樹生要が死んだらしい。近々葬式が取り仕切られるので親しい生徒は参加するようにと淡々と告げる担任を見る僕の顔は、きっと感情なんて無かったに違いない。雑音にまみれた教室でミーンミーンという夏の声だけが嫌に響いた。
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「月はさ、透明人間なんだ」
偶然だった。その日は休みだったが、やり残した書類整理をする為に僕は制服を纏っていた。ふと時計を見ると既に正午を過ぎていて、朝から缶詰だったこともあり作業もそれなりに済んでいたので気分転換も兼ねて一度教室を出ることにした。少し歩いただけなのに既に湿った前髪。ジリと照りつけてくる太陽に恨みはない。この校舎は風当たりが悪いから。けど、今日の太陽はいつもよりも機嫌が良いらしい。いささか威勢のよすぎる気もするが。時間に換算してみればさして長くこもっていた訳では無いのに、やけに眩いように思う。なんだか、蝉にでもなった気がした。
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