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    にしはら

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    にしはら

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    【耀玲+荒木田】
    耀玲のとばっちりを食らう荒木田さんの話。ギャグです。(not蒼玲)
    ついったにあげてるものと一緒です

    #耀玲
    yewLing
    #ドラマト
    dramatist
    #スタマイ
    stamae

    寝た子であれば起こさなかった


     荒木田が外回りから戻って来ると、捜査一課に面する廊下を右往左往する不審人物がいた。室内側と窓側とを、何かを見下ろすようにして行ったり来たりしている。見知った人間だったので不信感は募らせなかったが、それでも訝しげに声をかける。
    「……何してんだ、泉」
    「あっ荒木田さん! お疲れ様です!」
     今日も相変わらず張りのある声で応える玲は、如何にもといった困り顔をしていた。
    「……探し物でもしてんのか?」
    「え、良く分かりましたね」
     きょとんと目を瞠る玲に、呆れにも似たため息を落とす。
    「そんだけ念入りに目配せしてウロウロしてりゃ、何となく想像つくだろ」
    「あはは、お恥ずかしい限りです……」
     不審行動の事情を当てられて居たたまれなさそうだったが、気後れなく玲は頬を掻いた。聞くところによると、ピアスを何処かに落としてしまったのだという。
    「失くしたことに気付いたのが今朝なんです。昨日の夕方、警視庁こちらの化粧室で身だしなみを整えた時、鏡に映っていた記憶はあるんです。その後、捜査一課の皆さんと打ち合わせをして……そこからの記憶が曖昧でして……」
    「家の中は隈なく探したってことだよな」
    「一応は……。まだ見落としている可能性だって高いのですが。なんたって小さいものですし、外れやすいものですから」
     着替えをする際にも気を付けないとうっかり取れてしまうという。そんな気の揉みやすいものをどうして好んでつけたがるのかと荒木田としては理解不能だったが、元より女というものは不可思議な存在だった。だからそういうものなのだろうと己に納得させる。
     肩を落とす玲が、ほとほと弱った声音で投げかけてきた。
    「荒木田さん、探し物をする時のコツって存じ上げませんでしょうか」
    「……あんま失くしものとかしねーけど、過去の自分ならここに置くだろ、ってとこを探すと思う」
    「……なるほど」
     実のあるアドバイスになっているかは分からないが、玲は大真面目に頷いてくれた。
    「だったらやっぱり一課の近くか、家の中に重点を置くべきですかね」
    「帰り道はどうだったんだ。電車ん中とか」
    「あ、昨日は服部さんに家まで送っていただいたんですよ」
    「だったら耀さんの車ん中って可能性も出てくる」
    「おお、荒木田さん名推理です!」
     顔を輝かせた玲は、すぐさま捜査一課の中を覗き込んだ。目当ての人物を嬉々と探すが、徐々に苦々しそうな表情に変わっていく。
    「ちなみに、服部さんは今どちらへ……」
    「いつもみたくエスケープ中だ」
    「……そのようですね」
     再びがっくりと肩を落とすので、荒木田は苦笑する。目まぐるしく変わる分かりやすい挙動から妙な世話焼き心を掻き立てられてしまうのは、玲の表裏のない人柄によるものなのだろうか。
    「……後で耀さんに訊いといてやろうか?」
     玲は、何故か必要以上にぎょっと肩を揺らした。
    「えっと、あの、そこまで荒木田さんにご迷惑をおかけするわけには……」
    「そんくらい迷惑でも何でもない。……多分だけど、泉にとって大事なもんなんだろ」
     先ほどの弱り果てた表情には、ささやかに追い詰められているのも見てとれたのだ。唇をやたら引き締めていた玲だったが、白状するように頷く。
    「……はい。安物だったらまだ諦めがつくんですけど、ちょっとした良いものというか、絶対に失くしたくないものだったので……」
     それでも普段から身に着けておきたかったもの。そこから導き出される推測は、よっぽどのお気に入り、もしくは大切な人物からの贈り物。
    (――男か)
     そういう方面に聡い訳ではないが、別に鈍くもない。職業柄、人を観察する眼は養われている。現に、玲も心なしか気恥ずかしそうに目元を柔めていた。
     野次馬根性は持ち合わせていないので相手の正体は心底どうでも良かったが、泉も恋とかするんだな、などと荒木田の思う女子にカテゴリされていない感想をうっかり抱いてしまった。失礼なこと思ってんなよと己を内心責めつつ、罪悪感を昇華させるべく玲の助太刀を買って出る。
    「俺も何処かでそれっぽいの見つけたら、拾っといてやる。どんなやつだ」
    「ええと、スタッドタイプで、割とシンプルなやつなんです。ダイヤがちょこんと付いてて、台座が三日月みたいなモチーフになってるんですけど……」
     身振り手振りで表現しようとする玲に、とりあえず紙に書けと一課の中へ手招く。班の席に座ってメモ帳にペンを滑らせていたところで、外回りに出ていた菅野が息を弾ませて戻ってきた。
    「蒼生さん蒼生さん! ちょっとちょっとビッグニュースですよ!」
    「うるせーよ、夏樹」
     けたたましい勢いに荒木田が顔をしかめ、玲も机から顔を上げて不思議そうに首を傾げる。
    「菅野くん、何かあったの?」
    「って、あれっ、玲がいる! いやそれがさ~、ここ数年のトップスリーに入る特ダネっていうか、驚天動地の大事件的なやつバッチリ目撃しちゃって。知りたい? 勿論知りたいよな?」
     そう投げかけるニヤニヤとした笑みは一際に悪辣な色がある。こういう表情の物語る大体は、下世話なネタが主だったものだ。過去の事例から読み取った荒木田は小さく息をつくと、にべもなく淡々と返す。
    「興味ねーな」
    「なんかすっごく引っ張るけど、是非とも知りた~いって言わなきゃならない流れなのかな……」
     玲も冷め気味に聞き返すので、菅野はさすがに面白くないと膨れ面になった。
    「え~~、二人して素っ気なさすぎ。絶対気になること間違いなしなのに」
    「だから何だっつーんだ」
     菅野はきょろりと辺りに気を配ってから、二人にだけ聞こえる潜めた声を落とした。
    「ズバリ、耀さんに特定の女がいた情報」
    「……は?」
     荒木田は凶悪犯にも似た面差しで眉をひそめ、玲は無表情で手にあったシャープペンシルの芯をぼきりと折った。
    「上に内緒のちょっとばかしアレな事案があったんで、耀さん家でお説教食らってたんです。で、見ちゃったんですよね~、女の痕跡の諸々を」
    「……色々ツッコミたいとこはあるが、特定って言い切る根拠は何なんだよ」
    「あの耀さんが自分ん家に連れ込んでるってところでまず1ポイント。あの人自炊しないのに、キッチンスペースのゴミ箱に生ゴミが捨ててあったし。そんでコート掛けには、耀さんが使いそうにないハンガー。ほら、スカートを挟む金具が付いてるヤツ。そこでまた1ポイント。極めつけは、寝室のサイドボードに女物のピアス。女がワザと落としていった可能性はまずなさそうですね。なんたって専用っぽいトレイに入れられてたし。そこには割り増しで3ポイント! どうですか、特定で確定でしょう」
    「つーか寝室まで覗いたのかよ、お前」
    「開けっ放しだったから見えちゃったんですって。俺、視力良い方なんで! 確か、ダイヤの付いたちょっと洒落た感じの三日月っぽい形で……」
    「三日月……?」
     ハッと一瞬瞠目した荒木田は、デスクへと視線を落とした。玲の手元にあるメモ帳に描かれた、捜索願い中のピアスデザインを。
    「わああああああ」
     玲は絶叫しながらメモを覆い隠すようにしてデスクに突っ伏した。
    「ちちち違うんです、いや違わないんですけど、他意はなくてですね……!」
     玲の表情は見えなかったが、かろうじて窺える耳端が真っ赤に染まっている様子からして、これは紛う方なきビンゴなのだろう。
    「分かったから、一旦落ち着け……」
     他意って何だ。あったとしてもたまらないが、一体何を示すというのか。考えたくもないのに、今度こそ野次馬根性丸出しな想像を張り巡らせてしまう自分に心底げんなりしてしまう。
     菅野は身悶える玲に当初きょとんとしていたが、からからと軽快に笑い出した。
    「え? なになに、玲ってばそんなにショックだった? まあ元気出せって。耀さんについてける女なんてレア中のスーパーレアだし、耀さんだってどうせその内カラダに飽きたらポイするからさ。お前にもつけ込むチャンスは回ってくるって」
    「夏樹はちょっと黙っとけ」
    「違うんです、本当に違うんです……決してノロケようとか、新手の嫌がらせでもなくてですね……」
    「泉は頼むから落ち着いてくれ」
     一刻も早い騒動の収束を望む荒木田だったが、その願いも空しく一課に新たな闖入者が現れる。
    「ちょっと夏! 耀さんのラブラブ彼女の話を秀さんにも詳しく! ありとあらゆるツテ使ってばっちりくっきり特定しちゃうんだからねっ!」
     ――だめだ、これは簡単に収まらねえ。
     調停者としての未熟さを脇役ゆえに過信する荒木田は、この場は流れに身を任せるしかないのだと、無心の境地で傍観者に立ち回る道を選ぶのだった。


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    服部さんは多分わざと。
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    DONE【耀玲】いつまでもずぶ濡れになる玲ちゃんの話。ツイに上げてるものと一緒です。
    深水の残り香深水みずの残り香』



     ついてない、と感じる時はとことんついてないことばかりが雪崩れを打って押し寄せてくる。
     全身の沼に浸かり込んだような倦怠感があるのは、水気をたっぷり吸い込んだスーツのせいだろう。
     退庁時を襲ったのは突発的な土砂降りだった。夜更けにもかかわらず、一人きりで黒く濁った低天の下を力なく歩き進めていく。不用心なのは勿論承知だったが、課内は上長会議や代休取得も相まって人気もなかった。お気に入りの折り畳み傘は先日壊れたばかり。ロッカーの置き傘はビニール製故か誰かが持ち去ってしまった。
     絶対にずぶ濡れると分かってしまったら不思議と走る気にはならなくて、九段下駅へ真っ直ぐ進める筈の脚は反対方向のお堀沿いの道を選ぶ。広大な堀の中で気持ち良さそうに泳ぐ鯉も、この雨嵐の中では気配を見せない。状況としては、私も水の中を泳ぐ魚と一緒かも知れないなと雨に打たれる頭が取り留めのないことを考える。パンプスも膝下ストッキングもパンツスーツの腰周りも全部ぐしょぐしょで、浸水していないところなんかありはしない。必要最低限の荷物だけを入れたオフィスバッグだけは腕の中で死守しているが、恐らく徒労に終わるだろう。
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