Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    genshin_ponu

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌊 🍡 🍰 🍲
    POIPOI 7

    genshin_ponu

    ☆quiet follow

    大遅刻も良いとこのホワイトデーネタです。ボンボンショコラ(酒入り)を口移しでトーマに食べさせる若と、それで酔っちゃうトーマか見たかっただけのそれです。思ったより長くなってしまったうえに如何わしさが満載になりました。
    ※一応付き合ってる設定の若トマです

    甘味に酔わされて陽気に鼻歌を歌いながら、当主は屋敷の廊下を歩む。
    その片手には、稲妻の地ではあまり見かけない柄の包装紙に包まれた、小さな箱が収まっている。時折ちらりと箱に目線をやっては、楽しげに口に弧を描く。

    その様子を見て、一介の使用人達は思うのだ。

    あぁ、ご愁傷さまです、トーマさん、と。



    「トーマ」

    耳馴染みの良い、中低音の声音がトーマの背に響く。
    振り返れば、ふわりと笑みを湛える自らの主が立っている。呼び声に応えるように、若、と言葉を返すと、声の主は満足気に目を細めた。

    「何か御用ですか?」

    「うん、君に食べて欲しい物があってね」

    食べて欲しい。

    その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がトーマに走る。何故ならトーマは綾人から食べて欲しい、と言われて今までろくな目にあったことがない。
    ある時は塩と砂糖を間違えて饅頭を作ってしまったからとしょっぱい饅頭を食べさせられたり、またある時は珍しい食べ物を仕入れたんだ、とそもそも何の料理なのかも分からない見た目も味も何もかも拒絶を示すものを食べさせられたりと散々な目にあってきている。
    それでも当主の望みには応えるのが家臣の務め。トーマはそれをただただ受け止める他なかった。

    あぁ、今日は何を食べさせるのだろう。せめてまだ食べられる範囲のものであれば良いのだが。

    何をされるものかと身構えるトーマに反し、綾人はおもむろに手に持っていた箱の包装紙を剥がし始める。片手に収まる程度の小さな箱。その箱を包む稲妻にしては派手な柄の包装紙に、モンド辺りから仕入れたものだろうか、とふと故郷がトーマの脳裏に浮かぶ。
    そういえば、今モンドでは風花祭が行われている頃だったか。来年は祭りの時期に合わせてモンドに顔を出しに行くのも良いかもしれない、なんて少し物思いにふける。

    丁寧に剥がしそうな細指と動きに反して、案外雑にべりべりと包装紙を剥がす綾人に、気付けば小さな箱は丸裸にされており、トーマはまた意識を箱の方へとやる。
    このお方は見かけによらず雑なところがあるよな、とゴミ箱に捨てられた無惨に裂かれた包装紙を横目で見る。
    丁寧に包み、箱を彩る包装紙。トーマはそんな包装紙に愛着が芽生え、丁寧に剥がしては保管するタイプの人間だった。まぁ、これといった使い道は特にないので、溜まっていく一方でもあるのだが。

    「今日はホワイトデーだろう。だから君にこれを、と思って」

    買ってきたものなんだけどね、とトーマの思考など露知らずな綾人は、剥がし終えた包装紙になど目もくれず緩慢な動きで箱を開け、トーマに中を見せるように差し出す。
    そこには、幾つかの仕切られた枠の中に一つずつ丁寧に一口サイズのチョコレートが収まっていた。四角形のような形もあれば、丸みを帯びた形のチョコレートもある。少しサイズが大きめな気もしたが、普通のチョコレートとなんら変わりはない。正直、ゲテモノを食わされると思っていたトーマにとって拍子抜けだったと同時に、主を訝しんでしまった、と罪悪感が胸に湧いた。

    「バレンタインにはトーマからチョコを貰っただろう?だからお返しをしなくてはと思ってね」

    「そんな、わざわざお気遣いを…」

    諸々の申し訳なさもあってそう遠慮がちにトーマが言うと、綾人は私があげたいだけなのだからそう遠慮せずとも良いんだよ、と笑う。
    とは言っても、トーマがバレンタインにあげたものだってそう大して費用もかかっていない手作りものだったので、そのお返しだと見るからに高そうなチョコを渡されると少し気が引けてしまう。然し、わざわざ目の前で開けて中身を見せてきたのだ、今食べるという選択肢以外他は無いのだろう。

    「では、お言葉に甘えて頂きます」

    指でひと粒つまもうと手を箱へと運ぶ。然しその指はチョコレートへと触れることなく空気を掴む。
    え、と戸惑うようにトーマは顔を上げるとにんまりと笑う綾人と目が合った。綾人がわざと箱を引っ込めたのだ。
    何故、と意図を汲み取れないトーマはただ呆然と楽しげに笑う綾人を見る。

    「普通に食べてはつまらないだろう?」

    そう言いってのける綾人は、先程トーマが掴み損ねたチョコレートを掴む。そうして口元に持ってきてはそれを咥え、ん、とトーマに見せつけた。

    そうだった、このお方はこういうお方だ。

    その瞬間、綾人が示す意図を理解したトーマは最初の嫌な予感が何も間違っていなかったことを知る。抱いた罪悪感に後悔するほどにトーマは頭が痛くなった。

    「そ、れは……若の口から受け取れと…?」

    そうだ、とでも言うように藤紫の瞳が細まる。
    まるでいたずらっ子の様な顔をする綾人は、早く、と更に目で訴えてくる。
    良く考えてみれば、わざわざ箱を開けてここで食べさせるのもおかしな話だった。仮に純粋にホワイトデーのためのチョコレートだったとしても、普通に渡すだけで良いはず。包装紙は渡された時相手が喜ぶように包むものだろうし、それを贈り主が剥がすのも変な話だ。
    結局綾人は初めからホワイトデーにかこつけて、恥を忍びながら口移しでチョコレートを食べてくるトーマが見たいだけだった。まさに、私があげたい、それだけ。その言葉に何も偽は無かった。
    それでも悲しきかな、幾ら考えを理解していようと相手は自分の主君である。甘んじてそれを受け入れるしかない。
    ぎゅ、と両の手を握ると、トーマを覚悟を決めるように一歩前へと出る。顔を赤らめながらも、決心した表情で、綾人の顔に近づき口を開ける。目でも閉じてくれればいいものの、恥に耐えるトーマの顔を見逃してなるものかと言うように、その目は閉じられることなく、じ、とただ見つめてくるものだから、益々頬に熱が滲んだ。
    僅かに震えながら、トーマの口先がチョコレートに触れる。そのまま歯で咥えようとすると綾人の唇に触れてしまうことは目に見えていたので、ぎりぎり触れないように唇ではむようにしてチョコレートを咥えた。後はこのまま離れるだけだ、とトーマは安堵し顔を引っ込めようとする。

    「ン、む…っ!?」

    然し、それは後頭部と腰をがしりと掴んだ綾人の手によって叶うことはなかった。

    これはまずい、と思ったのもつかの間、綾人の舌で口内にチョコレートを押し込まれる。そのまま深く口付ける様な形で綾人とトーマの身体が密着する。
    抵抗の為に、互いの身体に挟み込まれた腕で綾人の胸を押すも、トーマにとって不安定な体勢のため上手く力が入らず綾人の身体は離れる気配が全くない。

    「ん、んん…っ!ふ、ぁっ」

    チョコレートとともに口の中へ入ってきた綾人の舌は、トーマのことなどお構いなしにチョコレートを溶かすように互いの舌を合わせる。次第に甘くなった唾液が口内に溜まっていき、トーマの口端から溢れ、つぅ、と垂れる。
    チョコレートのせいだろうか、何時もより分泌量の多い唾液は、余計に水音が脳に響いて頭がおかしくなりそうだった。

    暫くすると、口の中に今までの味とは違う風味が広がる。それと同時に、鼻を抜ける匂いにトーマは眉を顰めた。
    それもそのはず、それはトーマの苦手とする酒の匂いだったのだから。
    何故チョコレートから酒が、と困惑するも、思考するうちにアルコールはどんどんとトーマの身に沁みていく。匂いを嗅いただけで軽く酔ってしまうトーマにとって、チョコレートに含まれていた酒が僅かだったとしても体内に入ればそれだけで思考を鈍らせるのに十分だった。
    恥ずかしさと、息苦しさと、酔いでトーマの顔が火照る。甘くて、あつくて、苦しい。
    それまで何とか保っていた理性が、ぐずぐずに溶けていく感覚がした。

    あぁ、もうどうだっていい。若の好きにして欲しい。

    そう鈍い頭で考え始めたトーマの手は、いつしか縋るように綾人の服を握っていた。

    漸くチョコレートも溶け切り、長い間重なっていた唇が離れた頃にはトーマは立つのも怪しい程酔いが回っていた。腰に周された綾人の腕で何とか立ててはいるが、もはや立たされていると言った方が正しいほどに。そんなトーマの様子を認めると、綾人は優しくトーマの頬を掬う。
    赤く火照った頬と、荒い息。とろりと蕩ける瞳は、チョコレートよりも綾人の目に美味しそうに映った。
    興奮に逸る鼓動を押さえつけ、綾人は口を開く。

    「…このチョコレートは、モンドのお菓子で、中に酒が入ったボンボンショコラというものらしい。…ふふ、チョコレートで酔ってしまうなんて、可愛らしいね、トーマ」

    「ぁ…、ぅえ……?もん、ど…?さ、け…?」

    もはや考える事が覚束無いトーマは、呂律の回らない舌で聞こえてきた言葉を復唱する事しかできない。嵌められたのだろうな、という事は薄らと感じたが、もうそれを怒る気力も無かった。
    頬に添えられた親指が、溢れた唾液を拭うようにトーマの口の縁をなぞる。官能的に感じられるその動きに、トーマはびく、と僅かに震える。

    「あぁ、何だか私も少し酔ってしまったみたいだ。…トーマ、一緒に酔いを醒ましてくれないかい」

    欲を孕んだ瞳に、捕まえられる。逃げることなど出来ないと、腕の力を強めながら。
    それは、つまりそういうことで。綾人はこの烏も鳴かぬ真っ昼間から、トーマを情事へと誘っていた。
    普段のトーマならば、断っていただろう。流石に主の頼みとはいえ、トーマにだって仕事がある。こんな時間に性交なんてしようものなら夜には身体が使い物にならなくなる。然し、トーマは先程から分かるように酷く酔っていた。綾人のこの遠回しな言葉が情事への誘いだなんて頭が回る訳もなく、トーマはただただ要望されたから、はい、と答えるしかなかった。

    「は、ぃ……?」

    「…良い子だね。では、行こうか」

    どこへ?

    その問を投げかける前に、歩けないと判断したのだろう綾人が抱き上げたことで、トーマの身体がふわりと浮く。
    何故抱き上げられたのだろうか、と疑問に思うも、上を見上げ綾人の顔を見ると満足気に笑んでいたので、まぁ、良いか、と酔ったトーマはそのまま主の胸に頭を預けた。



    その後廊下でトーマを抱きながら歩く当主を見た使用人は動ずることなく、今日はトーマさんの分も頑張ろう、と静かに胸に刻むのだった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works