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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    隊士if宇妓、妓隊士化、色々捏造、何でも許せる方向け。
    書きたいものを書いた。最後にあとがき的なもの書いてます。

    ##宇妓
    ##隊士化if

    色とりどりの空を見つめよう全てが終わった。鬼舞辻無惨はもうこの世にいない。
    鬼殺隊の存在意義も無くなり、隊は解散した。

    『鬼に恨みはねぇ。鬼狩りが性に合ってた。んで賃金も貰える。だから俺は隊に入ったんだ』

    そう言っていた鬼殺隊屈指の男・謝花妓夫太郎は、着流しに身を包んで遠くの空を見つめていた。

    「こんなとこに居たか」

    妓夫太郎の背中に語り掛けてきたのは、音柱・宇髄天元。彼もまた、着流しに身を包んでいた。
    彼等がもうあの服を着る事はない。長年着続けたあの黒い隊服を。

    「何の用だぁ、色男ぉ」

    宇髄に声を掛けられても、妓夫太郎は後ろを振り向く事をせず、ただじっと空を見つめ続けている。

    「迎えに来たに決まってんだろ」
    「誰を」
    「いや、お前以外に誰がいんだ」

    呆れた口調でそう答えると、宇髄はゆっくりと妓夫太郎へ歩み寄って行く。

    「約束、守ってもらうぞ」
    「…なぁにを約束したっけかぁ?」
    「お互いに生き抜いて全てが終わったら、俺の嫁になるっつう約束」
    「…あぁ。そういやそうだったっけかぁぁ」
    「梅にはもう話つけてきてる」
    「いや早ぇよ」

    いつものように会話をする二人。だが、それでも妓夫太郎は宇髄に振り向く事をしなかった。

    「まぁアイツの嫁の貰い手が見つかるまではうちで置いておけるし、花嫁修業だって雛鶴達につけてもらえっから一石二鳥…」
    「…なぁ色男ぉ」
    「ん?」
    「オメェはよぉ…女房三人と仲良く生きろや」
    「…は?」
    「女房三人とガキ作って、家族で和気あいあいと暮らせってぇの」

    妓夫太郎のその言葉に宇髄は両眼を見開き、妓夫太郎を凝視する。
    何故妓夫太郎はそういう事を突然言ってくるのか…宇髄は理解できなかった。

    「冗談言ってんじゃねぇぞ」
    「冗談じゃねぇよ。本気だぁ」
    「キレんぞ」
    「どうぞご勝手に」

    二人の間に風が吹く。銀糸のような艶のある宇髄の白髪と、うねりのある妓夫太郎の漆黒の髪がゆらゆらと揺れる。髪を靡かせる風の音だけが二人の耳に聞こえる。

    「…んじゃ勝手にすんぞ」
    「どうぞ」

    沈黙を破って言葉を口にした宇髄は、何の迷いも無く、妓夫太郎を後ろから抱き締めた。抱き締めては、妓夫太郎の首筋に顔を埋めていく。

    「何してんだよぉ」
    「勝手にしてるが?」
    「そういう意味で言ったんじゃねぇんだよなぁぁ」
    「…妓夫太郎、こっち見ろよ」

    抱き締めても決して振り向く事の無い妓夫太郎に宇髄はそう囁く。
    妓夫太郎は考えた。この男は、自分が振り向かぬならこのまま抱き締め続けるだろうと。
    ハァ…と小さく溜息をつき、妓夫太郎は渋々と首を宇髄へ振り向かせる。

    「…これで満足かぁ?」

    宇髄の瞳にようやく映った妓夫太郎の顔…眉間にシワを寄せ、迷惑そうな表情を浮かべたその顔には、左眼に大きな傷…それは最後の戦いで、宇髄を庇って負った傷だった。
    宇髄の脳裏に蘇るのは、傷を負った直後にニヒッと笑って告げられた言葉…

    『その綺麗な顔に傷が付かねぇで良かったわぁ』

    自分の顔に傷が付くぐらいどうでも良かった。手足が斬り落とされても構わないと思っていた。命を賭けた戦いだ。何でも捨てる覚悟はあった。だが、愛する男が自分を庇って顔に一生消えない傷を負った事だけはどうしても耐えれなかった。
    「バカタレッ…」と弱々しく吐いた言葉は、庇った妓夫太郎へなのか…それとも、庇われた自分へなのか…

    「ほらなぁ。まぁた、んな顔する」
    「あ?」
    「俺の顔見っと、顔歪めんだろぉオメェ。だから振り向かなかったってぇのによぉ」
    「別にお前のせいじゃねぇよ。自分の不甲斐無さに呆れてんだ。俺がお前に庇われる状況を作り出さなかったら…」
    「ありゃ俺が勝手にやっただけだ。オメェが気にする事じゃねぇよ」
    「それでもなッ…」
    「俺はオメェのその綺麗な顔を守れて本望だぜぇ?」

    キヒヒッと歯を見せながら笑う妓夫太郎に、宇髄は深い溜息をつく。

    「溜息つくなよなぁ。左眼だけで済んだんだ。ツイてるほうさ、俺は」

    命を落としてもおかしくない戦いだった。その戦いで左眼を失うだけに留まったのは確かに運の良い方だろう。何より、妓夫太郎が庇わなかったら宇髄の命は今ここに無かったかもしれない…

    自分も愛する男も今生きている。生きて、体温を感じ合えている。
    そんな恵まれた立場だというのに、いつまでも後悔し続けるなんて自分らしくないか…と宇髄はフゥと一息つき、己の気持ちに方をつける。

    「…分かった。もうお前の顔を見て、自分の不甲斐無さに打ちひしがれたりしねぇよ。だから、何の心配もなく俺の嫁になれ」
    「それとこれとは話が別だなぁぁ」
    「オイ…」

    傷を見ると顔を歪めてしまう自分が原因で妓夫太郎は嫁にならないと言ってきたと思っていた宇髄は、それを否定され困惑する。
    それなら理由は何だ?まさか単純に自分への気持ちが冷めてしまったのか?と思考しては落ち込み、妓夫太郎の首元に項垂れる宇髄。そんな宇髄の様子に妓夫太郎は面白そうにヒヒヒッと声を出しながら笑い出す。

    「安心しなぁ。オメェの事が嫌いになったわけじゃねぇよぉ。寧ろ変わらず愛してらぁ」

    自分の思考を見透かされていた事と、変わらず愛してくれているという言葉に宇髄は顔を上げ、視線を妓夫太郎へと向ける。視線を交じらせようと思ったが、それは叶わなかった。妓夫太郎の視線は再び遠い空へと向けられていたからだ。その視線の先に宇髄も視線を向ける。
    何もない。ただ、広い青空が広がっているだけ。

    「…何見てんださっきから」
    「何にも」
    「何にも?」
    「おう。何にも…何にも見えねぇんだよなぁぁ…この先よぉぉ」

    それが視界の話ではない事を宇髄は直ぐに察した。
    妓夫太郎の瞳に映っているのは過去…妓夫太郎が鬼殺隊で過ごした血みどろの日々だ。
    妹の幸せの為に…ただその為だけに鬼を狩り続けた。狩って狩って狩りまくって、返り血を浴びながら狩り続けた日々。
    そしていつしか自分は笑いながら鬼を狩るようになっていた。その姿はまるで鬼さながら…

    「…俺はよぉ、奪う事以外で幸せを得る方法知らねぇんだよなぁ」

    今までも鬼の命を奪ってきた。それで得たのは金。その金で妹に不自由ない暮らしを与えれていた。それで幸せだった。鬼から取り立てて暮らしていく…それが自分"妓夫太郎"なのだからと。
    だが鬼が居なくなった今、自分は一体誰から取り立てれば良いのか…誰から何を奪えば良いのか…どうやって幸せを得れば良いのか…
    戦いに置いては器用だった自分が、普通の日常を送るのにはこんなにも不器用だったのかと、妓夫太郎は自分自身に笑いが込み上げてきた。

    「ヒヒッ…ヒャハハハッ!やぁっぱ無理だなぁぁッ。俺が幸せになるなんてよぉッ」

    自分は幸せになってはいけない。奪い続けるしか能の無い自分が人間社会に溶け込む等決して無理だ…そう自分の中の鬼が囁いている気がした…。
    妓夫太郎は視線を宇髄へと向ける。

    「最後の頼みだぁ。梅の事よろしく頼むぜぇ」

    妹は人付き合いもまぁまぁできるようになった。きっと自分が居なくてもやっていける。何より、自分が唯一信じたこの男に任せるなら間違いはない、と妓夫太郎はニヒッと笑って宇髄へ告げた。だが、

    「んな頼み聞くわけねぇだろ、バカタレ」
    「あぁッ?」

    宇髄は即答で妓夫太郎からの頼みを却下する。

    「何が幸せになるなんて無理だ、だよ。んなもん俺様が幸せにしてやるに決まってんだろ」
    「随分と自信満々だなぁ色男ぉ」
    「自信無かったら、嫁に来いなんて言わねぇよ」

    ケラケラと笑っていた妓夫太郎だが、宇髄の真剣な眼差しでその笑いは徐々に消えていく。
    真っ直ぐな赤い瞳が見つめてくる。妓夫太郎はその瞳に吸い込まれては、片方だけとなった天色の瞳で見つめ返す。

    「…俺は性悪だぜぇ?」
    「不器用なだけだろ。俺や梅には素直だしな」
    「…身体だって肉付きわりぃし、抱き心地最悪だろ?」
    「んな事一度たりとも思った事ねぇよ」
    「…身体中痣だらけ」
    「個性あって俺は好きだって何回も言ってんだろうが」
    「オメェ俺の事好き過ぎかよ」
    「お前の全部愛してるわ」

    宇髄は真剣な眼差しでそう言い切る。それは宇髄のどこまでも真っ直ぐな愛。その愛は妓夫太郎の閉じかけていた心の扉の隙間に入り込んでは、再び扉を開かせていく。ゆっくり、ゆっくりと…それでも確実に。
    その扉が開く度に、ずっと心の中で囁いていた鬼の声は妓夫太郎には聞こえなくなっていった。そして、鬼の声ではなく、温かい何かが自分の心を満たしていくのを感じた妓夫太郎は、瞳を震わせて宇髄に問い掛ける。

    「…つまりオメェは、俺は幸せになっていいって言ってんのか?」
    「当たり前だろが」
    「…俺は奪う以外に幸せになる術を持ってねぇ男だぜぇ?」
    「何言ってんだ。とっくにお前は持ってんだろうが」
    「んあ"ぁ?」
    「"愛し愛される"ってのは幸せになる術だろ。妹の事を愛して、俺の事も愛してくれて…そして俺達はお前を愛してる。だからお前は幸せになる術持ってんだよ。とっくの昔にな」
    「…んな事、普通の事だと思ってたわ」
    「それが幸せなんだよ。普通の事がな」

    妓夫太郎にとってそれは目から鱗だった。何気ない事…妹を想う事、宇髄を想う事が、幸せへの鍵であると…。その鍵は既に自分の手の中にあった事も…。

    「…幸せに、なっていいのか、俺」
    「だからそう言ってんだろ。あ、でも、俺以外の奴の手で幸せになんのは禁止な?」

    そう優しく微笑みかけてくる愛しい男を、妓夫太郎はジッと見つめてはハハッ…と小さな笑いを溢す。そして、

    「んじゃぁ、しっかり俺を幸せにして貰わねぇとなぁ。なぁ、天元」

    妓夫太郎は笑みを浮かべながら宇髄へと告げた。眉を八の字に下げた少しはにかんだ笑顔だったが、その笑顔からは幸せが溢れていた。それは妓夫太郎が初めて見せた無邪気な笑顔。年相応な笑みを浮かべる事がなかった妓夫太郎の心からの幸せな笑顔だった。
    宇髄はこの笑顔はこの先必ず守っていくと心に誓い、微笑みを向けていく。その瞳がもう、何もない空を見つめないように。色とりどりの空を見つめていくように。







    あとがき的なもの
    宇氏に傷を残していいのは妓夫ちゃんだけ!的な心情で。そして、宇氏庇って眼を失う隊士妓、幸せになる事が分からない妓夫、ようやく満面の笑顔を見せれるようになった妓夫が書きたかった。ちなみにこの後、宝石付きの眼帯を宇から貰う妓。
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