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    yuakanegumo

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    yuakanegumo

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    両片想いヴィク勇❄⛸
    ヴィクトルが勇利くんの唇ケアをするようになったきっかけのお話😊
    何でも許しちゃう勇利くんが、ちょっと心配になるヴィクトルだけど、結果的にハッピーエンド🥰

    #ヴィク勇
    vicCourage
    #SS

    無防備な君のはなし その時、なぜ唇を見つめていたのかとユウリ本人に聞かれたら、おれは何も答えられなかったに違いない――君のことを、恋愛対象として愛してしまっただなんて。

    「ユウリ、唇荒れてない? リップとか持ってる?」
    貸し切りの空間。リンクサイドのベンチに並んで座りながら、おれはふとユウリに尋ねた。自らの唇に触れた教え子は、かさりとしたその乾いた感触にいきあたり、意思の強そうな眉を下げた。

    「リップ、持ってないです……」
    分かりやすくしゅんと肩を落としてしまうユウリ。うつむいて、黒髪の隙間からちらりとおれの顔を覗く仕草が、まるで悪戯をしてしまった子犬のようで可愛いらしくて、思わず笑ってしまった。
    「だろうね。待ってて。おれがやってあげるよ」
    「うん、お願いします。ありがとう、ヴィクトル」
    おれはリップバームのケースを荷物から取り出すと、ユウリのすぐ隣に座り直した――ほとんど身体が触れ合うような距離に。

    「な、なんかヴィクトル、近くない?」
    「んー、そう? じゃあ、塗っていくよ」
    戸惑うユウリを一蹴して、リップバームを指先にたっぷりと取る。塗りやすいようにとの配慮なのか、一文字に引き結んた唇を突き出している顔がたまらなく可愛い。
     ユウリの、下唇に触れる。そのまま指を滑らせれば、指の固さの通りに沈み込む粘膜。――やわらかい。その感触に動揺しながらも下唇のリップを塗り終えた時、ポツリとユウリが呟いた。

    「……なんか、近いと恥ずかしいね」
    そしてきゅっとアーモンド色の瞳を閉じたのだ。羞恥心のためかほんのりと頬を染め、リップを塗られるためにと捧げられた無防備な唇。
    「……なんで、目閉じたの? ユウリ」
    「恥ずかしいからだよ! 早く、びくとる」
     ――このまま、キスしたいなあ。
     愛する人を前にして、男としてあまりにも当然な欲望が湧き上がる。触れるだけのキスなら、ユウリは受け入れてくれそうな気がするんだけどな……そんな不埒な言い訳が頭を巡りながらも、コーチとしてのおれは、欲望を散らすために深い息を吐いた。

    「……ユウリってさあ、恋人いたことなかったんだよね?」
    「それ、いま関係あ――むぐっ」
    うるさい上の唇に、問答無用でリップバームを塗りつける。たったひと塗りしただけで、あまりにも魅力的な桃色の唇が誕生してしまう。
     ケアが終わったことを察したのだろう、ゆったりと開かれるアーモンド色の瞳。瞬きを繰り返す教え子を見つめながら、おれは言い聞かせるような気持ちで口を開いた。

    「近づかれて驚いたからって、そんな簡単に目なんか閉じちゃ駄目だよ。隙があったら、君を狙ってる人間は沢山いる。おれだから良かったけど、もっと警戒心をもって」
    無邪気はユウリは可愛いけれど、あまりに無防備な仕草に心配になり、つい真剣に語りかけてしまう。しかし、おれの渾身の説得をユウリはなぜか不服そうな顔で聞いていたのだ。

     ケアしたばかりの唇を尖らせている。ほんのりと赤らむ頬。大きく揺れるアーモンド色の瞳が、上目遣いにおれを見つめていた。
    「……こんなことしてもらいたいのって、ヴィクトルだけなんだから。他の人には触ってほしくない。大丈夫、僕だって分かってるよ」
    「えっ……? ユウリ、それって――」
    あまりに想定外の言葉に、反応が遅れた。もしかして――もしかして、おれたちは両想いなのかもしれない。いや、きっとおれたちは互いに、愛し合ってるに決まってる。

    「時間だ! もう、練習始めなきゃ…!」
    「あっ、ユウリ……!」
    ハグしようと広げた両腕をひらりとかわして、愛しい人は氷の上へ舞い降りてしまう。
    「ユウリ。それって、おれのこと好きってこと?」
    「はっきり言わないでよ……!」
    「おれも、ユウリのこと好きだよ!」
    「えっ?! あっ……!」
    勢いに任せて、軽いジャンプを仕掛けたユウリが、氷の上で転んでしまうものだから、おれは慌ててリンクへと駆け出した。
     露骨な照れ隠しをするユウリに手を焼いてしまうかもしれないが、これは練習が終わったあとにきっちり詰めなければならないだろう。
     
     こうして――いつの間にか、大切な恋人の唇をケアしてあげることが、おれのルーティンになったのだ。

    おしまい
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