テントの中で「スヴェルく〜ん」
「…」
「ね、スヴェル君ってば」
「…」
鬼火の森。簡易に張られたテントの中。
寝たきりのセラは、土気色の顔をしたスヴェルに世話を焼かれていた。
身体を動かそうとしても、動かない。血も多く流し過ぎてしまったし、セラの胸から下腹部には無数の刺し傷がまだ残っていて、少し身じろぎをするだけでも痛む。
その傷を作ったのは、目の前のスヴェルだ。
正確には、ドレイクによって精神を混乱させられたスヴェルの短剣によって。
運良く同行していた王女、ミカエルの能力によってセラは一命を取り留めた。
あの場に彼女のポーンであるシルヴァンもいたから、
セラがスヴェルに命を取られる事も無くこうやって寝ていられる。
ドレイクに掴まれたスヴェルを助け出そうと焦ったセラの判断ミスが引き落とした結果を、周囲にカバーしてもらったのだ。
自分が動けない間にドレイクの炎に焼かれた兵士達を思うと、胸が痛む。
戦い慣れていない相手ではない。油断も焦りも無ければ、もっと被害は減らせたハズなのに。
スヴェルに、こんな顔をさせないで済んだのに。
「スヴェ…コホッコホッ」
寝たまま呼びかけようとして、うっかり唾液が気管に入ってしまった。咳き込む度に傷が痛む。慌ててスヴェルが擦ってくれた。
自分の身体なのに。ままならない。ドラゴンに心臓を取られた後だってこんなにはならなかったのに。
「…マスター。本当に…申し訳ございません…」
憔悴しきった低い声。もう何度目かの謝罪。セラはこれっぽっちも気にしてなんかいないのに。真面目なスヴェルはすっかり落ち込んでいる。でも、もし逆の立場だったらと思うと、セラはスヴェルの言葉を止める事も出来なかった。
「…ねぇスヴェル君、次にお薬を飲む時にね。花の蜜を入れたお水を用意して欲しいな。ミカエルさんのお薬、苦いんだもん」
なので多少強引にでも話題を変えることにした。
「苦いって言ったこと、ミカエルさんには秘密だよ?」
痛みに負けず微笑んでみせると、スヴェルはやっと目元を和らげてくれた。
「…はい。承知しました、マスター」
「あっ、シルヴァンさんにも秘密ね?」
「えぇ」
「身体が動く様になったら、リハビリに付き合ってくれる?」
「勿論です」
「空中でハーピーから別のハーピーの足を掴んでどこまでいけるか試したいんだけど」
「それは駄目です」
…ちぇっ!