匂い風薫る新緑の頃、ボクは生まれた。ママのおっぱいを吸い、兄弟姉妹とじゃれあった記憶は、今も頭の片隅に残っている。けれどもそれは、ほんの数日のはかない出来事だ。程なくしてボクは捨てられた。
前後して生まれた子らは、主の親戚や友達の手に渡った。何故かボクだけが引き取られることなく、気付いたらひとりぼっちでダンボール箱の中にいた。
クゥーンと鼻を鳴らしても、恋しいママはもうボクを舐めてはくれない。これからどうやって生きていけばいいんだろう。段々と心細くなる。堪え切れずにクゥーンクゥーンと鳴き続けていたら、ボクのカラダが陽だまりのような温かい匂いに包まれた。
「お前、家にくるか?」
これが浩介くんとの出会いだ。
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