「文句を言うならベッドを買い替えろ」
シングルベッドに大の男が二人。トウマを抱き締めて密着していても狭い。寝返りをうった時には床と共に寝ることになるのかもしれない。
「ベッド、安くねぇじゃん」
「これからきっともっと多忙になる。質のいいベッドにするのは大切なことだ」
「確かにそうだけど……」
「金がないのか。買ってやろうか?」
「……貯金してんだよ」
リモコンで部屋の照明を落とし、サイドボードにスマホを置いた。枕を可能な限り上に寄せ、布団の中で脚を曲げるとトウマにぶつかった。
「貯金? 何のために」
「……、……お前」
「……俺?」
言葉を濁したトウマの背を撫でる。最近、俺に抱き締められたトウマの、その温もりがあった方が快眠であるということに気付いた。
「……改めて言うことでもないが、金はあるぞ」
「それはお前のだろ。俺の金を、お前のために、貯めてんの」
「なんで」
「い、……いろいろ、必要になるだろ、これから、将来」
「将来……」
「何がとは、言わねぇけどさ」
これ以上は聞くなという意思を察して追及はしなかった。せずとも十分だった、愛する者が自分との将来を、既に見据えて生きているということ。
それがどれだけ幸せなことなのか。