青い空白い雲男の群れ見渡す限り海に囲まれた孤島に建てられた外国の監獄よろしくの立地の閉鎖的空間に男に男、ついでに男、たまに鳥と猫、でもやっぱり男しか居ない全寮制男子校にて。
学園中のイケメンたちから愛を囁かれる、笑顔が可愛いとか、誰もほっとけないで手を差し伸ばす優しさだとか、まるで女神のように持て囃されているパッと見どこにでも居るような平凡なヤツ。
の、隣の席の中田と申します、少しもやっとした雨の日の翌日のそんな初夏の風が頬を撫でている昼休み、机の上に置いた焼きそばパンの封を切ろうと添えた手で隅を弄りながら窓の方へ視線を向けた。
現在15の初夏、育ち盛りのオレ、焼きそばパン1個ですら本来なら足りぬと文句を言う腹が空いたと鳴らさず胃もたれすら起こしている。何故か?
「今日も可愛いな」
「可愛いとか言うな!」
「昼時までよくこんなとこに来れますね、先輩たち」
「昼ご飯食べに行こうよ、今日のランチはね」
「あーもー、じゃあみんなで行こうぜ!」
隣の席の人口密度に人酔いしたからだ、わかるだろ、毎日毎日、男男男、男の大群、美形が円陣を組み、その円陣を組んだ美形を見たい男たちが集まり、そのカオス野郎サークルの中心人物が有り難いことにオレの隣の席なのだ。
都会に居た頃は人酔いなんてしたことなかった、こんな自然豊かな環境で、親元から離れて自由で開放的だったオレのハイスクールライフ。
気付いたらこんな蠱毒みたいな存在がオレの隣にやってきて、あれよあれよと言う間に学園中の男たちの正気を奪って女神になった。女神って何?
「……ふう」
女神(笑)が男たちを引き連れて去ってくれた、一時の安寧、ガラリとした教室で息を吐けば腹が新鮮な空気にご機嫌になったのか空腹を報せてくれる。
「乙」
そう言いながら空いた前の席の椅子をこっちに向けながら引いて座り、勝手にオレの机に弁当を広げ出すクラスメートを睨みながら焼きそばパンの封を切った。
「そう思うなら席変わらん?」
「席替えする度にあいつが中田の隣の席になるくじ運を恨めよ」
「くそ、女神パワーか……」
「女神って何?」
「知らん。というか島崎もイケメンなのにあいつの女神パワーによく屈しないで毎日正気を保てるよな」
「だから女神って何だ」
「わからん、と言うかイケメン否定しろよ」
「何で。中田が俺の顔好きってことだろ」
そこで机に片肘をついてフッと笑うクラスメートもとい島崎は、まるでドラマのワンシーンの如くイケメンビームを放ってきたが残念ながら四六時中イケメン受動喫煙してるオレには効くことはないのだ。
「島崎の顔よりこの焼きそばパンについてる紅しょうがの方が好きだな」
「俺はこの唐揚げ弁当についてる漬け物より中田のこと好きだけど」
「はいはい、どうもな」
そんなどうでもいいことを話してる時が心安らぐ瞬間なんて、オレのバラ色(予定)の高校生活はどこから間違えたんだろうか。
間違いなく入った高校がマズった訳で、憎むべきは己の偏差値。
「一生この空間に居たい」
「俺とずっと一緒に居たいって意訳して欲しい?」
「はーそれは勘違いさせてマジでごめんだけど、でも島崎が居る=あいつが居ないってことだからそういうこと……?」
「勘違いして欲しいならちゃんとそう言わないと伝わらないんじゃない?」
「勘違いして欲しくない時は?」
「さあ。お前が俺のこと勘違いさせるからな」
いつさせているのか。
穏やかなこの時間と言うものは儚いもので、島崎がピクリと体を動かすと直様弁当を片付けて席を立つ、その腕を掴んだ。
「行かないで、行かないで島崎!」
「熱烈アプローチは嬉しいけど悪いな、女神降臨するって」
「やだ!」
「……俺のことどんくらい好きかで始業まで粘ってやってもいいけど」
「え、待って待って、待って!」
「早く、来ちゃうぜ」
「えーと、えっと……だし巻き卵より好き!」
「また放課後に会おう」
「あーあ、島崎よりタコさんウインナーが好き!」
掴んだ手を放してさっさと席に戻ってく島崎、と入れ違いに珍しく男を引き連れずに帰ってきて隣の席に着く女神(笑)と目がバチリと合う。
とすぐにプイッと顔を逸らされた。
そうなのだ、オレは学園中のイケメンたちに愛されている女神のような男に嫌われている。
いつも目が合うと逸らされる、そんなお前と似たようなレベルの顔立ちなのに、お前の美的感覚はもうイケメンしか見れないってことか、ちゃんと毎日鏡で自分の顔でも見て美的感覚戻せ。
「……タコさんウインナーってかわい……」
「は?」
あと顔を逸らすと決まっていつもボソボソと何か呟くのだ、何なんだいつもはでけえ声を腹式呼吸しているのに。眼前陰口か?
早くこんな高校生活終わらんか、と思うがまだ1年の一学期、やれやれ先が思いやられるぜ。