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    Azuma_kuzuko22

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    Azuma_kuzuko22

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    毒にも薬にもならないキョンソン&スンアのお出かけss

    #熱血司祭
    hot-bloodedPriest

    Your Guardian (Angel) ひどく疲れた。
     オフィスチェアに深く凭れるも、自慢の発音でストレスを口に出す気力すらない。
    「いや、普通にキツい……肌荒れヤバい……」
     ブツブツ呟きつつ、キョンソンは自分でも知らぬ間にスマホの呼出しボタンを押していた。
    「あ、スンア? ううん、仕事じゃないの。ねえ、今日ランチ出てこられる?」
     何でも奢ってあげる、と続けようとしたセリフは電話口の『はい、喜んで!』という居酒屋か出前のバイトみたいな元気な声にかき消された。知らず口角が上がる。小動物じみたキラッキラの笑顔が思い浮かんで、墜落間際だったキョンソンの気分はかろうじて持ち直した。
     だが三十分後、検事は待ち合わせの定食屋に現れたスンアのブラウスに悲鳴を上げることになる。

    「えーん!! なんでよぅ、わたしが買ってあげようと思ってたのに!」
     それは先日、ふたり連れ立ってショッピングに行った折、スンアが最後まで買うか迷っていた淡いグリーンのシフォンブラウス。
     話題のアウトレット、ティーサロン、ワインバー、果ては場末のゲームセンター、バッティングセンターまで、二人であちこちお出かけしては、この年下の友人に好きなだけご馳走してプレゼントする。それが常時ストレス爆弾を抱えまくりのパクキョンソンにとって最大の息抜きなのだった。
     生きがいを奪われたような気持ちで、食堂の机に突っ伏した。ゴン、となかなかに大きな音がしたが、鍛えられた額は特段痛むこともない。長い巻き髪が、決して美しくない机にふわりと着地した。
    「え〜、いつも悪いですよ」
     そう言って眉を顰め、こじんまりした顔立ちの若手刑事は注いだ水をキョンソンの顔の横に置く。
    「それに検事さんに買ってもらうと、もったいなくて普段着られなくなっちゃうもん」
    「え、そうなの? 全然気にしなくていいのに」
     気を取り直して、机から頭をテイクオフ。やってきたジャージャー麺をかき込む。検事も刑事も早食いの人種が多いが、二人もその例に漏れない。
     咀嚼の合間、キョンソンはリスのように膨らんだスンアの両頬を見つめる。二人で最後に遊んでから、特に怪我はしていないようだ。
    「ねえ、何かあったら一番に言うのよ。わたしが絶対に何とかしてあげるんだから」
     うんうん、とスンアはニコニコしながら麺を頬張っている。本当に分かってるのかしら。

    「すぐ失くしてしまいそうなものほど、なんであんなに輝いて見えるんだろうな」
     いつだったか耳にした暴力神父のその言に、「はあ? 出来の悪いポエムか? なに言ってんのよ」と返すはずだったキョンソンの唇が発したのは「わかる」の噛みしめるようなひと言だった。
     いつだったかあの子が血濡れになって、この腕の中で震える息を吐いていた。抱いた肩の頼りなさを、薄れゆく命の灯火を、その絶望を覚えている。きっと自分以上に、神父はそれを身に染みて知っている。
     あのとき彼の視線の先には、頬を輝かせたもう一人の神父がいた。若い彼の慈しみ深さに、罪を背負った神父は救われている。同じく罪人たる自分は、彼女の正義に。
    若い彼と彼女の中に、自分たちは己のあるべき本分を見出そうとしているのだ。一度は社会の暗部を覗き、身を浴しもした自分たちは。

     キョンソンは、頬を膨らませてひたすら麺を飲み込んでいる年下の友人を眺める。何でもないような声を出すのは苦手だった。
    「……そうだ、週末はアウトレット行くんだから。この前みたいに顔に青痣つくってきたりしないでよね」
     行儀悪く箸を向ければ、「ふわふぁい」と頬袋をいっぱいにしたスンアがこちらも行儀の悪いお返事を寄越す。
     ――心配なんだから、むちゃはやめてよ。次の約束の日まで無傷でいてね。
     キョンソンはそんな本音を胸にしまいつつ、そっと赤い唇をつり上げた。この世は単純な願いほど、叶えることが難しいようにできている。それでも。
     自分と同じように男社会で揉まれて、でも自分と違ってスレてもいなければ悪に染まりもしない。
     正義を守る、この子を守りたいのだ。

      ―+―

     きっかけは、スンアの失恋だった。いや、恋と呼ぶべきかも分からないようなそんな、淡い憧れ。
    「聖職者と恋愛なんてできないのよ」と、キョンソンは何度も忠告してくれた。にもかかわらず、自らつまずいてすっ転んだ結果、見事に傷ついた。
     今にして思えばキョンソンだってきっと、あの神父が好きだったのだと思う。でも本気になる前にブレーキをかけたのだ。おとなだから。自分と違って。
     そんなおとなの彼女は世界新記録でも狙っているのかというようなハイペースで、スンアのヤケ酒に付き合ってくれた。手品のようにするすると杯が空いて、ぐるぐるまわる世界に輝くネオンの残像が、流れ星のように視界を横切った。まるで魔法みたいな夜。
     砕け散った恋を肴に、女二人で朝まで飲んで騒いでおしゃべりしてラーメンすすってそして。スンアはべちょべちょに泣いて、それをキョンソンは笑ってくれたから自分も笑った。あのときから、なんだか妙な連帯感が生まれたのだった。

     そして今、アウトレットモールのトイレから戻って視界に入った光景に、スンアはため息をついた。ちょっと目を離すと、すぐこうだ。
     スンアの年上の友人はなんと言うべきか、とても目立つ容姿をしている。行く先々で人が無意味に振り返っては間抜け面を晒し、一人にしようものなら即座に有象無象の群れが襲いかかってくる。
     今もベンチでむすっと頬杖ついたキョンソンに、いかにも軟派な若い男がしきりに話しかけている。大なり小なり、こういうことが繰り返されてきたのだろう。容姿、能力、あるいは熱意、社会的地位、エトセトラエトセトラ。それらを食いものにされて生きるうち、やがて自らそれらを餌にすることを覚えていく。意識的か無意識的かを問わず、そういう生き方をしている人達が思いがけず多くいることに、まだ若いスンアは最近になって気がついた。
     ――この人は自分と出会うより前にも、嫌な思いをたくさんしてきただろうな。そう思うと、スンアはいつも胸が苦しくなる。
     だからこそ、べつに放っておいたって男一人くらい自分で撃退できそうな彼女が――でも確実に誰かからその輪郭を侵され生きてきた彼女が、今まさに削り取られようとしているものを自分が取り戻してあげたくて。今日も今日とて、スンアは怒りの声を上げるのだ。
     それはキョンソンの心に透明な橋をわたすようなもので、そうすることで「わたし、たぶん分かってるよ」と彼女に示してみせる。スンアにとってそれはある種の、彼女との連帯の証明なのだった。

     ぐっと腹に力を込め、検事を検事とも知らずに付き纏っている哀れな男を蹴散らさんと、バカでかい声を張り上げる。
    「ヤー!! わたしのオンニに何の用!?」
     そう喚くとき、一瞬キョンソンの目元が和らぐのが好きだと思う。
     たじたじになって離れていく男の後ろ姿に拳を振り上げる。一丁あがり。今日も良い仕事をした。
    「かっこよかったでしょ?」
     えへんと胸を張って振り返れば、長い髪を揺らして検事が笑った。
    「……かわいかったわよ。いつもかわいいけど」
     この人が自分に向ける「かわいい」の手触りは、いつだってやわらかくてくすぐったい。
     スンアは飛び跳ねた心のままに、自分もぴょんと飛び跳ねながらキョンソンの横に並ぶ。
    「何があっても、わたしが守ってあげますね」
     自然と転がり出てきたその言葉に、年上の友人はなぜか目をみはった。口元をむずむずさせて、珍しく不明瞭な発音で言葉を返す。
    「……なに言ってるのよ。さっきのは、わたしが守らせてあげたの」
     そう言った彼女の尖った唇が赤いのは口紅のせいだけど、頬が赤いのはチークのせいじゃない。その完璧なまつ毛の角度を眺めながら、スンアはきゅっと頬を上げた。
    「じゃあわたしもそうです、同じですね!」
     検事さんには守られてもいいし、守られたいと思ってるから。そう告げれば、キョンソンは今度こそ驚いたように目を丸くした。

     年上という生き物の性質なのか、人に黙って人を守ろうとする。先輩刑事も、あの神父も、この人もそう。でもきっと誰かを守りたいと思うのは、決してその誰かが自分より弱いと思うからじゃなくて。強い人だとわかっていても、大切だと思えば守りたいし、この人になら守られてもいいと思える。
    「来週はスイーツめぐりか、激辛フードめぐりがしたいです」
    「……極端ね。いいけど、警察って暇なの?」
    「刑事が暇なのは良いことですよ!」
     腕組みして頷きながら、スンアは笑った。
     そういう大切な人が近くに存在しているだけで、落ち込んで泣いても悔しくて泣いても失恋して泣いても立ち直れる。それがスンアにはどうにも得がたく、とても素敵なことのように思えるのだった。
     だから本当は彼女との行き先がティーサロンだろうとワインバーだろうと、ゲームセンターだろうとバッティングセンターだろうと構わない。
     次の約束を繋ぎながら、いつだってわたしを守ろうとする。この人のことをわたしも、いつだって守りたいのだ。



     Your Guardian(Angel)
     
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