「はっくしょん!!」
パトロールしている隣から、大きなくしゃみと、その後、鼻をすする音がした。
「大きなくしゃみ」
「すみません……」
なにも悪くないのにそう謝るオスカーが可愛くて、つい笑みが零れる。
しかしそういえば、確かに今日は肌寒い。秋も深まって、もうシャツ1枚で外に出るのは心許ない時期になってきた。寒がりのオスカーはアウターを羽織っているが、それでも手先が冷えるようで、自分の手をぎゅっと握りしめている。
今日は可愛いオスカーを沢山見れたから、気分が少し良くなったのかもしれない。ずっとポケットに突っ込んでいたおかげで少し温かくなった手を、気づいたら差し出していた。
「フェイスさん……」
「ほら、早く」
急かすと、申し訳なさそうに、でも嬉しそうな表情で手を絡めてくる。もう暗いし、人気も無いし、気にする事はない。まるでデートみたいな気分になって、更に気分が高まる。
「昔もこうして、手を握ってくれましたよね」
「え?」
「もう少し先の時期でしたが、朝のランニングを始める前にこうして……」
言いながら俺の手を両手で握りしめて見つめてくる。
ああ、思い出した。空気が冷たい朝、指先が冷えきっていたオスカーに、ブルゾンを羽織らせ、手をぎゅーっと握って、「風邪引かないでね」と声をかけたんだった。あまりに些細な記憶すぎて忘れていたけど、オスカーにとっては大切な思い出らしい。
ますます気分が良くなった俺は、つい指を絡めたりなんかして、肩に頭を預けたりもしちゃって。珍しく触りたがる俺にドギマギしてるオスカーに笑顔を向けると、オスカーも優しく微笑む。
今日も一つ、思い出を持って帰ろう。