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    shiruoshiru

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    shiruoshiru

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    他所様のキャラさんの精神ダンジョンに自キャラが迷い込んだら?の妄想を書き綴った怪文書。
    風切弥生さんのところのノーンさんの精神ダンジョンネタをお借りしております。
    何故ノーンさんか?
    しるさんはノーンさんのオタクだからな…

    錆びついた夢急な息苦しさで、満月は目を開いた。
    最初に見えたものは、ボロボロの街だった。よく見ようとしても周囲は砂埃が舞っていて、見えづらく、息もしづらい。魔力で身体を薄く覆って、即席のフィルターを作ってから、周囲を見回した。
    本来、街に満ちているはずの人間の姿は見えない。気配も無い。無数の建物、無数の窓、錆の浮いた建物の欠片が、ただ風に撫でられてその身を削っていく。
    そんな廃墟が立ち並ぶ大通りのアスファルトの上に、満月は立っていた。
    (どうして私は此処にいるのだろう。)
    まだ寝ぼけた頭で記憶を探る。
    ストンと眠りに落ちる様に、不意に意識を失った自分。伸ばされた手。自分から自分の意識を引き剥がされる様な感覚。
    心だけ、この世界に連れてこられた?
    一番高い可能性を考える。他の可能性も勿論否定しないが、今のところこの可能性が一番しっくりきた。
    胸元に擽ったさを感じて服の内側を覗く。ピンク色の触手が一本、蛭の様に満月にピッタリひっついていた。
    (エクリッシの欠片だ。)
    満月の連れて行かれた心と、置いていかれた精神体を守るため、エクリッシが自分を分裂させて満月の心にひっついてきたのだ。連れて行かれたのがあまりに急だったから、小さな触手一本だけになっているが、帰る方法さえ見つけ出せば、エクリッシは満月を元の場所へ連れ出してくれるだろう。
    そうと分かれば。何時までもここで立ち往生しているわけにもいかない。情報が必要だ。手近な廃墟の陰に入り、風と砂埃を避けながらこの世界の根源と接続すべく目を閉じた。
    空っぽになった頭の中に、ごうごうと言葉の奔流が流れてくる。
    精神が作り出す迷宮。迷宮核。錆竜の巣窟。穴。錆。砂。ワニ。空虚。五つ星。孤独。絆。イェリー。ベイル。ウィーシャ。フランク。レスト。ヘマタイト。脱出方法、この空間の中で死亡、または全員を倒す。
    そこまで情報を得て、ふ、と息を吐いた。
    接続を弱くして意識を自分に巡らせる。
    脱出方法は分かった。ずいぶんと極端な方法だが、何も分からないよりは余程良い。
    しかし、この誰もいない空間で『全員を倒す』とはいったいどういうことだろう。
    小首を傾げる。瞬間。殺気を感じて満月はその場から飛び退いた。
    先ほどまで満月がいた場所には、鋭い刃によって切りつけられたような跡が残っている。
    敵襲か。満月自身が弱体化しているとはいえ、攻撃まで存在を感じさせなかった敵だ。相当の手練れだろう。満月は目つきを鋭くさせて、斬撃を放った敵へ視線を飛ばす。そして、そのまま凍りついてしまった。
    知っている。初めて会うけれど、私はこの人物を視た事がある。ノーンの身体にあるいくつかの霞んだ意志。その内の一つが、斬撃を飛ばしてきた亡霊だった。
    (じゃあ、ここは、ノーンさんの精神世界なの?)
    ならば、自分は誰も倒せない。
    大切な友人を、その身体に同居する意志を傷つける事なんて、自分には出来ない。
    どうせこの空間で死ねば帰ることが出来るのだ。満月は自分にかけていた防壁を解いて、目を閉じて一撃を待った。
    …しかし、何時まで経っても攻撃は飛んで来ない。
    尚も待ったが、それでも未だに攻撃されない。遂に砂埃に耐えられなくなって、くしゃみをした満月の眼前。亡霊は満月の顔を覗き込んでいた。
    わ。思いのほか顔が近くて、一歩後ずさる。亡霊は攻撃して来ない、殺気すら消えていた。それどころか、初めて視認した時は1体だったのが8体に増えている。全員、ノーンの中にあった意志達だ。
    ひときわ濃く見える亡霊が、大通りの先を指差す。
    「そちらへ行けばいいの?」
    問いかけに応える者はいなかった。
    ならば行くしかない。亡霊が指差した先へ、満月は歩みを進めていった。

    〜〜〜

    歩いて行くにつれ、剣戟の音と血の臭いが強くなっていく。
    ノーンさん達は無事だろうか。怪我等していないだろうか。
    しらず、駆け足になる。走って走って、息を荒げて駆け抜けた先に見えたものに目を見張る。
    見えたのは背中に大砲を背負った二足歩行のワニの様な生き物と、それに対峙するノーンの後ろ姿がそこにあった。
    ノーンもワニもお互い傷が多かったが、ワニの方が傷が深いらしい。ワニの片膝は地面に付き、今まさに、ノーンがトドメをさそうとしている。
    あのワニは、ノーンさんが何かしらの意志に呑まれかけようとするのを留めていた意志の持ち主だ。それを、殺させるなんて!
    「駄目!ノーンさん!」
    叫びながら身を投げだして、ワニを背に庇った。振り下ろされた刀が満月の身体を切り裂く。
    赤い血飛沫が斬られた場所から吹き出した。
    今ここにいるのは私の心だけだというのに、血が出るなんて、へんなの。自分の身体から吹き出た血を、満月は不思議な気持ちで見ていた。
    ズルリ。
    満月の胸元にあったエクリッシの触手が満月を覆う様に広がる。
    そうか。この空間で死ぬという条件を達成したから、エクリッシが連れ戻そうとしてくれているのだ。
    少しだけ安心した満月の目に、赤い瞳の青年が映る。そういえば、ノーンさんのお顔って見たことが無かったな。こんなお顔だったのか。意識を引っ張られ、薄れゆく視界の中、満月は青年に微笑みかけた。
    「だいじょうぶ。…だいじょうぶですよ」
    上手く回らない口で伝える。
    貴方は私を殺してなんかいない。私はただ、元の場所へ帰るだけだ。
    ピンク色の触手に身体が呑まれていく中で、満月の意識は途絶えた。

    〜〜〜

    真っ暗な中で満月は目覚めた。手を伸ばすとうねうねとした感触。エクリッシか。満月は微笑んだ。
    「おはよう、エクリッシ」
    「おはようございます、満月」
    無機質な声とともに、満月の視界に光が差し込んだ。繭の様に満月を包んでいた触手が引いて、いつものエクリッシの姿になっていく。
    「満月、今しがたスキャンをした際に異常は見られませんでしたが、不調はありますか?」
    身体に意識を集中させて確認する。いつもどおりの自分だ。
    無いよ、と笑いかけ、守ってくれてありがとうと言えば、「それが私の望む事ですので」と無感動な声で返された。
    クスクス笑ってエクリッシの頭を撫でるその隅で満月は考える。
    あの世界で起きた出来事を、ノーンさんは知らないでいてくれたら良いな、と。
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