寝惚けた先に「おぉ〜ぃお師さぁ〜ん起きろぉぉ」
「んッ…」
小鳥がさえずる朝…音柱・宇髄天元は連日の激務によって未だ深い眠りについていた。そこにやって来たのは、宇髄の継子の妓夫太郎。既に隊服に身を包んだ妓夫太郎は宇髄を起こそうと声を掛けるも、宇髄は反応こそしたが、まだ瞼を開かず布団に包まり起きようとしなかった。そんな宇髄に妓夫太郎はハァ…と溜め息をつく。
「雛鶴さんが美味ぇ朝飯作って待ってんぞぉ。ほら、早く起きろってぇぇ」
宇髄の嫁の一人の名を口にしながら、妓夫太郎は宇髄の布団を剥ぎ取ろうと布団に手を掛ける。嫁の名を口にすれば起きるだろうと思っていた。立派な夫である宇髄なら弟子の自分の為に起きずとも、嫁の為ならば起きるだろうと思っていた。だが、その考えは速攻で裏切られる。妓夫太郎は布団を握ったその手を宇髄に掴まれ、そのまま布団の中に引き摺り込まれていってしまった。
「ちょっ…!」
突然の事で混乱してしまう妓夫太郎。身体は宇髄の鍛えられた肉体によってその自由を奪われてしまう。背後からガッシリとホールドされ抵抗すらできず、妓夫太郎はただ戸惑う事しかできない。
「お師さん!?寝惚けてんのかぁ!?」
「ん〜……」
「ちょっ!お師さん…ッ」
声を荒げ起こそうとした…だが、その声は途切れてしまう。何故なら、自身の肌に温もりが触れてきたから。
キッチリと着こなした隊服を乱されながら、妓夫太郎はその素肌を宇髄の手に犯され始める。
「ッー!ちょっ、お師さんッ…!」
いつの間にかボタンを外され、上半身を開けさせられてしまった妓夫太郎。細い腰回りを淫らな手付きで撫で回され、思わずビクッと身体を震わせてしまう。
「ちょっ…あッ…!」
宇髄の淫らな手付きで身体に熱を帯びはじめた妓夫太郎は、頬を紅潮させ始め、吐息を熱くしていく。そんな妓夫太郎に構わず、宇髄は淫らに撫で回す手を徐々に上へ移動させていき、細い身体の中でも肉付きの良いその胸へと進めていく。
「ひっ…あッ、ゃ、ゃめッ…!」
胸へと到達した手は、その膨らみを優しく揉みながら指を細かに動かし、刺激を与えていく。その刺激を気持ち良いものと感じた妓夫太郎の身体はビクビクッと小刻みに震え、触れていない桃色の突起を勃たせてしまう。突起を襲うジンジンとしたむず痒い刺激に妓夫太郎は表情を歪ませる。
「ッ〜!ぃ、ぃい加減に……」
妓夫太郎が声を上げようとした時、彼の首筋に生暖かい感触が伝わる。ちゅっという音と共に伝わったその感触が、宇髄の舌であると気付くのにそう時間はかからなかった。
まるで男女が交り合うかのような宇髄の行為。
きっと嫁さん達とこういう事をやってるんだろうなぁと思えば、妓夫太郎の胸はズキンッと痛む。
「ね、寝惚けんのも大概にしろよなぁぁッ!嫁さんと勘違いしてんじゃねぇよッ!よく見ろッこの色ボケ師匠ッ!」
寝惚けて嫁の誰かと勘違いをしている。絶対にそうだと思い、妓夫太郎はホールドされた身体を何とか動かそうと必死にくねらせる。
このままだと傷付いてしまう。自分も、師匠も……
そう思ったのに……
「…別に勘違いしてねぇよ。妓夫」
耳に吹き掛けるように囁かれた低音の声。そして、その声で呼ばれる自分の名……その声は寝惚けている声ではなく、ハッキリとしたもので、妓夫太郎は思わず目を丸くした。
「お前だって分かっててやってんだ」
「へ……」
「……まぁ、寝惚けてたのは確かだけどな」
淫らに撫で回していた手が止まる。それと同時にぎゅっと抱き締めてくる逞しい腕。先程とは違う暖かな温もりが妓夫太郎を包み込む。
「お前と結ばれる夢を見た。その続きと思った。悪かったな」
「……は?むす、ばれ……?」
「お前が俺だけのもの…俺の愛しいもんになるって事だ」
最初宇髄の言葉が理解できず妓夫太郎は困惑した。だがその意味を理解した時、その言葉に心臓が高鳴る。ドクンッドクンッと激しく、興奮していくかのように。心臓が激しさを増せば、熱も身体中を駆け巡り、発火してしまいそうな程の熱を帯び始める。
胸の奥が熱い……熱くて、溶けてしまいそうだ……
妓夫太郎はゆっくりと顔を後ろへと向ける。
怖かった。師匠がどんな顔をしているのか怖かった。でも、それでも、ちゃんと見ないといけないと思った。告げられた声が、真剣そのものだったから。
振り向いた先、青い瞳に映したのは、自分を見つめる真っ直ぐな赤い瞳だった。その瞳に吸い込まれるように、妓夫太郎もまたその赤い瞳を見つめた。
「なぁ妓夫…」
「へ?あ、な、何…?」
「……口づけしていいか?」
「へ?く、口づ……」
返事をする間もなく、妓夫太郎は口を塞がれる。宇髄の唇によって。
初めての口づけ。恋愛をする暇のなかった妓夫太郎にとって初めての口づけは、初恋の相手だった。
自分の気持ちを悟られていた?それで揶揄っている?
一瞬そう思ったが、ねっとりと絡まってくる舌が揶揄い等ではないと告げているように感じた。その愛撫するかのように絡まる舌は、淫らながらも優しくて、とても心地良いものだったから。
「んっ、あっ…あふぅ、んあっ、んんっ…」
頭からつま先までが蕩けるような濃厚な口づけに、妓夫太郎は目をとろんと蕩けさせ、熱い吐息を隙間から漏らしていく。
嫌じゃない。寧ろ嬉しい。想いを寄せる師が自分を求めて口づけをしてくれている事が。
その抑えきれない気持ちから、妓夫太郎は自らも舌を絡ませていく。まだ辿々しいその絡みに、宇髄は目元を細め、唇と唇の隙間が無くなるように深く唇を重ねる。
「んんっ……んッ……」
力強くそれでいて優しく抱き締められながら、妓夫太郎はその深い口づけを受け入れる。
もしかしたら、遅い自分を気にして嫁の誰かが来るかもしれない。この口づけを見られるかもしれない。
そう思っても、妓夫太郎にはもうこの口づけを止める事はできない。
正夢にしてあげる、と…自分と結ばれたというその夢を、今、この場で。
誰にも邪魔をされぬまま、二人は口づけを交わし合う。互いの気持ちを伝え合うように……。
「雛鶴さーん!天元様、妓夫太郎君とちゅっちゅしてましたー!」
「あら。遅いと思ったら」
「天元様、やっと妓夫太郎君に想い告げれたんですねー!良かったです!」
「本当にねー」
宇髄の気持ちに気付いていなかったのは、妓夫太郎だけだったかもしれない……。