キスの日隣でコーラ片手に傑が言った。
「今日キスの日らしいよ」
「……へぇ」
暗い部屋の中、ラブシーンが流れ始めた画面の光に照らされながら、蝉丸は相槌を打つ。言い出した傑が手を重ねてきたので、ちょっとだけ肩を寄せた。テレビの中の役者たちは、結構なラブシーンに突入していく。
「………」
蝉丸はちょっと目線を部屋の隅に逸らした。こういう場面は、少し見ているのが恥ずかしい。もじ、と伸ばした足を擦り合わせる。
「ねぇ」
耳元で、彼の声がする。こういう艶のある声を出す時の彼は要注意だ、と蝉丸は思ったが避ける術はない。こちらを覗き込む彼の左手が、頬に添えられる。
「……しよ?」
黒の瞳が、画面を反射して光る。優しい光だった。蝉丸は背筋を伸ばして彼の顔に頭を寄せて接触の瞬間、目を瞑った。
ちゅっ。
軽い触れるだけのキス。
薄目を開けると、唇がまた重なる。
お互いの体温を交換するような、触れるだけのキス。
それが舌を絡めるキスに発展していくのに、時間は掛からなかった。
画面の中の声が、遠くなっていく。
ーーーふ、と離れていく唇。気づけば蝉丸は、押し倒されていた。見上げた傑の顔は、酷く欲情しているようだった。
服の中に手が忍び込もうとしたので、その手を捕まえて、起き上がる。そうして、膝立ちになった彼の首に抱きつく。
「まだ、だめ……」
何か言おうとした彼の唇を、奪う。
キスの日だと言うなら。
「もっと、して……?」
傑はちょっと止まった後、深く笑んだ。
「仰せのままに」
大きな口が、食べるように重なる。
やがてベッドにもつれ込んでも、ずっとイチャイチャとしていた二人は、いつの間にか映画が終わっていたことすら、気づかなかった。