second virgin3(上) 毎日は慌ただしく過ぎて、また11月が来た。
ありがたいことに今年も俺はU-17代表合宿に招聘された。ほんで今年も中学生がおるって話で、去年とは違て今年は最初からおるんかなって思ったんやけど。やっぱり義務教育中の子らを長期間拘束するのもあかんやろいうことで、今年も中学生は途中から参加やそうやった。
高校生は去年と似たようなメンバーで(勿論修二さんら、去年高3やった人らはおらんけど)、部屋割りも去年と同じで幸村クン不二クンと同室で。みんなで1番コート、いや1軍入り狙ってこかって盛り上がった。
合宿所は関東やし、大学生は秋の大会もあるからしばらく修二さんには会えへんけど、そこは我慢やな。まぁ、毎日電話はしとるんやけど。大体夕食が終わった頃の時間に、屋上とか人おらんとこ行って電話するのが日課やった。
「ほんで明日からいよいよ、中学生の子らも参加するんですわ」
「中学生いうと赤福とかか。懐かしいなぁ。」
「ほんま楽しみですわ」
俺が今日あったことなんかを報告すると、修二さんが穏やかな声で相槌を打った。
「修二さんは、最近どうですか?」
「んー? 真面目にやっとるよ」
「外泊とか、しとるんですか?」
「しとるけど、浮気ちゃうで。みんな男やし。あ、男は言い訳にならへんか」
「……」
修二さんは、友達と家族はちゃうとか言うとったけど。俺からしたら全然人に気ぃ遣ったりせん、甘え上手な人やった。どうせ一人暮らしの男友達の部屋とかに、気軽に泊まったりしとるんやろな。
「ホンマちゃうて。俺、ノスケ以外の男に興味ないし」
「や、俺も他の男と寝泊まりしとるんで、どうこう言う気ないですけど」
「妬けるわぁ」
修二さんは全然妬いてなさそうな声で笑うと、続けて言った。
「ほんま寂しいなぁ。ノスケの写真欲しいから、送ってや」
「写真ですか? ほな送りますわ」
「ちょお待ち。テニスしとる写真がええんやけど」
「テニスしとる? あー、じゃあ明日撮って送りますわ」
「楽しみやなぁ」
「俺も欲しいんで、修二さんのテニスしとる写真、送ってくださいよ」
「なんや恥ずかしいなぁ」
「何が恥ずかしいんですか」
俺は修二さんにテニスしとる写真送るなんて緊張するけど、修二さんはええやろ。俺よりテニス強い癖に。俺は適当に挨拶して電話を切ると、これは気合い入れて写真撮らなあかんな思てイメトレを始めた。
翌朝、俺は早速中学生らの顔を見に行った。また崖の上送りとかになったら、誰がおるのか分からんようになってまうからな。
中学生の中には、金ちゃんら昨年も招聘された子もおったし、去年はおらんかったけど大会で見覚えのある子、1年生やろか全然知らん新顔もおった。今年は財前も真面目に来とったし、勿論切原クンもおったから声を掛けた。
「切原クン久し振りやなぁ。今年は立海の部長として、部ぅ率いてきたんやろ? お疲れさん」って言うたらどうやら違たみたいでえらい気まずかったんやけど。「いうて部長も色々制約あるし、フラットな立場で部を支えてほしいって采配やったんやろな」って言うたら、機嫌持ち直してくれたから良かったんやけど。
ほんでまだ中学生全員集まってへんみたいやったから、今のうちに写真撮ってくれへんか頼んだら快諾してくれて。財前に打ち合いしよかって声掛けたら嫌そうな顔しつつも応じてくれたんで、その姿を撮ってもろた。楽しく打っとったら、気付いたら切原クンが俺の携帯で500枚くらい写真撮ってくれとったわ。
えらい多いし、切原クンの自撮りも混じっとるしで、どれ送ろかなって迷ってしもて。なるべくフォームが綺麗なやつ送りたいしな。そしたら切原クンが「俺送っときますよぉ」ってバンバン送り始めて。通信量とか考えて欲しいんやけど。
その後切原クンは崖の上送りになっとったから、俺と柳クンとで、温かい目で見守っておいたわ。
練習が終わって携帯を確認すると、修二さんからお礼のメッセージと、修二さんのテニスしとる写真が送られてきとった。今日はあんまり練習時間がとれへんかったからって、写真は昔のものやった。レアな写真で逆に嬉しなって、夕飯前でお腹も空いとったけど、修二さんと話したくて電話してしもた。
「めっちゃかっこええですやん。写真、ありがとうございます」
「プレイ中の写真って案外ないな。見付からんかったから、奏多に送ってもろたの転送したわ」
「ほんで舞子坂のジャージの写真が多いんですね。今度会ったらお礼言うときます。髪短い修二さんもめっちゃかっこええですわ」
「スポーツ少年やったからな。ノスケはスポーツ少年の割りに、髪長すぎやで」
別に俺は浮ついとるからこの髪型にしとる訳やなくて、美容師さんにお任せにしとるだけなんやけど。
「修二さんが、短いのが好みやったら切りますけど」
「はぁ?」
「え、どないです?」
「やらしいなー」
「何もやらしないですやん」
「俺に、いつものノスケが好きやでって、言わせようとしとる」
「はぁ? 照れとるんですか?」
「照れてへんて」
そしたらそこで電話が切られて、照れてへんって証明なんか修二さんの自撮りが送られてきた。余裕そうにピースしとるけど、写真じゃ顔赤いんかよお分からへん。顔さわったら一発やのにって歯がゆい気持ちになっとると、また電話が掛かってきた。
「懐かしいなぁ合宿。俺が1軍上位10名って分かった時、びっくりしたやろ?」
「や、そんなに。ぽかーんでしたわ」
「嘘やろ?」
「上位10名の人らの強さが、まだ分かってへんかったんで。後からすごい人やったんやなって思いましたけど」
「はー。俺、他の高校生らに口止めまでしとったのに」
「そんなんせんでも、かっこええのに」
「……口説かれてもうたわ」
そしたら携帯からちゅってキスみたいな音がすると、「おやすみ」言われて電話が切れた。