無題。「コウ、俺、腹減ってもう動けない」
琥一がダイナーに帰ってきて、一番最初に聞こえてきたのがそれだった。
声の主である琉夏はダイナーのソファ席に横になっていて、通路に出ている足だけが見えている。
「なんか食えばいいだろ」
「何もない」
「あんだろ、この前……」
「それは、もう食った」
琥一が何か言う前に、琉夏が答える。
琥一が眉を顰めて、ソファとテーブルで見えない琉夏を見やる。
「あ?」
「だから、もう食った」
「まさか、全部……」
「うん、そのまさか」
「……ウソだろ」
琥一の足はそのままダイナーのキッチンへと向かう。そして食料をしまってある扉を開ける。特売セールで買った缶詰諸々が消えていた。
「……チッ、……バカルカ!オメェ、あれはいっぺんに食うなつったろーが」
「いっぺんにじゃないよ、少しずつだって。あれだけじゃ、しょっぱ過ぎていっぺんには食えないだろ」
ルカの言葉に頭を抱える琥一。それから、すくっと立って自室へと足を向ける。
「塩でも舐めとけ」
「俺、動けないって言ってんだろ」
「ウルセー」
──数分後、キッチンに立つ琥一。辺りには香ばしく甘い香りが漂っていた。