kariya_h8
DONE社会人になってしばらく経ったけど、あの頃の傷をまだ時折思い出す。吉祥寺の雪「これから雪がひどくなる予報だろ? だから今夜は早じまいなんだ、ごめんね」
え、と零れた吐息は真っ白な靄となって吉祥寺の夜に消えていった。
うっすらと雪が積もり始めた東京はまだ20時にもならないというのに百貨店の明かりは落ち、雑貨店も明かりはあるものの閉店作業をはじめ、ファストフードでさえ入口に張り紙を貼ってシャッターを降ろし始めている。個人経営の居酒屋は気合で営業を続けているようだが、それも時間の問題だろう。駅には通常の五倍は人がひしめき、誰もかれもが我先にと帰路へと急ぐ。
指先ほどもある大きな牡丹雪が、止む気配もなく空から降り注ぎ、街灯の明かりすらもかすませた。
――そんな、たかがこれくらいの雪で。
3470え、と零れた吐息は真っ白な靄となって吉祥寺の夜に消えていった。
うっすらと雪が積もり始めた東京はまだ20時にもならないというのに百貨店の明かりは落ち、雑貨店も明かりはあるものの閉店作業をはじめ、ファストフードでさえ入口に張り紙を貼ってシャッターを降ろし始めている。個人経営の居酒屋は気合で営業を続けているようだが、それも時間の問題だろう。駅には通常の五倍は人がひしめき、誰もかれもが我先にと帰路へと急ぐ。
指先ほどもある大きな牡丹雪が、止む気配もなく空から降り注ぎ、街灯の明かりすらもかすませた。
――そんな、たかがこれくらいの雪で。
tosattypego
DONE12/24 ヤバオ戦あと、クリスマスイブのP5Rの世界線です。カプ色薄めですが主明。彼らのSNS、ゲーム内だと既読なさそうですけどそのへんは都合よく書かせてもらってます。 11
kariya_h8
PASTセックススターターセット 渋谷セントラル街。賑やかな通りの奥にそびえる渋谷の雑多と煩雑を煮詰めて煮凝りにしたようなディスカウントストア『ロシナンテ』。耳にこびり付いて離れない店名を連呼するテーマソングをBGMに、朝の通勤通学電車にも似た通路と呼ぶには難しい陳列棚と陳列棚の間をかき分けたその先で、蓮は眼鏡もかけずにひとり小さく唸っていた。
近くで人の声がするたびにその場からそれとなく離れ、人が去ると素早く元の場所に陣取り棚の商品を眇める。人がいなくなったのを前後左右確認してから、一つ小箱を手に取り説明文に目を走らせ、もう一つ別の商品も取り同じように説明文に目を落とす。しばし左右の箱に目を配らせた後、二つとも元の場所に戻しまた別の箱を手に取った。そして一人納得したように頷く。
5516近くで人の声がするたびにその場からそれとなく離れ、人が去ると素早く元の場所に陣取り棚の商品を眇める。人がいなくなったのを前後左右確認してから、一つ小箱を手に取り説明文に目を走らせ、もう一つ別の商品も取り同じように説明文に目を落とす。しばし左右の箱に目を配らせた後、二つとも元の場所に戻しまた別の箱を手に取った。そして一人納得したように頷く。
kariya_h8
DOODLE挙動不審なぺごの話「ねえ、最近のリーダーちょっとおかしくない?」
知り合いから電話で呼び出され、ルブランの外へ消えていった蓮を見送ったあと、真が口を開いた。疑問を呈すると言うよりも確認を行うような口調だった。作戦会議も終わったことだし蓮もいなくなったしコーヒーも飲みきった。ルブランにはもう用はないと明智が立ち上がった瞬間の出来事だ。
「真も? 私もなんか変だな~とは思ってたんだけど」
彼女の言葉に杏が顔を上げ、
「よかった。私だけがそう思ってたんじゃなかったのね」
「バグかと思ってた」
春に双葉も同意し、
「違和感は感じていたが、やはりそうか」
「ワガハイの勘違いかと思っていたが、間違いじゃなかったみたいだな」
「え、なに、何の話?」
3212知り合いから電話で呼び出され、ルブランの外へ消えていった蓮を見送ったあと、真が口を開いた。疑問を呈すると言うよりも確認を行うような口調だった。作戦会議も終わったことだし蓮もいなくなったしコーヒーも飲みきった。ルブランにはもう用はないと明智が立ち上がった瞬間の出来事だ。
「真も? 私もなんか変だな~とは思ってたんだけど」
彼女の言葉に杏が顔を上げ、
「よかった。私だけがそう思ってたんじゃなかったのね」
「バグかと思ってた」
春に双葉も同意し、
「違和感は感じていたが、やはりそうか」
「ワガハイの勘違いかと思っていたが、間違いじゃなかったみたいだな」
「え、なに、何の話?」
kariya_h8
DOODLEhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20426807こちらのウェディング話での再会時没案
ちょっとコメディになりすぎたなって(こういうノリ好きだけど)
ウェディング没案「お客様、どうされました?」
ロビー近くでの乱痴気騒ぎにスーツ姿の男性が駆け寄ってくる。ネームバッジがあることからホテルのスタッフだろう。自分が担当する晴れの日に問題が起きてはたまったものじゃない、と歪められた眉が語っていた。
「あの、」
今日の結婚式に参加しているんですけど、この男が急に襲ってきて。
そう言いかけようとした明智よりも先に、蓮は捩じっていた手を離し、羽交い締めのように後ろから両腕を抱え直してきた。
「挙式に参列してたんですけど、彼が体調を崩してしまって」
「え」
「もう足元も覚束ない状態なので、横にしてやりたいんですけど、どこか休める部屋はありませんか?」
「ちょっと」
何を言っているんだこいつと、目を見開くが彼は妙に演技めいた口調で続ける。
973ロビー近くでの乱痴気騒ぎにスーツ姿の男性が駆け寄ってくる。ネームバッジがあることからホテルのスタッフだろう。自分が担当する晴れの日に問題が起きてはたまったものじゃない、と歪められた眉が語っていた。
「あの、」
今日の結婚式に参加しているんですけど、この男が急に襲ってきて。
そう言いかけようとした明智よりも先に、蓮は捩じっていた手を離し、羽交い締めのように後ろから両腕を抱え直してきた。
「挙式に参列してたんですけど、彼が体調を崩してしまって」
「え」
「もう足元も覚束ない状態なので、横にしてやりたいんですけど、どこか休める部屋はありませんか?」
「ちょっと」
何を言っているんだこいつと、目を見開くが彼は妙に演技めいた口調で続ける。
kariya_h8
MAIKINGあとオチだけなんですけど、尻叩きのためにぽいぽいします。知らない女の結婚式に行った明智の話 明智君、あなた明後日休みだったわよね?
通話ボタンを押すや否や、電話口の相手は名前も名乗らず質問になっていない問いかけをした。
「嫌です」
『そう、良かった。朝10時に表参道に行ってちょうだい。詳細は後でチャットするわ。あと貴方スーツいくつか持っていたわよね。一番上等なもの着て行って』
「人の話くらい聞きましょうよ、冴さん」
『貴方に拒否権なんてあると思う?』
「予定あるかもしれないじゃないですか」
『貴方に? プライベートの? 予定?』
電話の向こうで彼女が小さく笑う音が聞こえた。
『あるわけないわね』
いやなんで断言するんだ。可能性がないわけではないだろう。例えば映画行ったり、ボルダリングしたり、ジム行ったり、たまの休みだから家事をしたり……。
9538通話ボタンを押すや否や、電話口の相手は名前も名乗らず質問になっていない問いかけをした。
「嫌です」
『そう、良かった。朝10時に表参道に行ってちょうだい。詳細は後でチャットするわ。あと貴方スーツいくつか持っていたわよね。一番上等なもの着て行って』
「人の話くらい聞きましょうよ、冴さん」
『貴方に拒否権なんてあると思う?』
「予定あるかもしれないじゃないですか」
『貴方に? プライベートの? 予定?』
電話の向こうで彼女が小さく笑う音が聞こえた。
『あるわけないわね』
いやなんで断言するんだ。可能性がないわけではないだろう。例えば映画行ったり、ボルダリングしたり、ジム行ったり、たまの休みだから家事をしたり……。
kariya_h8
MAIKING「ずるい」「ずるい」
異世界から現実世界に戻るなり、やつは開口一番そうのたもうた。
「…………何が」
聞きたくもないが放置するほうが面倒なことになりそうな気配を察知し、不承不承尋ねると彼は「さっき」と口をとがらせた。言っておくけれど可愛さは微塵もない。むしろ苛立ちが勝る。
「すみれに絆創膏あげてたろ」
言い分に一瞬眉根を寄せ、確かに先ほど異世界内で怪我を負っていた彼女に持ち合わせの絆創膏を渡したことを思い出す。ちょっとした擦り傷だから放置しようとしていた彼女に「これからまだ先は長いのに、傷に気を取られてやられたんじゃたまったものじゃない」と渡したものだ。どうせ僅かしか回復しないものだし余りものだし。恐らくそれのことを言っているのだろう。
2362異世界から現実世界に戻るなり、やつは開口一番そうのたもうた。
「…………何が」
聞きたくもないが放置するほうが面倒なことになりそうな気配を察知し、不承不承尋ねると彼は「さっき」と口をとがらせた。言っておくけれど可愛さは微塵もない。むしろ苛立ちが勝る。
「すみれに絆創膏あげてたろ」
言い分に一瞬眉根を寄せ、確かに先ほど異世界内で怪我を負っていた彼女に持ち合わせの絆創膏を渡したことを思い出す。ちょっとした擦り傷だから放置しようとしていた彼女に「これからまだ先は長いのに、傷に気を取られてやられたんじゃたまったものじゃない」と渡したものだ。どうせ僅かしか回復しないものだし余りものだし。恐らくそれのことを言っているのだろう。
kariya_h8
MOURNING貢ぎ癖のある男 しまったと思ったときにはもう遅い。空にはたちまち暗雲が垂れ込め、冷たい風が頬を撫で、しまいには遠くの方からゴロゴロと雷の音さえ聞こえてくる。嘘だろ、今日は雨降らないって朝言ってたじゃないか。恨みがましく天気アプリを立ち上げると、朝には晴のち曇りのマークだったはずが今では立派な雨マークに置き換わっていた。急いで帰るべきかそれとも引き返すべきか。迷っている間に空からぽつりと死刑宣告のように大粒の雫が落ち、足元に大きな染みを作った。
「おい、やべえぞ!」
モルガナの焦り声と同時に地面を蹴る。もう迷っている暇はない。とりあえず雨から避けられる場所に入らなくては。次から次へと白亜紀の終わりを告げる流星群の如く大粒の雫が自分たちに襲い掛かる。周囲から悲鳴のような声が上がった。直接肌に当たるといっそ痛みさえ覚えそうなほどの強烈な雨に、ますますモルガナが情けない声を上げる。眼鏡レンズにばちりと雫がぶつかり視界がぼやける。拭っている間も惜しくて、走りながら眼鏡を外す。伊達メガネで良かった、外したほうが視界は良好だ。
4693「おい、やべえぞ!」
モルガナの焦り声と同時に地面を蹴る。もう迷っている暇はない。とりあえず雨から避けられる場所に入らなくては。次から次へと白亜紀の終わりを告げる流星群の如く大粒の雫が自分たちに襲い掛かる。周囲から悲鳴のような声が上がった。直接肌に当たるといっそ痛みさえ覚えそうなほどの強烈な雨に、ますますモルガナが情けない声を上げる。眼鏡レンズにばちりと雫がぶつかり視界がぼやける。拭っている間も惜しくて、走りながら眼鏡を外す。伊達メガネで良かった、外したほうが視界は良好だ。
kariya_h8
MOURNINGまるで子どもの初恋のような ルブランではこちらの様子もお構いなしに話しかけてくる。
洗い物をしているときだろうが、カレーの具材を炒めているときだろうが、慎重にサイフォンを扱っているときだろうが。こちらを気遣ったことなどあっただろうか。集中しているから黙っていてくれないか、と乞うたこともあったが首肯されることはなかった。ふと、では自分がいない間はどうしているのだろうか、まさか惣治郎の邪魔をしているのか。訊ねてみると、明智は静かに読書をするか何かしらの資料を眺めて携帯を弄っているということだから、自分の邪魔をするということもルブランに訪れる目的の一つになっているのかもしれない。傍迷惑な話だ。
彼と会話することが嫌いなわけではない。テレビ業界や、警察、その他流行りものなど、自分が知らない世界の話を聞けるのは楽しいし、仲間内では出来ない議論に花を咲かせるのは面白いものだ。彼が何度も自分と議論をしたがっていた理由が今になって分かる。そして何よりも、あの柔らかい声が耳朶に響くのは悪くはなかった。
4363洗い物をしているときだろうが、カレーの具材を炒めているときだろうが、慎重にサイフォンを扱っているときだろうが。こちらを気遣ったことなどあっただろうか。集中しているから黙っていてくれないか、と乞うたこともあったが首肯されることはなかった。ふと、では自分がいない間はどうしているのだろうか、まさか惣治郎の邪魔をしているのか。訊ねてみると、明智は静かに読書をするか何かしらの資料を眺めて携帯を弄っているということだから、自分の邪魔をするということもルブランに訪れる目的の一つになっているのかもしれない。傍迷惑な話だ。
彼と会話することが嫌いなわけではない。テレビ業界や、警察、その他流行りものなど、自分が知らない世界の話を聞けるのは楽しいし、仲間内では出来ない議論に花を咲かせるのは面白いものだ。彼が何度も自分と議論をしたがっていた理由が今になって分かる。そして何よりも、あの柔らかい声が耳朶に響くのは悪くはなかった。