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    sagapoipiku

    @8PxSMAKa8f68408

    主明小説

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    sagapoipiku

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    最初は「怒りたいのに怒れない明智」を書くはずだったのにめちゃくちゃキレてますね?????
    テストがてらアップしてみます

    #主明
    lordMing

    共感性嫉妬ようやくやってきた春。空気は暖かいし花も鮮やかに咲き始めた。
    明智はその分子の一つ一つを刺し殺さん勢いで睨みつける。
    革靴のつま先でアスファルトを蹴るようにして力強く踏み出すと、目的地も決まらないままにただひたすら歩いた。

    大学の後にルブランの手伝いがあるというので、たまには迎えに行ってやるかと明智も大学が終わった後に四軒茶屋へと足を運んだ。
    店のガラス扉からちらりと中を覗く。カウンターにいる蓮と、椅子に座ったどこぞの女子が楽しそうに笑っているのが見えた。
    マスターはいないらしい。
    その女子はテーブルに身を乗り出して蓮にあれこれと話しかけているようだ。うんうんと頷く蓮は口元に笑みを浮かべている程度。蓮は少し困ったように眉を下げているが、そんなこと気にしちゃいない。
    春先のそこまでは高くない気温の下、なぜそこまで肌の露出が多いのか。
    なんとなく嫌な予感がした。

    店内に入り、蓮に向けて軽く会釈をしてテーブル席へ座る。もちろんカウンターがよく見える位置だ。
    その女以外の客はおらず、蓮は明智を見て嬉しそうに微笑んだ。
    その顔を見れば、蓮の方にやましい気持ちがないことは明らかだろう。
    注文を聞くことなく、コーヒーを淹れ始める蓮の姿をうっとりと眺めているカウンターの露出女子。
    話している内容からして、どうやら同じ大学らしい。
    「ねえ、あの人って常連さん?」
    ひそひそと明智を気にしながら話す声が聞こえる。
    「ん...まあ、そうかな」
    「えー私も顔パスで雨宮くんのコーヒー飲めるようになりたーい」
    あからさまなアピールをものともせず無表情を貫いている恋人は立派だと思う。ただの常連扱いされているのは気に食わないが、かと言ってここで「彼は恋人だ」などと言われてもどんな顔をすればいいのかわからないのであれで正解だ。

    「ていうか、さっきの話の続きなんだけど」
    「あー...それは、また今度...」
    「え、なんでー?」
    「...今は、ちょっと...」
    ...なんか隠そうとしてるな。
    気配を感じて明智がカウンターの蓮に目線をやる。蓮もやっぱり明智を見ていた。
    「だって彼女いないんでしょ?じゃあ私と付き合おうよ」
    空気の読めない女がお構いなしに甘ったるく続けた。
    客である明智に気を使ったのであろう、一応、小さな声で。
    しかし明智の耳にはしっかり聞こえている。
    ああ、なるほど。告白の真っ最中だったのか。

    「彼女はいないけど...そういうのはちょっと」
    さすがに蓮の声には焦りの色が浮かぶ。
    そりゃそうだろう。
    恋人と目が合っているのに他の女の告白を聞くことになろうとは。
    そこの露出女だって、まさか自分が相手の恋人の前で告白しているとは思っていないだろう。
    彼女じゃなくて彼氏だとも思っていないだろうし。
    「私、よく上手いって褒められるんだよ?」 
    試してみない?とはしたなく誘う女に、蓮が眉を寄せて黙る。
    「... 雨宮くんって本当にクールだよね。そういう人が、夜になったらどんな顔するのか見てみたいっていうか」
    とんでもない肉食女子に狙われたな、と同情心もあるが、なにより今、胸を占めているのは不快感だ。
    曖昧に微笑みでごまかそうとするな。その顔すらお前は色気があるんだよ。
    カウンターに置かれた蓮の手に女が触れたのを見て、明智の中でなにかがプツンと切れた。

    ああもう。
    蓮の良いところは優しいところだ。
    自分が傷ついた分、人を守りたいと思う気持ちが強いやつだから、無碍にもできないのだろう。
    大学でどういう関係性なのかはわからないが、サークルだなんだと忙しい蓮には壊せない人間関係だってあると思う。
    でも。
    好意を寄せられてのらりくらりと曖昧にヘラついている恋人の姿を見せられるこっちの身にもなって欲しい。
    そう思い始めたら、反射的に席を立っていた。防衛反応なのかもしれない。
    乱暴にテーブルに小銭を置くと、びくりと反応したカウンターの二人が明智を見る。
    女は「えっなに」とわざとらしく怖がる素振りを見せていたし、蓮も明らかに動揺していた。
    「...ごちそうさま」
    コーヒーはまだテーブルに届いてすらいない。
    明らかに様子のおかしい客となった明智は足早に店を出ようとドアへと進む。
    蓮は女の手を払ってカウンターの中からぐるりと回り、明智を追いかけるように近付いてきた。
    それでもマスターがいない状態で店を放って追いかけることなどできるわけがない。
    ドアを閉めて歩きだしても、店からは誰も出てこなかった。

    最後まで戸惑う姿を見物して、からかってやってもよかった。
    そうすれば蓮だって、困ったように笑いながら「俺モテるから」とジョークにして終われたのかもしれない。
    でもそんな余裕のあるフリはできなかった。
    蓮はわざとあんなシーンを見せたわけでもないし、あの女だってそうだ。
    蓮に対しても、彼女に対しても、どちらにも怒ることなどできない。
    怒ることじゃない、仕方ない。
    そう頭で繰り返しても、イライラは消えなかった。

    一時間ほどは歩いてきただろうか。渋谷のスクランブル交差点が見えてきて立ち止まる。
    足が痛い。
    そもそも今日は明智の家で映画を見る約束だった。歩くのに適した靴ではなく、蓮が見て「かっこいいな」と言ってくれそうな革靴を選んできている。
    「あーもう歩きたくない...」
    足を休めようと人通りの少ない路地でビルの壁にもたれた。
    ポケットではさっきからスマホがブルブルと何度も着信を示しているが、話す気にはならなかった。
    たしか近くにカフェがあったから、そこでしばらく休もうか。
    このまま着信を無視していれば大事になってしまいそうで、チャットで居場所だけ送りポケットにスマホを突っ込む。
    蓮が悪いわけではない、あの露出女が悪いわけでもない。
    同じことを何度も考える。自分自身に言い聞かせるように。
    道理ではわかっていても、感情がついていかない。
    足首をくるくる回しながらため息をついた。
    どうすればこのモヤモヤした気持ちに収まりがつくんだろうか。

    「ねえ」
    その時、数メートル先から馴れ馴れしく呼ぶ声が聞こえた。
    とっさに振り向くと、178cmの明智よりさらに背の高い筋肉質な見知らぬ男がこちらに手を振ってくる。
    「よかったら遊ばない?疲れてるなら休憩でもいいけど。」
    顔立ちのせいで男から声をかけられることは稀にある。まだ陽のあるうちに道端でナンパされるのはなかなかない経験だが。
    疲れで鈍くなっている思考回路ではキレのある罵倒も浮かばない。
    ぼんやりと相手を見ていると、男はニヤニヤといやらしく笑いながら近付いてきた。
    「...あれ、コッチの人だよね?」
    コッチ、とはそういう対象の話をしているのだろうか。
    当たり前の様に隣に並び、腰に腕が回される。見た目の通り力が強い。抵抗することもできないまま体をピッタリと寄せられた。
    「ちょっと、やめ...」
    たしかに男と付き合ってはいるが、男が好きな訳では無い。触れられた箇所からゾワリと寒気がする。
    体を仰け反らせるようにその腕から抜けようともがいていると、今度は聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
    「やめてもらえますか」
    蓮は明らかに怒りを含んだ目でつかつかと歩いてくると、その男の手を振り払った。
    「......俺の恋人なんで」
    気圧されたのか、小さく舌打ちをしてあっさりと離れていった男の背中を見送ると、明智が小さくため息をつく。
    横に立つ蓮を見てみると、ナンパ男を撃退するというヒーローさながらの活躍をしておいて仏頂面だ。
    話しかけられる空気でもなく、黙ってただ二人でその場に佇んだ。

    しばらくして、蓮が明智の頬を両手で挟むようにして掴んだ。なにか冗談かと思ったが、蓮の顔はまだ不機嫌そうにしている。
    「いっ....なに!」
    「今、明智にムカついてる。さっきの男にもムカついてるけど、それより俺以外のやつに触られてる明智にムカついた」
    苛立ちを隠しもせず、早口でそう言うとぐぐ、と顎を上げるように顔を持ち上げられる。鬱陶しくて顔を歪めながら言い返す。
    「力でかなうわけ無いだろ、あんなでかいやつ」
    「...ふーん...ナンパされて喜んでるのかと思った」
    苛立ちを携えた目で煽るように言われた言葉に、明智の怒りも限界を超えた。
    「っはあ!?んなこと言い出したらお前だって女と嬉しそうにヘラヘラしてただろ!僕の前であんなばかみたいな女とイチャつきやがって!」
    触れられている腕を掴んで振りほどき、蓮を睨みつける。胸ぐらを掴んで至近距離で睨みつけると、蓮も負けじと睨み返す。
    「ヘラヘラなんかしてないだろ」
    「告白されてもはっきり断らなかったお前が僕を責められる立場かよ!」
    「あの子は同じサークルのお世話になってる先輩の妹だから!...あんまり強く、言えなくて.....」
    はじめは勢いよく言い返してきたものの、尻すぼみになっていく蓮の声。
    明智も自分から出てきた言葉に驚いて口を押さえる。
    誰が悪いわけじゃないと自分に言い聞かせていたはずなのに、こんなどうしようもないことで蓮に怒りをぶつけてしまった。
    どちらともなく体を離して目をそらす。
    しばらくして蓮が前髪をぐしゃぐしゃと掻き、いや、と控えめに呟いた。
    「....さっき明智がナンパされてるの見たら気持ちわかった。ごめん」
    その言葉にたまらず蓮の胸をドンと叩く。
    「.....ムカつく」
    「うん、そうだよな」
    ドン、ドンと数回叩いても、もう冷静になったらしい蓮は明智を申し訳無さそうに見つめるだけだった。
    ぶわっと感情が溢れ出して、胸に手を置いたまま俯く。
    「...僕がいるところで他のやつに優しくするな」
    「ごめん」
    「恋人がいるって言え」
    「そうする」
    「.....僕だけ見てろ」
    「いつも明智しか見てないよ」
    蓮が明智の手を取ると、さっきまで胸につかえていたモヤモヤもイライラもストンと通っていくような感覚がした。
    すっきりとした表情を浮かべる明智に対し、蓮はまだ浮かない顔をしている。
    まだなにか言いたいことでもあるのかと覗き込むように蓮の顔を見ると、唇を尖せながら呟くように言った。
    「...背が高かった」
    「え?」
    戸惑っていると、ふいと目をそらして歩きだす。あとをついていくと、心なしか大幅に一歩を取りながら、言いにくそうに話し始める。
    「さっきの男。明智より高かった。明智が小さくて可愛く見えた。悔しい」
    ...明智をナンパ男から助けたヒーローはどこに行った?
    こうなるともう子供の癇癪みたいなものだと思わず吹き出した。
    「...意外と気にしてるんだ?」
    「気にしないわけがない。明智よりかっこよくいたいのに身長負けてるのが嫌で仕方がない」
    たった数センチのことを、ここまで必死に訴えかけられるとは思わなかった。
    笑い続けていると恨めしげにじろりと睨まれて、口元を引き締める。
    「君はカッコイイよ」
    「...慰めはいらない」
    「本音なんだけどな」
    頑なに不機嫌な表情を崩さないので、ポケットに突っ込まれた腕に自分の腕を絡ませた。
    「疲れちゃったから掴まらせて」
    「...いいけど」

    時には怒って気持ちを伝えることや、情けない自分を見せることだって、重要なことなのかもしれない。
    じゃないと、恋人の少し格好悪い嫉妬すら愛しく思える自分にも、気付けなかった。

    「あ、明智の今日の靴かっこいい」
    「うん。君が好きそうだなと思ってた」

    できることなら、褒め言葉や愛の言葉をたくさん聞きたいけど。
    どんな感情も、共有し合えるなら自分たちにとってはそれがいい。
    明智が笑うと、蓮も嬉しそうに笑っていた。
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