鍛錬のお手伝い『柱』
それは鬼殺隊の主軸。常に己を高め、精進しなければならない存在。
音柱・宇髄天元もまた己を高めていた。

「っ…ふっ、ふっ」

任務のない日中、自身の屋敷の外庭の影で、己の身体を鍛えあげる。
まるで丸太のような二の腕。その腕一本で己の身体を支えては上げ下げの動作を行う…所謂、片手腕立て伏せを呼吸を整えながら繰り返す宇髄。その艶肌に大量の汗を伝わらせながら、ひたすら自己鍛錬に励む。
そんな宇髄の元にやって来たのは、鬼殺隊女性隊士謝花妓夫太郎。鍛錬に集中している宇髄に声をかける事なく、首を傾げて背後から見つめ続けている。
と思いきや、何かを思い付いたかのような表情を浮かべ、妓夫太郎はニヤァと笑みを浮かべた。そして……

「おりゃぁぁッ」
「ん！？」

その場から飛び跳ね、トスンッと宇髄の背中に跨る妓夫太郎。
妓夫太郎が自分の元にやって来ていた事は気付いていた宇髄だが、突然の妓夫太郎の行動に目を丸くし、背中へと視線を向ける。

「何やってんだお前」
「んん〜？柱の鍛錬の手伝いだぞぉ〜。ほら。俺が乗っかってっから負荷がかかって、もっと鍛えられんだろぉ？」

ニシシッと意地の悪く、それでいて楽しそうな笑みを浮かべる妓夫太郎。自身が重石代わりのつもりらしい。まるでお馬さんごっこで遊んでいる無邪気な子供のように足を揺らしながら、「ほらぁもっともっと頑張れぇぇ」と宇髄の背中をペシペシと叩き、鼓舞激励する。……だが、

「…いや、お前じゃ米粒程も負荷にならねぇわ」
「なぬッ！？」
「いつも背負ってっし」

ニヤつく妓夫太郎に、お返しと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべる宇髄。
小柄で胸と尻以外は痩せている妓夫太郎が背中に乗ったとしても、宇髄にとってそれは全く苦ではなかった。寧ろ、好意を持つ女に背中に乗られているのだから別な意味で元気に……この話はまた後でするとしよう。
言葉通り、宇髄は先程と全く変わらない…寧ろ速度を上げた片手腕立て伏せを妓夫太郎に見せ付けてきた。無論余裕の笑顔で。
そんな宇髄に妓夫太郎はむむむッと顔を顰めていく。
少しでも宇髄の役に立ちたいと思い、自身が重石になる事を思い付いたが、それが全く意味が無い……。ならばと次に閃いたのは、

「わかったぞ柱ぁ！」
「ん？」
「岩柱連れてくれば良いんだなぁッ！」

無邪気な笑顔で自分より遥かに身体の大きい、間違いなく重石になるであろう人物を口にした……。

「バカタレ！！俺を殺す気か！！」

流石の宇髄も岩柱・悲鳴嶼行冥が背中に乗るのは…いや、おそらく宇髄ならできなくはないだろうが、自分の鍛錬の為に他柱の手を借りる訳にはいかないので、ピョンッと自分の背中から飛び降り、何処かへ向かおうとする妓夫太郎を必死に捕まえ止めた。

その後……


「柱ぁ後五十だぞぉ〜」
「ほらほら。早く済ませてよ、筋肉達磨」
「だぁぁッ！梅！！俺様の鍛錬の邪魔すんだったら退け！！」
「絶対ヤダ」

妓夫太郎と、妓夫太郎が心配で様子を見に来た妓夫太郎の弟・梅を背中に乗せ、時折神経を逆撫でする梅の言葉にイラつきながらも宇髄は腕立て伏せを続けてた。
そこに…

「わわわッ！何やってるんですかー！？」

宇髄の嫁の一人・須磨が宇髄の様子を見に来ては、今の状況に驚愕の声を上げた。そして、

「私も一緒に乗せてくださーーーい！！！」

まるで戯れてくる子供のように宇髄の背中にトスンッと乗る須磨。重石が増え、宇髄は一瞬「ぐぅっ…！」と鈍い声を発したが、その後持ち直しては鍛錬に励んだ。

須磨がまきをと雛鶴に説教をされた事は言うまでもない。