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    yuakanegumo

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    yuakanegumo

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    恋人ヴィク勇❄⛸
    付き合って長いふたり。ちょっとさびしい気持ちでヴィクトルの帰りを待つ勇利くんが誤爆をやらかしてしまうけど、ヴィクトルがただただ嬉しいお話😇
    いつものバカップル💍✨
    #ヴィク勇 
    「みんな知ってた」

    #ヴィク勇
    vicCourage
    #SS

    みんな知ってた 現在の時刻はもう二十三時――夜も随分と更けた頃、家主がいないニキフォロフ邸のリビングには、寄り添うふたつの影があった。

    「ヴィクトル遅いねえ、マッカチン」
    「わふ……」
    ふわふわのブランケットを肩から羽織り、ソファーに座る勇利が時計を見上げながら呟く。そんな青年の膝の上、溶けるように顎を乗せて伸びている大きな毛玉は、仲良しのマッカチンだ。

    「ヴィクトルは、先に寝てて良いって言ってたけど……」
    遅くなると思うから、先にご飯食べて寝ててね――と恋人であるヴィクトルから連絡があったのは約四時間前。勇利は、深いため息をついた。
    「ヴィクトルの顔見て、安心したいよね。マッカチンも、いつもこんな気持ちでヴィクトルのこと待ってたの?」
    「ワフッ」
    気弱な問いかけに凛々しく応じるマッカチンの声。身体を預けてくれる老犬のやわらかな背中に、青年は小さく微笑みながら顔を埋めた。

    「……今日はなんか落ち着かないんだ」
    何かトラブルがあったわけではない。大きな悩みごとがあるわけではない。けれど、今夜の勇利の心はどこかざわついていて、今この瞬間に、たまらなく恋人の体温を求めていた。
    「ハグしてほしいな、ヴィクトル……」
    誰も聞いていないのを良いことにぽつりと呟く。二人が恋仲となってから、一体どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
     いつの間にか、ヴィクトルとのスキンシップは、勇利の日常になくてはならないものになっていた。嬉しい時はハグしたいし、悲しいときもハグしたい。そっと目を閉じれば恋人の笑顔が脳裏に浮かび、余計にさびしい気持ちになってしまう。

    「……」
    不意にむくりと起き上がった青年は、唇を尖らせながらスマホのメッセージアプリを起動させた。そして、目当てである恋人のアイコンをタップし、素早くメッセージを打ち込む。

    ――『ヴィクトル、何時くらいに帰ってくるの?』
    ――『はやく会いたいよ』

    「送信……!」
    普段の彼であるならば、羞恥心が勝って伝えることがないであろう愛の言葉。臆してしまう前に、勢いで送りつけてしまう。
    「あー! 送っちゃったよ、マッカチン!」
    「……?」
    耳まで真っ赤にした勇利が、腕の中のマッカチンをワシャワシャとかき混ぜた。何事が起きたのかと不思議そうなマッカチンが、ゆっくりと身を起こす。向かい合うふたり。

    「わがまま言っちゃった。こんなこと言ったら、ヴィクトル困らせちゃうかな」
    言葉とは裏腹に、輝くアーモンド色の瞳。少しだけ眉を下げた青年が首を傾げた――その次の瞬間だった。
     ピコン、とメッセージアプリの通知音が鳴る。早速、恋人からの返信かと心を弾ませた勇利の顔色はしかし、その直後一気に青ざめていく。不規則な通知音が止まらないのだ。震える指で、慌ててポップアップを開いた。

    ――ピチット『ユウリ、これヴィクトルあてのメッセージじゃないの? 誤爆? でも、相変わらず仲良さそうで良かった!』
    ――クリス『こんなに熱烈なメッセージを送ってくれる恋人がいるなんて、ヴィクトルは幸せ者だね』
    ――ギオルギー『愛だな……』

    「あああ……っ!」
    口元を押さえ、膝から崩れ落ちる勇利。
    「嘘でしょ。まっ、間違えた……!」
    ヴィクトルのアイコンを確認して送ったつもりだったが、どうやら仲が良いスケーター達のグループチャットへ誤ってメッセージを送ってしまったらしい。少なくとも、ピチット、クリス、ギオルギーの三人には恋人への睦言を見られてしまった。急いでメッセージを取消したが、それで事実が消えるわけもない。

    「……しん、じられない……どうしよう、」
    激しく動揺した勇利が呻きながら頭を抱えていたそんな時、玄関から大きな物音が聞こえた。不穏な気配にぴくんと耳を動かし、顔を上げるマッカチン。
     次いで響いてきたのは、慌てたような誰かの足音。重たく駆け回るようなリズムが近づいてきて、リビングの扉が勢いよく開かれた。

     ロングコートの裾をひらりとなびかせ、派手に登場したのは――髪を乱し、大きく息を弾ませたヴィクトル・ニキフォロフその人であった。明るく輝くアイスブルーのまなざしが、勇利とマッカチンをとらえて、笑顔になる。
    「ユウリ! メッセージ見たよ! おれも早くユウリに会いたかった……!!」
    まるでミュージカルのように両腕を広げた男は、うずくまる恋人の身体をふわりと抱きしめた。

    「おれが居なくて寂しかった? もう帰ってきたからね、大丈夫だよ。マッカチンも、いい子でお留守番ありがとう」
    「ワフッ」
    腕の中に包みこんだ青年の背をそっと撫でるが、されるがままの恋人はうつむいたままだ。
    「……ユウリ? どうしたの?」
    優しい声でヴィクトルがそう問いかけた、その次の瞬間――勇利が勢いよく顔をあげた。真っ赤な頬に、大きく揺れるアーモンド色の瞳で凍えるほどきつく恋人を睨む……隠しようもない、怒りの感情。

    「もう! 全部、ヴィクトルのせいだよ! ヴィクトルが早く帰って来ないから……!」
    「え? あっ、メッセージのこと? 間違ってグループチャットに届いてたよね。全然気にしてないから大丈夫だよ」
    「僕が気にするんだってば!」
    「おれは嬉しかったよ。あれは本音でしょ?」
    「それは――そう、だけど……」
    「じゃあ、何の問題もないよね!」

     色恋沙汰に関して日頃はクールな恋人の言葉に浮かれているのだろう。完全なる勇利の八つ当たりであったが、理不尽に何を言われようともヴィクトルの顔にはしまりがない。
    「愛してるよ、ユウリ! ずっと一緒にいようね」
    「もうヴィクトルなんか、知らない! はーなーしーてーよ! あっ、マッカチン、助けて!」
    「ワウッ……!」

     にこにこと微笑むばかりで話にならないヴィクトル。きつく閉じ込められた恋人の腕の中から逃げ出そうと暴れる勇利。しかし、青年の懇願に返事ばかりが勇ましいマッカチンは、くるくると楽しげにふたりの周りを走り回るばかりであった。

    おしまい
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