お前の魅力は俺が知ってる吉原近くの出会茶屋で、密会をする二人がいた。
銀糸のような艶のある白髪の美丈夫鬼殺隊音柱・宇髄天元は、色鮮やかな着流しに身を包んで密会の部屋へと入る。そこには、小柄な者が紺色の着流しに身を包んで座っていた。
「お前、また男物着てきたのか?」
「はぁ?俺が着るんだ。男物に決まってんだろぉ」
そう眉間にシワを寄せ、甲高い声で反論してきたのは上弦の陸・妓夫太郎。姉弟鬼の姉である。
「いや女物着てこいよ。勿体無ぇな」
「俺が似合うわけねぇだろぉ?」
「似合うに決まってんだろ。俺の目を疑うのか?」
宇髄は妓夫太郎の前に片膝をついて、妓夫太郎の顎をクイッと指で上げ、視線を自分に向けさせては、その宝石のような赤い瞳を見つめさせる。
真っ直ぐなその瞳が嘘をついていないと察した妓夫太郎は、それが何だか妙にムズムズとして視線を逸らしていく。
「今度買ってきてやる。お前に似合う服をな」
そう微笑みを浮かべて宇髄は妓夫太郎の唇に唇を重ねる。恋人のような甘い口づけを贈られ、妓夫太郎の眉間には深いシワが刻まれてしまう。
「オイオイ。眉間にシワ寄ってんぞ」
「…るっせぇ」
プイッとそっぽを向く妓夫太郎に、宇髄はフゥ…と溜息をつく。
(まだ慣れねぇか…)
この恋人はどうもこういった甘い行為に耐性が無いらしく、不機嫌になってしまう。流れで身体を重ねた事はあるが、終わった後はかなり気が沈んでいた。
自分みてぇな醜女を抱いて気持ち悪かったろ?と…
勿論宇髄はそんな事を思っていない。寧ろ愛おしくて何度も何度も抱きたいと思った。そう本心を告げても、どこか疑わしい目で見つめていた妓夫太郎…
(全然醜くねぇのに…寧ろ可愛い顔だろ)
特徴的な痣のあるその頬を撫でる。宇髄にとってその痣も個性的で愛しいものだ。その痣を親指で優しくなぞるように触れると、その手を払い除けられ、宇髄は再び溜息をつく。
「悪かったな。急に触れたりして」
「別に…」
「お前に触れていたくてついやっちまうんだ」
「……」
本心を語るも妓夫太郎はずっとそっぽを向いたまま。眉間には変わらず深いシワが刻まれ、口先は尖って不服そうな表情だ。そんな表情も可愛いと思えてしまうので、自分は完全に取り立てられちまったなぁ…と、宇髄は苦笑を浮かべる。
(残念だが、今日は情事は無理だな)
残念がるのは欲望を吐き出せない為ではない。情事の最中の妓夫太郎はいつも以上に愛らしくて、幸せそうにしていたから。そんな妓夫太郎を今日も見れると思っていた宇髄だが、妓夫太郎が乗り気で無いのなら仕方がないと諦め、くるりと背を向けてはあぐらを組んで座りだす。
「ど、どうしたんだよッ…」
背を向けられた妓夫太郎はようやく視線を宇髄へと向け、戸惑いながら語り掛けてきた。
押して駄目なら引いてみろとはよく言ったものだ、と宇髄は自身の咄嗟の行動に感心し、妓夫太郎に見えないようクスッ笑ってその問いに答えていく。
「俺の顔見たくねぇんだろ?だから、ずっとそっぽ向いてんだろ?」
「なッ…!んなわけねぇだろぉ!オメェの綺麗な顔はずっと見てて飽きねぇくれぇ好きなんだからなぁッ!」
勿論宇髄はそんな事を考えていない。考えていないがちょっとしたS心が働いてしまった。その為に妓夫太郎は取り乱して本音を叫び出す。それは宇髄にとって嬉しい本音。
(クッソ…!可愛過ぎんだろッ!)
ニヤけそうになる口元を引き締め、今にも抱き締めたい衝動を必死に抑えていく宇髄。もう少しこっちがつんけんした態度を取ったらもっと可愛い事してくれんのかなぁと、更にS心を働かせていく。そんな宇髄の思惑など知らない妓夫太郎は、自分が宇髄を怒らせてしまったと思い込み、眉を下げてしまう。どうしたら宇髄はこっちを向いてくれるのか…どうしたら許してくれるのか…頭をグルグル回らせて考え込むが答えは一向に出てこない。本当にどうしたら…
答えが一向に出ないまま、妓夫太郎は身体を本能のまま動かしていく。その大きな背中に抱きついては、腕を腰に回してその大きな逞しい身体をぎゅっと抱き締める。
背を向けてほしくない。どこにも行ってほしくない。もっと、側にいてほしい…その一心だった。
背中に暖かな感触が伝わり、宇髄は視線を背後に向けた。そこには愛しい恋人が己の背中に顔を埋めている愛らしい姿…。
「どうした?急に」
「ぉ、オメェが言ったんだろっ。俺に触れていてぇってっ。だからッ…」
「そうだな。俺はお前に触れていたい」
優しい声色で語り掛けていた。だがもう限界だった。愛している女が背中に抱きついているのだ。宇髄の欲情は爆発寸前だった。
腰に回された手を取り、そのまま器用にくるりと身体を回しては、背中に抱きついているその小柄な身体を畳に押し倒す。
「へ…」
突然視界に美丈夫の顔が現れ、妓夫太郎は目を丸くした。煌めく白髪を揺らしながら妖艶に微笑む美しい顔に、視線が釘付けとなる。
「どうした?お前の大好きな顔だぞ?」
「ッーー!」
自分の本音を語られ、妓夫太郎は顔を真っ赤に染めていく。耳まで真っ赤に染めて…首との色合いがハッキリとしている。可愛らしいその反応に宇髄は口角を上げてにんまりと笑う。
「…やっぱお前、男物は着るんじゃねぇよ。胸すぐ開けちまうだろ」
押し倒された際に妓夫太郎の着流しは開け、胸元を顕にしていた。サラシを巻いていはいるが、その豊満な谷間はくっきりと見え、男を誘うには充分なものだった。その谷間に宇髄は唇を落として吸い付き、淫靡な音を鳴らしていく。
「んッ!」
宇髄の唇の感触に妓夫太郎はブルッと身体を震わせ、瞼をぎゅっと閉じる。その隙に宇髄は妓夫太郎の帯を解いて着流しを脱がせては、サラシも解いていく。
「ッぁ…ぅ、宇髄ぃッ…す、すんのかぁ?」
「勿論。もう我慢できねぇよ」
「ぉ、俺、こんな醜女なのに…」
「醜くなんかねぇよ。お前は可愛いし綺麗だ」
そう宇髄が本音を告げれば、妓夫太郎は自分を卑下する言葉を言わなくなった。照れたように視線を逸らすその仕草で、ちゃんと自分の言葉が伝わったのだと宇髄は察し微笑む。
それで良い。お前が自分の魅力に気付かねぇんだったら、俺が気付かせてやる。
自身も着流しを脱いで、その鍛えぬかれた肉体を顕にする。自身の下に組み敷く惚れた女は、頬を紅潮させて、恥じらうように胸を腕で隠し、内股になって陰部を隠している。女としての自覚が出てきたのかと、その姿にそそられ、宇髄は思わず舌なめずりをする。
「ぅッ…な、何か…オメェの方が鬼っぽいんだがぁ…」
「男は誰だって惚れた女にはこうなっちまうよ」
そう告げて、宇髄は妓夫太郎の唇に唇を重ねていく。舌を絡ませ合う濃厚な口づけ。その口づけを妓夫太郎は眉間にシワを寄せる事なく受け入れ、宇髄に委ねていく。
(素直になってくれたな)
甘い口づけに瞳を蕩けさせていく妓夫太郎に宇髄は微笑みを浮かべる。口づけを交わしながら、その小さな身体を愛撫し、妓夫太郎の体温を上げさせていく。
「んッあ、ふァあッ…ぅ、ぅずいぃぃッ…!」
「妓夫太郎、愛してる」
「んあぁァッ…!ぉ、ぉれもぉぉッ…愛、して、るぅぅッ…!」
名を呼び愛を囁きながら、二人は今宵も蜜を混ぜ合う。周りから許されぬ事だと思われていても…もう止められないのだ。二人の想いは、決して…。