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    蔵種、腐
    ※種ヶ島の同級生、先輩のモブが登場します。

    no title1(中) 数日後、旅行当日の昼頃。俺は洗車を済ませた祖父ちゃんの車で、待ち合わせ場所へと向かった。勿論、初心者マークなんてもう無い。車の運転にもすっかり慣れたけど、さすがに今日は長旅やから迎えには行かずに、ノスケに電車でこっちまで来てもろた。俺の車に乗せるのは、ノスケと同級生の二人。
     待ち合わせ場所で路肩に停めると、こっちに気付いたノスケが直ぐに車に寄ってきた。トランクを開けて、2泊分の荷物とラケットバッグを積み込む。
    「修二さん。今日は長距離やけど、運転頼んます」
    「話し相手になってな。あと、ノスケは後部座席な」
     ノスケは一瞬驚いた顔をしたものの、直ぐに納得して後部座席に乗り込んだ。同級生を差し置いて俺達二人がいちゃつく訳にもいかへんし、俺自身が久し振りに同級生と話したいというのもある。後部座席のドアを閉めようとすると、その同級生も丁度姿を現した。
    「ちゃーい☆ ここやで」
    「よお修二。そいつが白石か、W杯で見たで」
    「初めまして、白石蔵ノ介です。今日はよろしくお願いします」
    「おう、よろしゅう。なぁこいつ舞子坂ちゃうやろ。何で連れてきたん?」
    「彼氏やから」
    「へぇ、えらい気に入っとるやん」
     ノスケは無言でドアを閉めた。ふふ、照れとる。同級生の荷物も積み込んで、俺達は出発した。先輩達とは、最初のサービスエリアで待ち合わせをしとる。

    「おーい、種。こっちやで」
     サービスエリアに着くと、既に到着しとった先輩4人が、分乗してきた2台の車を見比べとった。この4人と俺達3人の、計7人が今回の旅行のメンツや。
    「先輩、こっちが例のノスケやで」
    「白石蔵ノ介です。よろしくお願いします」
    「おう。折角やから種の車も隣に停めてや」
    「種、ええ車に乗っとるなぁ」
    「こいつが種の後輩か。ちょおコーヒー買うてきてや、ブラックで」
     先輩達に捲し立てられて、気圧されたんかノスケが黙って俺の顔を見た。俺は小声でノスケに聞いた。
    「俺が買うてこよか?」
    「や、俺が一番年下やからええんやけど。種って呼ばれとるんやなって思て」
    「ノスケかてノスケやん」
    「ノスケって呼ぶんは修二さんだけやん」
     ノスケは苦笑いをすると、全員の希望を聞いてから飲み物を買いに行った。うーん、卒がない。俺の方は車を移動させて、3台を横並びにする。
    「これ中古? いくらしたん?」
    「祖父ちゃんのやから払ってへんわ」
    「乗り心地どうや? ちょお運転させてや」
    「あかんて。保険が家族限定なんやって」
    「事故らんかったらええんやろ?」
    「勘弁してやホンマに」
     先輩達がえらい食い付いてくるから、仕方なしに助手席に乗ってもろて、サービスエリア内で車をぐるぐると走らせた。売店で買うたもんを食べたりもして、結局出発したのは1時間ぐらい経ってからやった。初対面の集団の中であんまり構ってやれへんかったけど、ノスケは大丈夫やったかな。
    「すまんなぁ。退屈やった?」
    「別に。集団行動にこういうのはツキモンやし、後で楽しみもあるし」
    「えっち☆」
    「ちゃうて、テニス!」
     そっからは軽井沢に向かって車を走らせた。運転は好きやしええ眺めやったけど、さすがに遠い。到着する頃にはすっかり夜で、俺達は先輩んちの別荘で、道中で買うた弁当や酒で宴会をすることにした。せっかちな先輩が、みんなに弁当を配っていく。
    「この弁当誰のや? はよ持ってかんと食べてまうで」
    「先輩、これ差し入れやから」
    「おー、これ珍しい酒やん。初めて呑むわ」
     俺が差し出した酒瓶を、先輩は嬉しそうに受け取った。こういう時は、とりあえず珍しい酒を持っていけば盛り上がる。家から勝手に持ってきたから、後で補充しとかなあかんけど。
    「こっちの弁当は誰や? ノスケか?」
    「あの、ノスケって呼ばんといてください」
     先輩にノスケって呼ばれて、ノスケが抗議の声を上げた。
    「ノスケちゃうん? お前の名前知らんし」
    「さっき言うたやん」
    「先輩、こいつ白石いうんです」
    「分かった、白石ノスケな」
    「ちゃうて」
     ノスケは脱力しながらも、荷物の中から手土産を取り出した。
    「ジャーキーと、干しイカと、スモークチーズと、他にも色々。あと、通の人は塩で呑むって聞いたんで、塩も持ってきました」
    「塩? そんなんで呑んどったら体を壊すで」
    「天然塩なんで」
    「天然はお前やろ。こいつオモロいなぁ」
    「あー先輩。こいつオモロいって言うと調子乗るんで、言わんといてや」
    「何でですか? 言うてくださいよ」
     あんまりノスケを調子に乗らせると、めちゃくちゃスベるからっていう俺の親切心なんやけど。ノスケは変わり者の後輩枠として馴染んどって、あんまり心配せんでもよさそうやった。
     それにしても疲れたわ。先輩らは交代で運転しとったみたいやけど、俺はずっと一人で運転しとったし。なるべく起きとろうとしとったんやけど、腹も膨れたらうつらうつらしてしもて。そしたら俺の身体の上に毛布が掛けられて、視界の端にノスケのサラサラの髪が映った。あー、こういうのもええもんやなって思いながら、俺は沈み込むように眠った。

     翌朝、俺はノスケがコップを洗う音で目を覚ました。
    「んー、今何時?」
    「8時。コートの予約が9時からなんやろ? そろそろ起きなあかんで」
     俺は床の上で毛布と一緒に丸まって寝とって、身体が完全にバキバキになっとった。はー、しんど。床、冷た。ノスケがホットコーヒーを入れてくれたから、のそのそとダイニングテーブルに向かう。コーヒーに砂糖を入れて、エアコンで渇いた喉を潤す。
     先輩らはリビング端の畳コーナーや、ソファで寝とった。まだ眠そうに横になったまま、「何で9時から予約したん」とか、「キャンセル出たとこにそのまんま入れてもろたから」とか言うとる。何でノスケだけこんなに元気なんやろか。
     結局全然誰も起きてこおへんから、コートを予約してくれた先輩だけ、何とか起こして付いてきてもろて。俺達は9時ギリギリにコート場に到着した。
    「はー、寒っ」
    「昨日も思ったけど、軽井沢寒っ」
     コート場では、年配の人らがえらい元気に打ち合うとった。コートを確認する先輩の横で、ノスケは早く打ちたそうにそわそわしとる。そんなノスケを見とると、中々ハードな旅行やけども、ほんまに連れてきてよかったわって思う。
    「ノスケ、ここのコートやで」
    「せやからノスケって呼ばんといてください。こことどこのコートですか?」
    「何言うとるん。ここのコートだけやで」
    「えっ、7人で1面?」
    「文句言うなや。空いとるだけでもラッキーなんやから」
    「や、文句ちゃいますけど」
    「昼まで借りとるから、交代でやってもそこそこやれるて」
    「……すみません。俺が来たせいで、皆さんのプレイ時間が減ってまいましたよね」
    「何やねんお前、図々しいんか謙虚なんかどっちやねん」
     先輩は呆れながら、あくびを一つした。図々しくて謙虚、それには俺も同感やわ。
    「そない落ち込まんでもええやん、ダブルスやったら一度に4人出来るし。俺とノスケで組むか?」
    「修二さんはダブルス得意やけど……俺はシングルスやりたいです」
    「ほな、まずは種とノスケでシングルスやればええやん。ノスケも知らん奴とやるのは嫌やろ」
     ノスケの眉がぴくりと動いた。
    「俺、誰とでもやれますけど」
    「強いで、俺」
    「俺も強いですよ」
     急にノスケと先輩がバチバチやりだして、あららって感じなんやけど。僭越ながら俺は審判を務めさせてもろて、二人には思う存分やり合ってもらうことにした。二人は軽く準備運動をすると、ネットを挟んで向かい合った。白熱した試合の中、他の先輩達もパラパラとコート脇に集まってくる。
    「朝からえらい頑張っとるやん」
    「うわっ、あいつノスケに押されとるわ」
    「何やて、ほなお前やってみぃ。こいつめっちゃ強いわ」
    「せやからそいつ、日本代表なんやって」
    「俺かて元日本代表やで?」
    「元やろ、元」
     ワンセットマッチで試合は終了。先輩もかなり食らいついとったんやけど、スコアとしてはノスケの圧勝やった。
    「ノスケめちゃくちゃ強いやん」
    「ホンマにかなわんなぁ」
    「こんな奴おるんやったら、舞子坂も安泰やわ」
    「あの。俺、舞子坂ちゃうんで」
    「そうなん? 種の後輩なんやろ?」
    「U-17の時の後輩なんですって」
    「やって今度高3言うとったやん。種の三つ下やろ?」
    「ちゃうて。U-17、中学生も参加出来るようになったやろ」
    「そうやった?」
    「あー、あれ種の代からやったか」
     先輩達は、「中学生の頃から世界と戦っとったら、そら伸びるわ」とか、「反則やん」とか好き勝手言うとったけど。ノスケに「俺はまだまだやれるんで、相手してくださいよ」って絡まれとって。結局全員こてんぱんにやられとった。その後は俺も同級生相手に不会無を披露したりして、めでたく反則の称号を戴いた。
     コートのレンタル時間が終わって、昼ご飯はその辺の蕎麦屋で食べた。ノスケは「俺が打った蕎麦の方が美味い」とか言うとったわ。ほんまにオモロい奴。あとは別荘の掃除をして、余った食べ物やゴミは全部俺の車に詰め込む。
     先輩達はこのまま東京へ行って、女友達(?)の部屋に泊めてもらうらしい。軽井沢に来るまで一緒やった同級生も先輩の車に移って、「ほなまた」って言うて先輩達とは別れた。
    「ノスケ、お疲れ」
    「あの人ら、東京行くんはええけど帰るの大変ちゃう?」
    「車が好きな人らやし、そういうのがええんやろ」
     俺は車を発進させて、先輩達とは逆に西に戻る。同級生には悪いけど、隣にノスケが座っとるとえらい落ち着くわ。
    「先輩らとテニスして、どうやった?」
    「オモロかったで。色んなプレイスタイルの人がおったし、全部俺が勝ったし」
    「泊めてもろてるんやから、ちょっとは接待せえや」
    「……あの中に、修二さんの憧れの先輩とかおるん?」
    「ん、ナイショ☆」
    「そう言うと思って、全力で倒しておいたわ」
    「怖いわほんま。憧れの先輩とかおらんし」
     正確に言うとおらんかった訳ちゃうけど。ノスケには、言う必要のないことやから。
     その後は先輩達のプレイについて、ノスケから色々と質問をされた。「えらい真剣やな」って言うたら、「部活サボって来とるし、それくらいは持ち帰らなな」って返された。そういうところはまぁ、ほんまにストイックやな。

     それから車で霧ヶ峰まで行くと、リフトで山頂まで昇った。ノスケは高山植物を見ながら登山したそうやったけど、さすがに疲れとるし勘弁してもろた。「俺も免許持っとったら、交代で運転出来るのに」って言うとったけど、せやから保険が家族限定なんやって。
    「高いとこ大丈夫なん?」って聞かれたけど、俺は飛行機が駄目なだけで高所恐怖症ちゃうからリフトは平気。山頂からはえらい綺麗な眺めで、運良く富士山まで見えたわ。しかし寒い、もっと厚着してこなかんかったわ。せやけどホットコーヒーの缶を握り締めながら、ノスケと寒い寒いって肩寄せ合うのもええもんやった。
     その後はホテルに行って、諏訪湖の見える大浴場の温泉に浸かった。ノスケがまたデカい声でエクスタシー言うから、隣で浸かっとったおっさんがぎょっとした顔をしとった。

     夕飯が済むと、ノスケに飲み物を買うてきてって頼まれた。ノスケがパシってくるとか珍しいなって思ったんやけど。部屋に戻ると、ノスケが真っ赤な薔薇の花束を持って立っとった。
    「わー、サプライズ?」
    「修二さん、好きです」
    「ふふ。えー、嬉しいわ」
     さすがに花束は驚いたわって受け取ると、ノスケが小さな包みを差し出した。そっちはもう見当が付いとったから、遂に来たかってわくわくしてもうた。
     年末年始、ノスケは年賀状の配達のバイトをやっとった。俺は会える時間が減るから嫌やって言うたのに、欲しいモンがあるからって言われてしもて。それにセックスの後に俺がうつらうつらしとる時にも、こっそり指のサイズを測られとった時もあったし。
     ほんまはノスケには、アクセサリーって好みもあるし、勝手に買うてくるような男はモテへんでって教えてやらなあかんとこやけど。俺もアクセサリーの好みはあるけども、何でも似合ってまうタイプやし、ノスケが選んでくれたなら何でも嬉しいし。何で俺が俺以外の奴と、ノスケとの仲を取り持たなあかんねんって話やし。ええで、どんな指輪でも喜んだるって思いながら、俺は黙ってケースを開けた。
     中に入っとったのは予想通りの指輪で、せやけどその色は予想外のものやった。
    「わ、ゴールドなん?」
    「やっぱり、貴金属いうたら金やろ」
    「さすが腕に純金巻いとった奴はちゃうわぁ」
    「それは関係あらへんけど」
    「おおきにな。大事にするわ」
    「修二さん、はめさせてや」
     ノスケの指が、ケースの中の指輪をつまむ。特に装飾のない、シンプルで綺麗な金の指輪。ノスケが内側を見せてくれると、小さく彫られたいくつかの文字があった。二人のイニシャルと数字の2。付き合うて2年、色々あったけどええ2年やった。
     左手を差し出すと、ノスケが俺の薬指にすっとはめてくれた。
    「ふふ、ぴったりや」
    「思った通りや」
    「何が?」
    「修二さんの肌の色に、きっと合うと思っとったから」
     ノスケにそう言われると、まるでずっと昔からこの指輪をしとったみたいに馴染んで見えて、何だか照れくさくてかなわんかった。ほんで当然ペアリングやと思ってノスケの指にもはめたろうとしたけども、ノスケの指にはいつの間にか既に指輪がはまっとった。
    「おそろいや」
     一瞬だけちらりと見せてくれたノスケの指輪は、俺のよりも少し細くて。予算足りひんかったんかなって思うと、それもまた愛おしかった。
    「ほんまはきっかり2周年の日に渡したかったけど、大会もあったし。今日は今日でまた、新しい記念日にしたらええから」
    「せやな。ほんまに嬉しいわ、ありがとうな」
    「これからも、よろしくお願いします」
    「ん、こちらこそよろしゅうな」
    「はい」
    「……で?」
    「え、何?」
    「えー、プロポーズちゃうん?」
    「え、結婚してくれるん?」
    「考えとく☆」
    「またそれや」
     ノスケは花束ごと、俺を強く抱き締めた。
    「ノスケ、花」
    「花なんて、どうせ枯れるからええ」
    「枯れる前に写真撮ろ」
     ノスケは俺の肩に頭をぐりぐり押し付けると、俺の左手を引いて薬指にちゅっとキスをした。
    「いつかまた、本物の指輪を贈ります」
     俺にとっては、今のこの指輪も本物やったけど。次に指輪を貰う時は、いよいよ覚悟を決めなあかんかなって思いながら。俺もノスケの左手を引くと、ノスケは少し躊躇したけども。おずおずと出してくれた、細身の指輪が光る左手の薬指に俺もキスをして。それから少し崩れた花束と、二人で写真を撮った。
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