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    alc_miz

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    domsub若トマの一部
    ※まだ若トマ始まってない
    ※良心的女家臣モブ視点
    ※数週間不在の若の部屋を良心的女家臣モブと掃除してたら人生初のサブドロしちゃったトマという前提

     助けを呼ぶ私の声に応えてくださったのは、トーマさんが「いつでも安心してお帰りいただけるように」と心を込めて毎日私と共に掃除をしていたこの部屋の主、御当主様でございました。
     静かな水面のような瞳に僅かに波紋を描き、荒い息を繰り返し蹲るトーマさんを見下ろすそのお姿は幼い頃から仕えてきた中でも目にした者は多くないかもしれません。
    「トーマ、トーマ……!」
     御当主様は私と同じく床に膝をつき、ご自身の曇りなき強さを表すような白いお召し物が湿る事等てんでお気になさらないご様子で、あらゆる体液で濡れた彼の顔をその手で包むのです。それを見た私は、あぁ、このお方は知らなかったのだと確信致しました。知らぬ事は決して罪ではなく、恐らくトーマさんが口にしなかったのだという事は容易に想像できました。

     だから早くお休みになっていただきたかった。根本的解決に成らずとも、私にはどうする事も出来ずとも。トーマさんはきっとこのようなお姿を醜態と捉えられるのでしょうから、目の前で伏せるような事態だけは避けられるようにと思っておりましたのに。私が要らぬ事を言ってしまったのかもしれません。

    「わ、かぁ……」
    「トーマ! どこが辛いんだい? すぐに医者を呼ぼう。……尚!」

     御当主様が名を呼ばれるとどこからかフッと暗闇に身を包んだ男性が現れました。お目にかかる事は滅多にないその方は終末番と呼ばれる方々の一人なのでしょうか。
     しかしこちらはお医者様に診てもらったとて解決する症状ではないのです。申し上げるのは心苦しく非常に勇気がいりましたが、何よりも今はトーマさんのお身体を考えるべきでございます。

    「その必要はございません」

     私の言葉に漸く御当主様の瞳が私に向けられました。細まる眼から憤りが伝わってまいりました。

    「……貴女はトーマの部下ですね」
    「さようにございます。本日も御当主様のお部屋をトーマさんと、僭越ながら私が」
    「医者にかかる必要がないと言うのはどのような意味で?」

     お部屋を担当させていただいておりますけれど、御当主様とお話を交わした事は多くありませんでした。萎縮する気持ちをなんとか奮い立たせ決してトーマさんを軽んじているのではないのだとお伝えしました。

    「ご説明させていただくためには、戸を閉め、周囲に人がいないかを確かめなければなりません」
    「随分悠長ですね」
    「お願いいたします」

     私は膝を合わせ直し、指を揃えて深く頭を下げました。

    「私も一刻も早くトーマさんを助けて差し上げたいのですが、トーマさんのために公にする事は控えさせていただきたいのです。そしてこちらはお医者様ではなく、お救いになるのは、きっと、御当主様であられるのです」

     トーマさんの不調に私は心当たりがございました。原因を知っていたのです。いえ、正しくは毎日共に過ごす中で徐々に理解してまいりました。
     彼は私と同じように、『従う者』だったのです。

     私の気持ちを汲んでくださった御当主様はトーマさんを部屋の中へ運び直し、忍の方へ声をかけた後ゆっくりと戸を閉めました。
    「……お話を伺いましょう」
    「ご配慮に感謝いたします」
     さて、どこからお伝えしたら良いものか。このお方は本能の性についてどこまで知見を深められておられるのか。まさか何も知らぬわけではありますまい。

     従わせる者、従う者、両方である者、そうでない者。

     先程から強く念を発している御当主様は従わせる者であるのでしょう。しかし意識下であるようにはどうも思えませんでした。

    「今のトーマさんをご覧になって何かお心当たりはございますか?」
    「原因は私なのですか」
    「いいえ、いいえそのような事では」
    「……先程は酷く焦燥し強く当たってしまいましたが、どうか萎縮せずに。貴女のことはトーマから聞いておりますよ。貴女と同じように私も助けたいのです。思う事を教えてください」

     さもなければ今すぐ部屋の壁を斬り倒して医者へ駆け込むと、そう仰せになりました。

     御当主様は深い愛をお持ちの方であり、異国の血が流れるトーマさんは御当主様とお嬢様の家族でありました。私は御当主様のお気持ちに答えようと確と頷き開口したその時。

    「ぁ……」
    「トーマ? 急に何を」
    「か、もい」
    「かもい……? コラ、危ないから、寝るんだトーマ……!」

     トーマさんが弱々しく身を起こそうと致しました。畳の上を滑る震える手ははたきを探しているのでしょう。
    「トーマさんがお休みになられている間に、鴨居は私が掃除いたしました」
     告げた言葉にゆうるりとこちらを見上げ「きみ、とどかないだろう」と覚束ない口取りで応えるのです。

    「わか、なにか、なにかさせてください」

     本能の性、従う者の中でもその欲求は細分化されておりますためトーマさんの根の部分は未だ計れませんけれど、トーマさんはこの、未だ鴨居に首を傾げられている御当主様のために在りたいお方。私は曖昧に鴨居の件を流し、更に見極めるため、ひいては御当主様に状況をよりご理解いただくため一つの提案をいたしました。

    「御当主様が公務からお戻りになり、とてもお疲れであられるようなのです。私のような女家臣では御当主様のお身体に触れられません。肩を揉んで癒して差し上げてはいただけないかと」

    「は、肩揉み……?」
    「ええ、どうか肩を揉まれてくださいませ」
    「おまかせくださ、い」
    「ちょ、待ちなさ……」

     理解し難いと藍の瞳が仰せでしたが、困惑の隙にトーマさんが御当主様の背中に周ってよじ登るよう肩に手を掛けられていらっしゃるのです。ピシリと硬直してされるがまま、御当主様はただ背後の気配にはらはらと落ち着かないご様子でありました。

     逞しく温かな掌にはまったくと言っていい程力は込められてはいないのでしょう。それでもトーマさんは懸命に『肩を揉んでほしい』という命に従事いたしました。

     いかがですか、痛くはありませんか、と時折掛かる声に御当主様も次第に事態をご理解されたのかと思われます。

    「……ええ、とても上手だよトーマ」
     蜜を浸したようなお声でした。御当主様はトーマさんの手の甲を優しく撫でながら褒め続けておりました。

     そしてふと私は我に返り、ここに居て良いものかと漠然と思ってしまったのです。

     トーマさんは徐々に天上へ至っているように見えました。それからもし自我を取り戻したとして、そこに私が同席していたとなればトーマさんは私へ頭を垂れるでしょう。恥ずかしいと思うかもしれません。どちらにしても自戒の念を強く植え付けてしまう事は間違いございませんでした。
     御当主様であれば遠くない未来で必ず向き合わなければならぬ、避けては通れない道におります。それどころか初めてと思われる失墜に御当主様がお側に居てくださった事は幸運とさえ呼ぶべき事柄。

     静かに頭を下げ、私はその場を離れようといたしました。

    「ひとつ伺っても?」

     それから背中に投げられたゆったりとした一言に私は安堵を隠しきれませんでした。

    「貴女の素敵な首飾りはどちらで?」
    「こちらは私の心が従事すべきたった一人が」
    「なるほど、確かにとても貴女によくお似合いだ」

     貴女の献身、感謝します。そうお言葉を賜り、私は部屋を後にしたのでした。


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