本日の天気【曇り】
宇髄は驚愕した…久しぶりに会った教え子の姿を見て…
「謝花ッ…お前、どうしたんだッ!誰かに殴られたのか!?」
再会した喜びを胸に彼に近付けば、その顔の口元には殴られた痕…
「別に…アンタには関係ねぇだろぉ…」
自分には関わるな、と言いたげな表情でその場から去ろうとする妓夫太郎…一瞬だけ交わった瞳は、高校の時のように輝いていなかった…晴れた青空のように美しかった妓夫太郎の瞳は今、まるで曇に覆われた曇天のように薄暗いものとなっていた…
「待てよ!コラッ!」
曇った瞳に宇髄は思わず妓夫太郎の腕を掴む。その瞬間、妓夫太郎は「ッ!」と痛みに耐えるように顔を歪ませた。その表情に宇髄は咄嗟に妓夫太郎の袖を捲りあげる。そこで目にしたのは、本来の妓夫太郎の痣と交ざり合う青痣…
「お前ッ…これ、どういう事だよ!」
尋常ではない妓夫太郎の腕の青痣に、宇髄は顔を歪ませ問いただす…しかし、
「ッ…だから!アンタには関係ねぇって言ってんだろぉッ!もう俺には関わるなッ!!」
そう声を荒げ、妓夫太郎は宇髄の手を振り払い、その場から走り去って行く…
「……バカタレッ。あんな眼されて、黙っていられっかよッ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【曇天】
「オラァァッ!」
鈍い音がアパートの一室から響く…それは、腹部を強く蹴り上げられた悲痛な音…
「グッ…は、ぁッ…」
腹部を蹴られた妓夫太郎はその場に蹲り、ただ目の前の男が落ち着くのひたすら待ち続ける。
「なぁ妓夫太郎…昼間会ってたあのイケメン、誰だ?」
「ア、アイツは…高校ん時の、教師…」
「何?ソイツに売りでもしてたのか?あぁ?」
蹲る妓夫太郎の髪の毛を鷲掴みにし、男は妓夫太郎の顔を上げさせる。口内が切れてしまったのか、妓夫太郎の唇から血が滲み出ていた。
「してない…売りなんて、した事ない…」
「本当か?」
「本当だぁ」
「…そっか。なら良いんだ。悪かったな。蹴ったりして」
妓夫太郎の返答を聞くと男は先程までとは打って変わって笑顔になり、妓夫太郎を優しく抱き締める。
「お前があんなイケメンと話してるとこ見ちまったからつい嫉妬してな。ごめんな」
「…全然大丈夫。俺も、誤解させちまってごめん」
「よしよし。お前には俺だけだもんな」
「ん…俺にはアンタだけだ…」
そうやって繰り返される暴力の日々…だが、今の妓夫太郎にとって逃げる選択肢は無かった…自分を求めてくれるのはこの男だけだから、と…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【暴風・雷】
「グハァァッ!」
男は勢い良く廃材置き場へと吹っ飛んでいく。カラカラと廃材が転がり、その中で腹部の痛みに耐える男を、宇髄は見下ろし睨み付けていた。
「お前だよな?アイツの…謝花のDV彼氏は」
「な…何なんだよテメェッ!」
「俺が聞いてんだよ。答えろ」
そう言い、宇髄は男の腹部を勢い良く足で踏みつける。大柄な宇髄の体重を乗せたその足が腹部に落ちてきて、男は声を出す事もできずその苦しさから苦悶の表情を浮かべた。
「言え。何でアイツに暴力振るってんだ?あぁッ?」
「グッ…ァッ…だ、だって…ァ、アイツには、俺しか、いねぇから…」
「あ"ッ?」
「ァイツには、俺しかいねぇからッ…何、やっても逃げねぇ、しッ…」
「テメェのストレス発散の為にアイツに暴力振るってたってぇのかッ!?アァッ!?」
青筋をいくつも立てながら、宇髄は男の腹部をグリグリッと踏みつぶす。
「テメェ…神や仏が許しても、この俺が許さねぇからな。覚悟しろよ」
いつもよりも低く、ドスの効いた声でその言葉を男に振り落とす。震え上がると思っていた。ビビって声も出せなくなると思っていた。だが男は突然ケタケタと笑いだした。
「あ?何がおかしいんだ?」
「ヒッ、ヒヒ…ア、アンタ、アイツに惚れてんだろッ!」
「あ?」
「そうでもしなきゃ、こんな犯罪紛いの事やらねぇもんなぁぁ!アハハッ!」
男は大笑いをしながら、自身を踏み付ける宇髄へ蔑むような視線を送る。
「あんな気色悪い痣だらけの不細工に惚れてるとか!アンタB専かよ!!アハハッ!」
「…オイ。黙れよ」
「あぁでもフェラだけは格別だったぜ!!あ!何なら俺のちんぽ咥えてる画像見せようか!?いっぱいある……」
「黙れっつってんだよ、クソ野郎ッ」
男の言葉を遮るように、宇髄は足を男の口へ突き落とす。鈍い音がした…それは、骨の砕ける音…
「あッ…がッ…」
「テメェの汚ぇ声をこれ以上俺の耳に入れんじゃねぇよ…」
そう言い、宇髄はその場にしゃがみ込み、何やらゴソゴソと手探りをしている。
「…さっきお前、フェラがどうとか言ったよな?」
「ぅッ…がッ…」
「んじゃ今日はお前がたっぷりフェラしてくれよ」
「ぁッ…!?」
そう告げた宇髄の手には角材…それを持ちながら宇髄は目を細め、不敵な笑みを浮かべる…
「ここには色んな形、大きさのもんがあるからなぁ。いっぱい楽しめるぜ。さぁて、テメェの汚ぇ口はどれがお好みかな?」
血のように紅い瞳が男を射殺す…暴れようとするが先程までの宇髄からの暴力で体が思うように動かない…そんな男へ、宇髄は更に追い打ちをかけていく…
「安心しろよ。たっぷり遊んだ後の後始末は昔っから得意なんだわ。なーんにも無くなるくらいキレーに始末してやるからお前はなーんも考えずに咥えとけとよ…」
宇髄の手の角材が男の口へとゆっくり接近する…男は悲鳴を上げる事や助けを求める事もできない。ただ涙を流す事だけ…
その後、その男の行方は誰にも分からなかった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【晴天】
都内のとあるマンションの一室…仕事を終え帰宅した宇髄は「ただいま」と帰宅の挨拶をする。その挨拶に部屋の奥から「おかえりぃ」と返答が。その返答の元へ宇髄は足早に向かい、キッチンで調理をしているその背中に抱き着く。
「今日は何作ってんだ?」
「んあ?牛肉を赤ワインで煮込んだやつとサラダとポタージュ」
宇髄に聞かれた妓夫太郎は本日の夕飯メニューをざっと答え、宇髄に抱きつかれたまま調理を続けていく。その手際の良さに宇髄は改めて感心し、抱きついたまま妓夫太郎の調理を見つめる。
「…いや離れろよなぁぁ!」
「いや、仕事で疲れてっからお前成分を補給しようと思って」
調理中ではあったが、宇髄が中々自分から離れようとしないので、妓夫太郎は振り向き眉間にシワを寄せる。そんな妓夫太郎に対してお構いなしといった感じで宇髄は妓夫太郎の首元に顔を埋め、スーハーと妓夫太郎の匂いを嗅ぎ始めた。
「嗅ぐなぁぁッ!犬じゃねぇんだからよぉぉッ!」
「わん」
「このマンションはペット禁止だぁぁッ!」
「ペットじゃねぇし。ここの家主だし」
「んじゃ俺を嗅ぐなぁッ!」
「お前の旦那だから嗅ぐ」
「いやそれ理由になってねぇからなぁッ」
妓夫太郎の言葉虚しく、宇髄は自分が満足するまでその奇行を止めなかった…抱きつかれ、嗅がれながら呆れた表情を浮かべる妓夫太郎。そんな状態でも調理ができるのは手際が良いからなのか…。
「たくっ…俺成分なんて今じゃなくても補給できんだろッ」
「何?誘ってんのか?」
「…どうせ今夜もヤるんだろ」
「勿論。お前をでろでろに甘やかすのが俺の本業だしな」
「いやそんな仕事はねぇぇ」
宇髄の言葉に否定の返答をする妓夫太郎だが、宇髄がチラリと視線を向けたその先には、頬を紅潮させている愛しい恋人の顔。その顔に宇髄は微笑みを浮かべ、囁き出す。
「妓夫太郎、好きだぜ」
「な、何だよ急に…」
「お前の顔も声も癖っ毛も、その芸術的な痣も全部全部愛してる」
「…外見だけかよ」
「勿論、お前の中身も愛してるぜ。照れ屋なとことかな」
そう告げて、妓夫太郎の頬にキスをする宇髄。微かに熱を帯びていたその頬は、宇髄からのキスで更に熱を帯び、妓夫太郎はその頬を手で抑え「アホか…」と呟く。そして、
「…アンタだけだよ。俺の全部好きだって…愛してるって言ってくれんの」
「ん。俺だけで十分だ。お前の全ての良さが分かんのわ」
「…高校ん時に告っときゃ良かった」
「俺も。お前が高校ん時に予約しときゃ良かった」
「予約って何だ予約って」
「在学中に手ぇ出すわけにはいかねぇからな。だから卒業までの予約って意味」
あの男から離してしばらく経った頃に妓夫太郎から告げられた。
「本当は、高校ん時アンタの事が好きだった」
その告白を受けて宇髄は、高校の時から自分と同じ気持ちでいてくれた喜びと、その時に自分のものにしていればあんな辛い目に合わせなかったという後悔が同時に押し寄せた。
「俺は、今でもお前が好きだけど?」
そう宇髄が本心を告げると、妓夫太郎は目に涙を溜めて宇髄を見つめてきた。そして「こんな汚い俺でも良いのか?」と…。そんな妓夫太郎に宇髄は微笑みを浮かべて、
「お前のどこが汚ぇんだよ。んな事言う奴は俺が爆破してやるわッ」
と、その逞しい腕で妓夫太郎の身体を抱き締めた。その瞬間、妓夫太郎の目に溜まっていた涙は一気に溢れ出した。溢れ出したのは涙だけではない。妓夫太郎の感情もまた一気に溢れて、
「俺も…まだ、アンタが好きだぁぁッ」
そう本心を告げて、その厚く温かい胸に顔を埋めた。
そして二人は恋人となり、宇髄のマンションで同棲をしている。因みに、妓夫太郎があの男に暴力を振るわれてまで離れなかったのは、宇髄への恋心で自暴自棄になっていたところを優しく声をかけられたからだと、心の傷が癒やされた後に教えてくれた。それを聞いた宇髄は「コイツ、俺のマンションから一歩も出さない方が良くね?」と危険な考えが思い浮かんだが、「…まぁ俺だけに執着するように存分に甘やかせばいいか」とまた別のベクトルで危険な考えに至り、今の溺愛っぷりに繋がる。
「ほら。夕飯出来たから離れろぉぉ」
「それ食ったらお前食っていい?」
「風呂は?」
「風呂入りながら」
「…しょうがねぇなぁぁ」
しょうがないと呆れ気味に言いながらもどこか嬉しそうな妓夫太郎に宇髄は微笑む。
その瞳が、晴天の空のように輝いている。
その輝きはもう二度と失わせないと、宇髄は心に誓った。