14歳の銀河●
放課後になって、リュックを背負って、いつもの空き教室へ走る。吹奏楽部や他の部活で使われないし、茶化してくる部外者も居ない、俺達の秘密基地。
息を弾ませ、心を弾ませ――退屈な授業を数時間も耐えたのは、この時の為。わくわくする気持ちと共に、ガラガラガラと戸を開ければ、もう友達が待っていた。今日は俺が一番最後だった。
「やほー!」
授業の合間とか、昼休みとかも顔を合わせてお喋りしたけど、やっぱ放課後に会うのが一番アガる! せせこましい時間制限もないし!
皆が俺の名前を呼んで、迎えてくれる。この瞬間が俺はけっこー好きだったりする。ああ、俺の、俺達だけの特別な場所だなぁって、帰ってきたみたいな心地がするから。
「書いてきたよ!」
息を整えるよりも先に、俺はリュックから真っ黒い表紙のルーズリーフを取り出した。俺達の物語、『†ファントムプラネット†』だ。暝子が考えて、珠衣が誘ってくれたやつ。今回は俺の執筆の番だった。昼休みに円から回ってきたから、授業中にコッソリ書いたのだ。……そんなことしてたら成績が下る? 大丈夫大丈夫、勉強で困ったことがあったら円に聞けばいいもんね! 円はメチャクチャ頭が良くて、こないだのテストでも学年トップだったし。
さてさて、†ファントムプラネット†を机の上に広げる。皆がわくわく覗き込む。空想世界での、楽しい冒険の始まりだ。
――俺達は、赤い月の輝く夜の街で、思い思いのキャラクターに自我を重ねて、好き放題に大暴れする。
巨大ロボットが、女神の転生体が、宇宙の真理を知る覚者が、麗しの二刀流剣士が、立ちはだかるものを快刀乱麻に薙ぎ払う。
このルーズリーフの中で、俺達は世界で一番自由だった。
俺が書いて、暝子が書いて、珠衣が書いて、円が書いて、また俺が書いて。その度に感想を言い合ったり、こんな展開良くない? と話したり、思いついた設定を披露したり、友達が書いてる間は別の紙にキャラの絵やシーンの絵を落書きしたり、好きなことを話したり、持ってきた携帯音楽プレーヤーで好きな音楽を流したり……。
遠くで吹奏楽部の練習の音色と、野球部のバットの音が聞こえる。
そうして気付いたら、もう帰る時間になっていて。
だから、俺達はギリギリまで一緒にいる。一緒に下駄箱に向かって、ギリギリまで一緒の道を通るんだ。ずーっと、楽しいおしゃべりをしながら。
今日の夕焼けも凄く綺麗だった。ビルの窓に、車の車体に、茜色がキラキラしてて。でも夕焼けはいつもバイバイの時の色だから、なんだかセンチメンタルだ。
「じゃあ……また明日な!」
この踏切の道を通るのは俺だけ。三人に手を振る。「じゃあまた」「それではー!」「うむまた明日」と皆が手を振ってくれる。ちょうど遮断器が鳴り始めたから、俺は駆け足で踏切の向こう側へ。そうして遮断器が降りて、電車が通り過ぎて……皆が見えなくなって、全部また明日だ。
『了』