次回に乞うご期待「いや〜、可愛い子からのチョコは嬉しいね」
何も変わり映えしない平日とは違い、今日は様々な甘い匂いがそこかしこに溢れている。
香水とは違い、文字通りお菓子の甘い匂いがこの決闘委員会ラウンジでも漂っていた。
その1番の発生源となっているのは、相変わらず物腰柔らかに断りなく受け取るシャディク・ゼネリその人だ。
「相変わらずシャディク先輩はモッテモテですね〜」
「悪い気はしないよね」
「良かったですね〜。あ、これウチらからです☆」
「ありがとう」
後輩であるセセリアはその両脇に置かれた紙袋の多さと、中身が溢れんばかりに詰め込まれている様に(毎年よく貰うな)と思っている。
今はいない自分のおちょくり筆頭の先輩はブラコン弟の検問があるため、窓口を通さないと渡せないし受け取って貰えない。(知り合いなら受け取って貰えるが、検査には通されるらしい。弟に何言われたら言いくるめられたのか。)
もう1人の常時無表情先輩は渡されてもノーリアクションで受け取りもしないため、初年で多くの人間が諦めたとの噂。
今年は2人とも事情が変わった為受け取って貰えると喜び勇んで行った同級生達が、全員仲良く撃沈したとの話は朝から聞いている。
それに、目の前のこの先輩だって似た様なもので、貰ったものに手を付けず自分で買った缶コーヒーをのでいる。実際問題、何が入っているか分からないものを食べられないのは正しい対処法ではある。あの箱の幾つが処分を免れるかは毎年予想が楽しい限りだ。
自分の隣の相棒に渡したのと違う箱を渡し、それが1番傍に置いてある小さい袋に入れられたのを見届けると、扉が開いた。
「相変わらずの量だな、シャディク」
「ハァイ、先輩方〜」
おちょくり筆頭と無表情先輩がやって来たことでセセリアの機嫌はあからさまに上がった。
しかもその手には紙袋が2つ。
「先輩達も貰ってきたんですか〜?」
「あ?これか?スレッタとミオリネのとこ…」
はっと言葉を切ったグエルはチラッとシャディクに目線をやる。
一瞬にしていじけモードになった彼を困った様に見るグエルと、無表情からありありと伝わる呆れを滲ませるエラン4号はいつもの定位置に座った。
「ま、まぁ、チョコはいっぱい貰ってるしね。貰い過ぎて困ってた程だけどね」
どことなく震えた声で虚勢を貼るシャディクを再びチラと見たグエル。同じ様に見て、何処と無く「あーあ」と聞こえて来そうな雰囲気を出すエラン。そんな3人を見て、セセリアはこの後を想像し楽しくなった。
「そうか
……なら要らないか」
「!?!!?!」
声には出ていないが、あからさまに動揺するシャディクに気付かないのは片方の紙袋を持って立ったグエルだけだったみたいだ。
「これ、食うか?」
差し出されたのは綺麗な金のリボンがラッピングをされた品のいい茶色の箱。グエルは基本は(弟が主として選んだ)購入品を渡すが、数少ない知人には手作りを渡すと言われている。つまりは、
「え〜、手作りですか?」
「いらんなら後日別のをやるが」
「いえいえ、ただお下がりはちょっと〜」
「あぁ、お前用はコッチ」
紙袋から出されたのは有名コスメのコンパクトな紙袋。中にはコスメの他に茶色包装紙に薄紫リボンの小さい箱も入ってた。「ほら、これはロウジに」と渡す姿を尻目にシャディクを見ると明らかに動揺していた。
いつも飄々としている筈の焦り顔を見ていると、目が合ってしまった。その瞬間、首を振って『断ってくれ』と目線で懇願されたのをセセリアはニヤニヤして見てしまう。
それを背にし、何も知らないグエルはもう一度、金リボンの箱を差し出して「食うか?」と尋ねた。
「ありがとうございま〜す♡」
満面の笑みで金リボンの箱を受け取った。ロウジは茶色の包装紙に紺色のリボンがかかった箱をちらと見て紙袋に仕舞った。
席に着いたグエルは早々にタブレットを確認しだした。
エランはシャディクを憐れむような視線を投げ、それに気付いたシャディクが視線を寄越した。その視線に呆れながら、エランは傍に置いた紙袋から茶色の包装紙に緑のリボンが巻かれた箱をチラッと見せた。
死にそうな顔をするシャディクをガン無視してセセリアは立ち上がる。
「じゃ!ミーティング始めましょー♡」
一一一一一一一一一一一一一一一一一一
「あの〜、セセリアさん?」
ミーティングも終わり、グエルとエランは早々に席を立って出て行った。
それを見届けた後、死にそうな顔のままシャディクがセセリアに声をかける。それをウッキウキご機嫌でセセリアは「はーい?」と返事をした。
「あの、その、俺のプレゼント返していただけないでしょうか…」
「えー?先輩のプレゼントぉ?知りませけどね〜www」
セセリアは笑いを堪えるので必死だ。
「てかグエル先輩の事ですから、後日貰えますよ?市 販 品 を☆」
「いや、それは、その….」
あの律儀なグエルが、シャディクに結果的とは言え渡さないなんて有り得ない。恐らく後日どこかのメーカーの小物がグラスレー寮長宛に届くだろう。
それはつまり、今年のグエル“手作りプレゼント”はシャディクには渡らないという事だ。
「どうしようかな〜?w」
セセリアは目の前に正座してまで頼み込む美男子にご満悦だ。あの数多の美女を侍らしていると噂される先輩がだ。そりゃご機嫌にもなる。しかし料理上手と評判の先輩が作ったチョコを、こんな形だが2つも貰えたのだ。そう簡単に逃したくない。
金色のリボンを解けないようにクルクル指で弄ぶ。シャディクの顔が引き攣るのが分かる。自分で開けたいのは全宇宙共通だろう。
ロウジが小さく「セセリア」と窘める声を聞き、セセリアはグエルから貰った有名ブランドのロゴを指さした。
「そう言えば、このブランド最近新作マニキュア売り出したんですよ〜。でもフルセットは売り切れ続出で買えないんです〜。それで困ってて〜w」
「なんとかします」
間髪入れずに返答した声を受け、ついにセセリアは爆笑した。
大事そうに小さな紙袋に入れて部屋を後にする背に、忘れないでくださいよーと声をかけて見送った。
「…フルセット欲しかったの?」
「んー?まぁ、」
ロウジの疑問を受けて、セセリアはグエルからのプレゼントを開封する。出てきた物を見て、ロウジは小さく「あ、」と漏らした。
「好みのカラーセットはいくつ持っていてもいい物じゃん?♡」