中井プルーン農園の危機第一話『帰郷』
「えっ?!農園ば売る?!」
キイチの突然の大音声に、リビングで寛いでいた梨はビクリと肩を振るわせた。
「なんで急にそぎゃんことに?」
『農園に熊が出たとよ。あんたも知っとるでしょ?山ん熊』
キイチの実家は九州は熊本、祖父の代からプルーン農家を経営しており、子供たちが自立した後も両親逞しく管理運営を続けている。両親が年老いた今、姉夫婦、特に婿養子に入った姉の旦那が農園を引き継ぐことに意欲的で、来月には本格的に引越しを始める話までしていた最中での突然の意外な報せであった。余程のことがない限り電話もメールもしない母からのいきなりの電話に緊急事態を警戒したキイチが応答すれば、なるほど確かにこれは大事件であった。
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