わん!ダフルラブ俺の名は「てんげん」。すれ違えば誰もが振り向く、きらびやでド派手なイカす男(犬)だ。見ろ。この手入れの届いた銀糸のような白毛。触れてみりゃさらっさらだぜ。この毛並みでどれだけの女を惚れさせた事か。そして何より…他の奴(犬)は決して持ってないこの宝石のような赤い瞳。俺の最大の自慢だぜ。この瞳で睨み付けりゃどんな野郎だってたじろぎ、この瞳で熱視線を送りゃどんな女だって惚れる。……まぁ、俺が熱視線を送るのはこの世でたった一人だけどな。
「てんげん…オメェは本当にモテモテだなぁぁ」
散歩から帰って早々、そう言いながら俺の頭を撫でてくるのは「妓夫太郎」。俺の"番"だ。決して"飼い主"じゃねぇ。
つか何だよ。俺がモテるのがそんなに気に食わねぇのか。ヤキモチか?可愛い奴だぜ。俺がお前以外を好きになるわけねぇだろ。そう告げるように俺は妓夫太郎の唇をペロペロと舐める。本当は口の中に舌をねじ込みてぇけど、照れ屋なコイツの為に毎回舐めるだけに留めてる。俺様偉い。
俺に唇を舐められて妓夫太郎は「くすぐってぇよぉ」ってメチャクチャ可愛い笑顔で俺の顔をわしゃわしゃ撫でながら引き離していく。いやまだ舐めたりねぇんだが。しょうがねぇから俺の顔を撫でてる手を舐めてやる。
「オメェ、まさかおやつ欲しいのかぁぁ?」
いんや?お前が欲しいんだが?
「しょうがねぇなぁぁ。ジャーキーやるなぁぁ」
ジャーキーは欲しいが俺は何よりお前が欲しいんだが?
そう熱視線を向ける…
だが恥ずかしがってんのか、俺の熱視線はスルーされた。
差し出されたジャーキーを頬張りながら、妓夫太郎の背中をジッと見つめる…
ずっと思ってた事があった…ずっと疑問に思ってた事があった…
それは妓夫太郎と会話していく内に俺の中でどんどん膨らんでいった疑問…
その疑問について思考する度に心の中がウズウズと疼き始める…
ハッキリさせねぇといけねぇ…
"番"としてハッキリと……
妓夫太郎ってよ、もしかして………
母乳出るんじゃね??
いや、妓夫太郎が雄ってのは分かってるぞ?分かってっけど、妓夫太郎から溢れるフェロモンつうの?母性つうの?何かその勢いでもしかして母乳出るんじゃねぇのか、て思ってな。身体付きだって、腰回りはあんなに細ぇのに、胸は割と膨らんでるように見えっし。出るだろあれ。うん。ハッキリさせねぇとな。
つうわけで、妓夫太郎が寝静まった真夜中に俺は決行した。
すぅすぅと可愛い寝息立てて、可愛い寝顔でベッドに寝てる妓夫太郎。腹を上に見せてるっつう事は俺様に気を許してる証拠だぜ。さてさて。んじゃ、確かめさせてもらいますか。
口を使って布団を捲りゃ、そこには無防備な俺様の番。服越しでも分かるエロい身体。ヤベ…下半身がムズムズしてきた。いやいや落ち着け俺。それはまだだ。先走るんじゃねぇ。俺は妓夫太郎を愛してる。だから大事に大切にしなきゃいけねぇんだ。妓夫太郎の気持ちが固まるまでちゃんと待つ。うん。
沸き立っていた欲情を抑え込んで俺は口を使って、今度は妓夫太郎のシャツを捲り上げる。
エロい腰だーエロい腹だーエロい胸だーヤベー
よし落ち着け俺。尻尾振ってる場合じゃねぇぞ。さっさと確かめなきゃなうん。
目標物に視線をロックする。締まりのいい肉のついた胸に突起した、桃色の突起物。ぷくっと膨らんだソレを俺はジッと凝視した。
ジュルリ…と涎が口から溢れる。ヤバイ。これはぜってぇ出る。え?何?雄なのに何でそんな美味そうな乳首してんだ?俺の番ヤバくね?
悶々とした気持ちが渦巻いてきて、再び俺の下半身はムズムズしだす。
落ち着け俺…落ち着け俺ぇぇッ!まだだ!まだ抑えろ!見ろ!妓夫太郎の可愛い寝顔を!見て落ち着…エッッロい寝顔してんな!ドチクショー!!
「んッ…んん〜…」
ヤベ!起きたか!?まだ確かめてねぇのに!!
そう焦ったが、妓夫太郎は少しだけ身動いだだけで、まだすぅすぅと眠っている。あぁ良かったわ。うん。焦ったおかげで俺の下半身落ち着いたわ。よし。これで確かめれる。
俺はベッドにゆっくりと乗って妓夫太郎に跨がり、その胸に顔を埋めていく。あ、スゲー良い匂い。妓夫太郎の匂いだ。うん。今は匂いを堪能してる場合じゃねぇな。気持ちを切り替えて、口から舌を出し、そのぷくっと膨らんだ乳首に落としていく。ペロッと舐めれば妓夫太郎は「んッ」と声を出してビクついたが、まだ起きる気配は無い。よしよし。そのまま乳首を口の中に含んでチュッチュッと吸い出す。
「んッ…ぁッ…」
…何かエロい声が聞こえた気がしたが、俺は吸い続けた。吸い続けるが、一向に母乳は出てこねぇ。おかしいな。こんなにエロい乳首なのに。もしかして刺激したら出るのか?そう思って口の中で舌を使って乳首を刺激していけば、妓夫太郎はビクビクッと身体を震わせてきた。まさか起きたのか?とチラリと視線を顔に向けると、まだ目をギュッと閉じている妓夫太郎。おそらくまだ眠ってる。まだ眠ってるんだろうが、何か頬が赤くなってきてやがる…
「ッぁ…ぁ、ンッ……」
……
ヤベェェ。ド派手にエロいんだが??何か匂いもエロくなってきてんだが?あれ?もしかして妓夫太郎発情してね?え?これってOK?え?交尾OK??
……とりあえず、乳首吸ってみるか。
「んんッ…んぁッ…はっ…ぁッ…」
……これはOKだな。間違いなくOKだな。うん。
熱い吐息を漏らす愛しい番に、俺の中で何かがはち切れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
妓夫太郎は妙な夢を見ていた。それは、銀糸のような美しい白髪を揺らしながら、自身に覆いかぶさるように跨がる見目麗しい男の夢。その男は妓夫太郎の胸に顔を埋めては愛おしそうに胸の突起物を口に含んで舌で愛撫していく。その感触に妓夫太郎は思わず声を上げ身震いをしてしまう。それはまるでSEXをしているかのような夢…
(誰だこれ…見た事ねぇ筈なのに……)
こんな見目麗しい男、一度見たら忘れる筈がない。だが記憶を辿ってもこの男を見た記憶などどこにも無い。
誰だ?一体お前は誰なんだ?
そう妓夫太郎が下目使いで見つめていると、男の瞳が妓夫太郎に向けられる。向けられたその瞳に妓夫太郎は思わず息を呑んだ…その瞳を妓夫太郎は知っていた。
1年前の雨の日に出逢ったその瞳…
『オメェ随分変わった眼ぇしてんだな』
『くぅぅん…』
『ん?何だ?オメェ自分の眼嫌いなのか?こんなに綺麗な眼なのに』
『くぅぅん?』
『自信持てよ。俺はオメェのその眼大好きだ。宝石みてぇに綺麗な眼でとびっきりの色男だぜ』
『きゃん!』
あぁそうだ。この瞳はてんげんの瞳だ…あんなに小さかったのに、こんなにでっかくなっちまうなんてなぁぁ。まさか立ったら俺よりデカくなるとか思わなかったわぁ。うん。
「てん、げ……」
不思議な夢と懐かしい思い出が織り混ざりながら、妓夫太郎は薄っすらと瞼を開いていく。目に映るのは自分の部屋の天井。意識も段々と夢から現実へと戻ってきて、背伸びをしようと身体を動かそうとしたが、何故か重い…重い上に何かがおかしい。
空気が直接触れる上半身…肌に触れるフサフサしたもの…そして、ハァハァと聞こえる熱い吐息…
妓夫太郎は頭を下に向け、自身の身体へと視線を移した…そこには…
「だぁぁぁぁッ!!てんげん!!何やってんだオメェはよぉぉぉぉッ!!!」
「わふっ!」
愛犬が無邪気な顔をして自身のズボンに手をかけて、引きずり下ろそうとしていた瞬間だった…妓夫太郎は慌ててズボンを掴み、引き上げようとするが、
「わふぅぅッ!」
てんげんは負けじとズボンを引きずり下ろそうとする…
「いやお前!本当何やって…てか何か胸ベトベトしてんだが!?は!?もしかして俺の胸舐めてたのかぁぁ!?」
「わふっ!」
「だぁぁもうぅぅ!!夜中は遊び禁止!!大人しく寝ろ!!」
「くぅぅぅんッ」
「くぅぅんッじゃねぇよ!あ!こら!ズボン引っ張んなぁぁ!!」
力強い愛犬の執拗な戯れに、妓夫太郎は夢の男と愛犬の瞳が同じだった事がスッカリ頭から抜け落ちていく。それが何を意味しているのか分からぬまま…。
「あぁもう!!ほら!添い寝してやっから大人しく寝てくれよなぁぁ!!」
「わふぅ〜!」
その日は何とか大人しく寝てくれました。