒。数多の下僕に指令を届ける送受信基地であり、帝王として君臨し人類支配を成し遂げるため、己を奮い立たせる催眠を自分にかける力の源。だがそんな運命の礼装に出会う以前からミカエラには封じ込めねばならない自分があった。何度も何度も繰り返し、あふれ出しそうになるたびにふたを閉めた。
外から抑えつけたものが内部圧力に負けてそこここから飛び出してくるは必定。既に「愚兄!」と「えーん兄さん」がバランスを崩していて、我ながら変だと思っている今日この頃。
自己催眠では限界なので、誰か強力な催眠術師に恋情を消す催眠をかけてほしいが自分より強い催眠術師というと、兄……は本末転倒、Y談おじさん……は言語道断、と悩んだ挙句最近少しずつ(自分が)打ち解けてきた最強能力者・竜の御真祖様に相談を持ち掛ける。
恥ずかしながら百年越えでこのような状態であり、百害あって一利なしな感情であるのでできれば根元から切り落としたい、可能だろうか、お力添えいただきたい、と正直に話して懇願する。
御真祖様はあっさりと「できるよ」と。
それなら是非!と膝を進めると「いいの?」と聞いてくる。もちろん!と答えるも「本当にいいの?」と繰り返すばかりの御真祖様。
結局その場では術をかけてもらえず解散。
その後ときどきいきなりパッと現れては「いいの?」と聞かれるので悲鳴をあげるマイクロビキニ。
「いいの?」
「無論です」
「そう」
の短い会話が何度も繰り返されるけどそれだけで、一向に術はかけてもらえない。
ある日ついに、本当にいいのです覚悟はとうにできています、このままでは私は壊れてしまいますお願いします、と必死に頼んだら「じゃあ、やってあげる」と言ってくれる。
「大元を取り去る前に、何度もかけてきた自己催眠をいったんはずそう」と慎重に解きほぐしていく御真祖様。「ずいぶんかけたね」「ミルフィーユみたい」と一層ずつはがされる度に、閉じ込めた想いがあふれ出して愛おしさで気が狂いそうになるミカエラ。胸が熱くて圧し潰されそうで涙が止まらず呼吸ができない。
「準備完了。じゃあこれ取るよ。ハイ」
ハイ、と言われた途端に目の前が真っ暗になり、同じ闇の空洞が身体の中にできあがった。
ミカエラは意識を手放した。
【ミカエラ】
なんと清々しい気分だろう! 世界に憂えることなど何もないように思える。重ねがけし続けた自己催眠が払拭されて頭も体も軽い。今ならば蝙蝠に変化して空を飛ぶことすら可能に思える。
変に意識することがなくなったので兄弟にも自然体で接することができるようになった。とても穏やかな気持ちだ。竜の真祖には、遊びに誘われたら極力付き合うことを約束させられたが、そのようなこといくらでも応じよう。なんならこちらからお招きしてもよいくらいだ。本当に感謝しかない。
愛だの恋だのとくだらないことに割かれていた脳のメモリが開放されて自由に使えるようになった気がする。これからはもっと大きなことに目を向けることとしよう。そうだ、いささか遅きに失した感はあるが、洗脳を拡げて全人類を地球温暖化を食い止める方向へ誘導する試みなどはどうだろう?
【兄と弟】
「ねえ、最近ミカ兄変だよね」
「うん? ああ」
「うんああじゃないよ、ヤバくない? 人が変わってない?」
「あー、うん」
「ああうんでもないから。こないだなんか三つ揃いのスーツ着てたんだぜ?! 『さすがに国際会議だとドレスコードがな』って、何の会議だよどこ行ったんだよあのビキニ!いやスーツだったけどビキニ!」
「新たなるステージに目覚めたんじゃねーの?」
「そんな、ビキニに目覚めたときみたいなこと言って」
「いつもは変わらずビキニでねりねりしてんだろ。たまにでも着るようになってよかったと思えよ」
「……なんか、穏やかになっちゃって」
「いいことだろ?」
「なんか……普通に優しい」
「前っから猫ッ可愛がりされてたろーが」
「ケン兄のことを!愚兄って言わない!!!」
「だからいい傾向でしかねえだろって」
「ケン兄につっかからないし、ケン兄のこと罵倒しないし、ケン兄に罪をおっかぶせたり八つ当たりしたりしてない!」
「おまえは俺をどうしたいんだよ」
「じゃんけんハゲの辻野球拳を見てさあ! なんて言ってたかわかる?!」
「さりげにじゃんけんハゲとか言ってるじゃん」
「『フフッ、しかたないなあ兄さんは』」
「似てる」
「『フフ、しかたないなあ兄さんは』だぞ!! どうすんだよケン兄!」
「いや、どうするもこうするも」
「なんでそんなに落ち着いてんだよ、ミカ兄のピンチだよ?」
「おまえはなんでそんなに、ああ泣くな、泣くなって」
「きっとまたおかしな変態吸血鬼に引っかかって、変態成分取られちゃったんだ、ミカ兄どんどん弱ってっちゃうんだ」
「透、大丈夫だ。ミカエラはちっとも弱ってないから。むしろ精力的に活動してっから」
「だって、ケン兄も元気ないじゃん! 心配なんでしょミカ兄のこと。俺はケン兄とミカ兄とふたり分心配でいっぱいいっぱいだよ! どうしてくれんだよ!」
「透……。すまん」
「ケン兄が何にもしないなら、俺が変態吸血鬼を探し出してやっつけてやる」
「やめろ、おまえには無理だ」
「え?」
「あ」
「なに。なんか知ってるの? 心当たりあんの?」
「……心当たりっつーか、まあもう少し待ってくれ。な?」
【拳】
ミカエラから時折送られる熱い視線には気付いていたし、彼をそうさせてしまった責任の一端は自分にあるとの自覚もあった。それでも、ミカエラ自身がどうやってか折り合いをつけて三兄弟の真ん中としてふるまうのなら、同じ視線を返すことは兄としての裏切りにあたるだろうことも理解していた。ふるまう、というより責任を全うしているといった必死さは時に痛々しさすら覚えたが、ミカエラはその都度なんとか自力で体制を整え直した。拳にはそれを横目で見て応援するしか術はなかった。
それがあるとき、フッと圧が消えた。
海上を進む竜巻が上陸寸前に消滅したかのように、きれいさっぱり消え失せたのだ。
そしてミカエラは穏やかになった。穏やかに、優しく、とはいっても即爆発の癇癪玉が導火線の長い爆弾になった程度の違いではあるし、シャイな性格もそのままなので極親しい者でなければ気付かないはずだ。
拳は懐の封筒に手をやった。ミカエラの変化にどうしたものかと頭を悩ませていたある夜、鶴見川沿いの道を一人歩いていた拳の懐にいきなり現れた一通の封書である。あたりには誰もおらず、誰ともすれ違っていない。懐手をして歩いていた拳の手の上に瞬間移動で届けられた封筒。こんなバカバカしくも挑戦的なことをやってのける人物はそうはいない。案の定、シーリングワックスに竜の紋章、流麗なフェアハンドで記された宛名はMr.で始まる拳のフルネームだった。
ふざけてやがる。胸糞悪い。腹立ちまぎれに封蝋を粉々に砕いて開封した中身の体裁は招待状で、外側の仰々しさはなんだったんだと呆れるほど簡素で軽薄な内容だった。しかしタイミングを見ても、拳と竜大公との関わりの希薄さ、ミカエラと竜大公の交流から推察しても、ミカエラの変化に関係した内容だと知れた。
曰く、
『キミのも取ってあげよう。遊びにおいで。
RINE登録よろ』
「さて、どうするかね」
声に出して逡巡を装ってはみたが、この招待に応じない手はなかった。
●●●次週予告●●●
ーーー新横浜に走る衝撃。
シンヨコJKのSNS「東口から超イケメン降臨!! #マイクロビキニ #マイクロビキニじゃない #プリケツだいじょぶか #イケてるスーツ #吸対仕事しろ」
ロナルド「またテメーか、変態吸血鬼!」
唯一無ー二ーマン「余ではない!余ではない!」
ドラルク「今度こそ就職決まったんじゃないか?」
ーーー御側に仕える者たち。ビキニ親衛隊の苦悩。
「ええ。マイクロビキニ様はいつにも増して毅然としておられます。我々下僕にもあまねくお優しく、気高くお美しくていらっしゃる。それは変わりません。ですが……何かが違うのです」
「もちろん、私共に不満などあるはずもございません。新しい活動も誇りを持って遂行できるものです。むしろ気がかりなのはマイクロビキニ様の御心でして」
「どうか兄君様、マイクロビキニ様をお救いください!」
ーーー竜の真祖のテリトリーにて直接対決を覚悟したケンの運命や如何に。
御真祖様「キミの『それ』も取ってあげようと思って。そのままじゃツライでしょう」
拳「生憎オレの『これ』はミカエラのやつよりちーっとばかし年季が入ってるもんでな!」
ーーー次週、『吸血鬼マイクロビキニ、環境保護活動に邁進す』 『賢弟なめんな!あっちゃんもなめんな!』 『百年の恋が冷めない』
の3本です、お楽しみに!
御真祖様「取ったけど、消したとは言ってないよ」
拳「ハイ?」
御真祖様「どうする?『これ』」