覚えている中で一番古い記憶はでっぷりと腹部に脂肪を纏い見るからに豪華な衣類で着飾った老人が、肋が浮いている痩せっぽちで裸という正反対の格好をしたオレの体に刃を突き立て、じわりと滲んだ血液を舐め、歪んだ笑みを浮かべ賞賛をされた初めて身を売った日の事だろうか。
『おぉ、まるで本物の桃の果汁を啜っているかのようだ!まさに幸福の味だ!』
そうか。オレは幸福の味がするのか。何よりだな。
白い何も無い部屋にむせ返る程甘い桃の香りがする。一部屋に集められた見目麗しい少年少女は〝出荷待ち〟の者達だ。
彼女達は桃娘と呼ばれ、離乳後から桃と水だけを与えて育てられている。その体臭は桃の香りを放ち、体液は甘く、病いに効くとされ、薬または性玩具として存在する。
しかし皮肉な事に病いに効くとされる桃娘自体は栄養の偏りのせいで体が弱く、心臓に負担がかかると命を落としてしまう確率も高く、一度の性交で亡くなる事も多い。
あまりにもコストパフォーマンスが悪く、クレームも後を絶たない。考えた店の人間は、挿入を禁止としてそれ以外の死なない程度の行為に価格を設定し〝味見〟と称して一時間制で少年少女を売った。何度か通い詰めて、諸注意を聞いた上で尚〝味見〟以上を求め大枚をはたいた者にのみに〝出荷〟されていく、と〝出荷〟されていった二つほど歳上の姉のように慕っていた少女は言っていた。
平時は一室に全員纏められ何をするでもなくただぼんやりと過ごし、〝味見〟の際にだけ個室に移動する。
常連客の男はオレを大層気に入っているようで月に何度も訪れてはオレを貪り、余った時間で外の話をしてくれた。