新刊サンプル「一真、そろそろイく…」
「ふ、あ……せん、せぇ……」
腰がつくほどに深く埋め込んだそれをゆっくりと浅いところまで引き抜く。皺が限界まで伸びた縁がひくひくと絡みつき、これ以上抜かせないと引き留めてくるようだ。その願い通り、引き抜いた時の何倍もの速さで奥へと腰を叩きこんだ。
「あ゙、あ、ぁ———……ッ」
「ッは、あ……」
掴んだ腰にぐりぐりと押し付け、中へ吐精した。真っ赤になった背中にぽたぽたと髪を伝って汗が落ちる。吐いた息が跳ね返り、酷く熱く感じられた。
荒い息を整え、何時までも熱くとろける中に埋め込んでいたい衝動をこらえながらゆっくりと腰を引くと、「あ——……」と間延びした声が上がった。いつもより少し枯れたその声にまた腹の奥底が熱くなりかけたが、頭を振り払って萎えた自身からゴムを引き抜き口を縛る。それを放り投げた先のごみ箱の中には使用済ゴムが層をなしている。
今日は何回やったんだったか。使いかけの箱を使い切って、新しいのを開けたのは覚えている。手と口で一回ずつ、中で二回か。まだ若いつもりでも、盛りすぎだなと自嘲する。
「ほら一真、水の飲むか?それとも先にシャワー浴びるか?」
「せんせ……水、ほしいです」
「ん、ほら」
引き抜かれた刺激でぶるぶると震えていた体がゆっくりとシーツに沈み、枕に押し付けられていた顔が久しぶりにこちらに向く。涙とかよだれとか、いろんな液体でぐちゃぐちゃなのに、元が整った顔立ちのせいか、それともこんなことをするくらいに絆されてしまっているせいか、妙にかわいく見えるのだから始末に悪い。
枕元に置いていたミネラルウォーターのペットボトルを口元へもっていくとよほど喉が渇いていたのか半分ほどを一気に飲み、満足気な顔をしたと思ったらすぐに寝息を立て始めた。
漫画みたいな寝付きの良さに息で笑い、洗面所へと向かう。引っぺがしてきたいろんな体液でドロドロになったシーツをドラム式洗濯機に放り込んだ。一真が目を覚ますくらいには乾いているだろう。
新しいシーツと湯で濡らしたタオルを手に寝室に戻ると、子供みたいな顔で人の枕を抱きしめて持ちよさそうに寝たままの一真の姿が目に入る。
でかい体を転がして、つけっぱなしだったゴムを外してやる。一度くらい途中で交換した記憶があるが、そのあとはずっとそのままだった。全身性感帯かと思うくらいにどこを触っても反応が良くついつい面白くなってあちこちいじめてしまうのだが、中でイキしっぱなしで出るのは先走りと潮くらいだったのでまあいいやとそのままにしていた。何しろ「俺のちんこ、こわれちゃった……」なんてぼろぼろ泣きながら言われたせいで、都度一真のゴムまで付け替える余裕など吹き飛ばされてしまっていたので。
「うわ、全部潮かこれ……」
たぷんと溜まった中身は精液にしてはサラサラとしていて色が薄い。こいつ本当に雄としての機能壊れているのか?と眉をしかめつつゴムの口を縛ってゴミ箱に投げ捨てると、体液でべたつく身体を遠慮なく濡れタオルで拭いていく。そこそこ強い力で少々雑に拭いても深く寝入っている一真は一向に起きそうにない。
上半身、腰回り、足と拭いて行って、最後は今夜一番酷使した箇所だ。ゴムはしていたものの、中に潤滑材のローションが残っているからかき出してやらないといけない。少し赤みが残りふっくらとしたそこに指を突っ込もうとした時だった。
「……ん?」
あれだけ長時間咥えこんでぽっかりと孔が広がっていたそこは、寝息に合わせわずかにひくひくと動いているものの、ちゃんと閉じていた。……閉じてはいたのだが、だが、完全に元通りとは言えない相違がそこにあることに気づいた途端、冷や汗が流れた。
シーツの乾燥が終わった頃、やっと一真が目を覚ました。疲労困憊だったのが嘘のような全回復で、ついでに腹の虫もしっかりめの音を出して主張していた。
「おはようございま……ゲホッけむてえ!」
「ああ、すまんな」
「ちょ、センセー何本吸ってたんですか?!」
手元の箱を見れば、ほとんど空になっていた。何本か吸った自覚はあったものの、いつの間にこんなに減っていたのか。いやそれはいい、そんなことはどうでもいい。
確認と、知らせなければいけないことを頭に浮かべ、「換気しましょう、換気」と下着一枚で窓を開けている男の背中に俺は口を開けた。
「一真」
「なんですか?」
「お前、今もやる前に二~三発抜いてきているか?」
一真は性欲が強く、体力も底なしだ。満足するまで付き合うとこっちの体力も精力も持たない為、苦肉の策として今日やると分かっている日には事前に数発抜いておくように言ってある。
質問にきょとんとした顔をしつつも、一真が頷いた。
「はい、抜いてますけど……」
「それは前で?」
「ちんこでってことですか?えーと……そっちでイくと賢者タイムですか?あれがくるのいやで、ここ最近はやる前とか一人でする時は、その……」
もじもじと両手の指をあわせながら、小さな声が予想通りの言葉を紡ぐ。
「尻、自分でいじってました」
一人寝の寂しさに、つい後ろをいじってしまったのも一度や二度ではない、ということらしい。
予想通りの答えに、大きなため息をつきたくなったが別に一真が悪いわけではない。悪いのは、抑えの聞かない性欲モンスターのこいつにこんなことを教え込んでしまったこちらだ。
「変にショックを与えたくないから黙っているか迷ったんだが、お前気付かないだろうし……俺にも半分以上責任があるからさ」
「まってください何の話ですか」
「アスタリスク、って記号わかるか?」
「え、えーと、なんか棒で書いた星みたいなやつ」
「そうそれ」
ベッドサイドのテーブルに用意していた紙をおもむろに掲げた。A4サイズの紙には大きくアスタリスクの記号が書いてある。
「これをお前の尻の穴とする」
「尻の穴」
突然言われた言葉が理解できないらしく、一真が目を白黒させる。が、話を続ける。大事なのはこれからだ。
「これの縦の線がな、普通ならこうなんだけど……今はこれ」
アスタリスクの左右の線はそのままに、上と下の線だけを、ペンで上下に伸ばす。
意味が分からない、という顔でまじまじとそれを見ていた一真が、「……つまり?」と先を促す。
「尻の穴がな、縦割れになってきてるんだ」
「……………」
「……………」
「あの、これってやばいやつですか?」
「詳しくないのでわからないが……形変わるのはやばいんじゃないか?」
「え、そっ…かぁ……」
視線をふわふわとさまよわせて困った顔をするものの、いまいち理解できていないのか、あまり自体の深刻さが分かっていないようだった。
ため息をひとつつくと、一真に一つの提案を突きつけることにした。
「……しばらくは尻にはいれない」
「えっ……」
「前触ってやるよ。何だったら口でしてやってもいいし」
「まっまってください!口でしてもらえるのはめちゃくちゃ嬉しいんですが!俺、センセーにも気持ちよくなってもらいたい!です!」
「とか言って、尻に入れてもらいたいだけだろうが」
「うっ……だって……センセーが奥までいっぱいに入れてくれるとふわふわして幸せで、凄く気持ちいいし……」
「だから煽るんじゃない」
ベシッと額をはたけば上目使いで拗ねたように唇を尖らせる。そんなあざとい顔をされてもこれは決定事項、上司命令だ。
「とりあえず一カ月。ちゃんと約束守れよ、一真」
俺の尻については、持ち主の俺よりもセンセーの方がよく知っている。何せ自分じゃ見えない場所だし。もしかしたらセンセーの類まれな記憶力は穴の皺の数まで記憶されているかもしれないがそんなところにセンセーの脳の記憶容量を使ってほしくないので数えてないと嬉しいのだが。
正直なところ、別に見えないところがどうなろうと、特に現状困っているわけでもないので何とも思わない。だが、センセーはどうやらかなり責任を感じてしまっているらしい。そしてあろうことか、一カ月のアナルセックス禁止令が出された。
一カ月も。そこで俺は思わず悲痛な声を上げてしまったのだが、センセーの決定は覆されなかったばかりか、なんとさらに尻での自慰行為まで禁止にしようと言われてしまったのだ。
「自分で弄るのも禁止って酷くないですか⁈」
酷くない。そっちも禁止しないとえっぐいもんを代わりに尻に入れそうだし」
「えぐ……っ、そんな、ことは……」
「すぐ否定できいないってやっぱり入れる気満々だったんじゃないか。本来の使い方されずに疲れ切っている尻を労わってやるためにも我慢しろ」
「疲れ切ってるって何ですか!今のとこ形が変わった以外は問題ないじゃないですか!」
「その形が変わったのがやばいって言っているだろうが。今問題なくても後々問題が出たら困るのはお前だろう」
「ッ……!」
「納得いかないって顔してるけど、甘やかさないからな」
センセーはこうと決めたら結構頑固だ。あの手この手で懐柔しようとしても絶対になびくことはないだろう。俺は泣く泣くセンセーからの提案という名の命令を受け入れるしかなった。
センセーにセックス禁止令が出されて二週間目に突入した。
自分からセンセーを誘ったところで尻に入れてもらえないと思うと、絶対消化不良になりそうでそう言った雰囲気になるのも何となく避けていた。
事件によっては二週間以上お預けになることも珍しくはないが、自分で弄るのも禁止されてしまったのもあってなんだかんだ今まで一番長いオナ禁状態となってしまっている。
「あー……セックスしたい……」
「………」
「センセー、今日って絶好のセックス日和だと思いませんか?」
「………」
いくら禁欲的な生活をしていても、まだ若い身のため性欲はとどまることを知らず、最近は直接的な言葉でお誘いをかけたりなんかしている。全くなびいてもらえないのだが。反応くらいくれたっていいのに。
センセーが俺のためを思って提案してくれているというのはよく分かっている。男の俺とこんなことをすることになる前は尻にはあまり興味がなかったセンセーだから、同じ男の自分に置き換えて余計にショックを受けてしまったのかもしれない。
でも、尻に物を入れてる人間なんてネットの海を漁れば履いて捨てるほど出てくるというのに、一カ月も禁欲生活をしなければならないのはちょっとどころではなく納得がいかない。
「……こうなったら、最終手段だ」
「てことで、実力行使に出てみました」
「何が、てことで、だ」
馬乗りになって見下ろすセンセーの顔は、何時もとは違うアングルでとても新鮮だ。
こんな心底嫌そうな表情、普段の俺なら見てすぐに土下座して謝るところだが、今は爆発しそうな性欲が一番に優先されるせいで、その表情すらご褒美に感じられた。
センセーは徒歩十分の自宅にすら帰るのが面倒だからと仮眠室兼休憩室の和室に泊まっていくことが多い。それを狙って今夜は俺も事務所に泊まり込むことにした。徒歩で三十分近くかかる自宅に帰るのが面倒だと言えばセンセーもまぁ仕方ないかという顔で了承してくれた。
おかげでこうして夜這い成功。
明日は予定もないからと俺に勧められるまま缶ビールと日本酒を煽っていたのも反応を鈍らせる要因になっていたと思う。
「ほら、センセーもちょっと硬くなってきてません?」
「そこを刺激されたら、大体の男は硬くするだろうよ」
尻をすりすりと押し付けてみれば、センセーが大きくため息を吐く。
硬くしたついでに入れてくれないかな、でもまだ硬さ足りないなと尻を押し付けていると、「一真」とセンセーが俺の名前を呼んだ。
「……なんですか」
「俺はな、お前のためを思って尻を使うなって言ったんだけどな」
「わかってます」
「分かってないだろこの状況」
「頭では理解できましたが体が理解できませんでした」
「は~~~」
素直に返事を返せば、乗り上げた身体が脱力したのが伝わってきた。諦めてセックスしてくれる気になったのかとわくわくしながら顔を覗き込むと、眉根を寄せたセンセーが首を振った。
「悪いけどなぁ、一真」
「はい?」
「あれだけ飲まされたら流石に勃たない」
「えっ」
「缶ビール五本は開けたし、日本酒も酎ハイも結構飲んだもんな」
「そ、そんな……」
酒で判断力と行動力を封じたつもりだったのに、一番大事なものまで封じられてしまったらしい。
言われてみれば、何時もならここまで刺激すれば元気になっているセンセーのちんこはせいぜい半勃起程度にとどまっている。いいアイデアだと思ったのだが、やりすぎてしまったようだ。
「まあでもお前がこんな無茶するのも仕方ないか」
しょんぼりしていた俺の頭を、センセーの手がぽんぽんと優しく叩く。
「オナニー手伝ってやるよ。チンコ限定だけど」
「ゃ、あ゙っせんせ、だめ…もうだめぇ…」
だめじゃないだろ、ほら」
「っアぁぁ」
センセーの細く繊細な指が搾り取るような動きで俺のちんこを絞る。久しぶりのまともな刺激を受けたそこはその絶妙な力加減になすすべもなく、俺はずっと壊れたおもちゃのように喘ぎっぱなしになっていた。
さっきまで眠っていたせいで少し体温が高いセンセーに身体を預け、鼻腔いっぱいに久しぶりの匂いを吸い込むともうそれだけで絶頂しそうだ。
「あ゙あぁやだやだせんせ、だめ、いく、いっ……」
「いいよ、イきな」
「っ、い、ぐッ——————————!」
「ああ、ちゃんと射精出来たな」
えらいえらいと子供のように褒められて顔が赤くなる。
見れば、久しぶりに出した精はとても濃くて、センセーの手をドロドロに汚してしまっていた。
「ッは、あ……せんせ、ぇ……手、ごめんなさ…汚し……」
「ん?ああ、別にいいよ」
ちろり、とセンセーの赤い舌がその手の付着物を舐めとる。
「うぁ、えろ……」
「サービスはここまでな」
残った精液は傍に転がっていた俺のパンツで拭かれてしまった。いや、洗濯するからいいんだけど。
「どうせならせんせーのちんこも気持ちよくなりましょうよ」
「いや勃たないし、後日気持ち良くしてもらうからいいよ。あと二週間、頑張れ、がんばれ……」
そんな雑な応援をしたあと、もう用は済んだとばかりにセンセーは布団に倒れ込んで速攻で眠ってしまった。
すやすやと眠るセンセーを前に、こんな元気な息子を抱えてまたこうして暴走しない自信がないなとため息を漏らす。
二週間後、絶対にセンセーがもう無理だって言うまで搾り取ってやろう。
そう心に誓い、センセーの寝顔をおかずにこっそりと見抜きさせてもらった
END