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    child_cpac

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    支部作品(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20241641)のR部分削除した部分です。

    #虎トウ

    雨と飴 全年齢向け ぽつり。雫が頭上に落ちる感覚がして、1歩踏み出したその足を引っ込めた。どうやら小雨が降っているらしい。予報では曇りとだけ出ていたが、梅雨真っ只中のこの時期ではよくあることだ。それなのに、生憎今日は折り畳み傘を持ってきていない。1度雨を自覚してしまうとどうやら低気圧に弱いらしい俺の頭は途端にずしんと重くなり、目の奥に鈍い痛みが走った。それとともに気分まで沈みだしそうになったのを、頭を振って切り替える。
    「……歩くか」
     早くあいつが待ってる家に帰りたい。その一心でまた踏み出した。タクシーを使うか、目の前にあるコンビニで傘を買うとかいう手段もあったが、そんなことをしたらもったいないとあいつに怒られてしまうのは目に見えている。俺もあいつもそんな些細な出費を気にする必要なんて一切ないくらい稼いでいるというのに。おそらく家で俺の帰宅を待ち侘びているであろう恋人の姿を想像したら、少しだけ頭痛が軽くなった気がした。

     10分ほど歩いていたら、少し先に見慣れた後ろ姿を見つけ、目を見張る。黒い傘越しでもわかるそのバランスの良いスタイルを見間違うはずもない。だって、何度も見てきたし触れてきた。重だるかった脳が一気に覚醒していくのを感じる。急いで駆け寄って声をかけた。
    「トウマ……!?」
    「おー、トラ!良かった、すれ違いにならずに済んだな」
     当の本人……トウマは、傘を少しだけ後ろに下げて俺を認識すると顔を輝かせた。どうしてここに、と言う俺の考えを見透かしたかのようにトウマは答える。
    「いや、トラが帰ってくるの待ってたらなんか雨の匂いしたからさ。外見たら普通に降ってたから迎え行こうと思って」
     慌ててたからこれ1本しか持ってねぇけど、とトウマは手招きして俺を傘に入れてくれた。雨の匂い。正直俺はそんなものないと思うが、トウマはよくこの言葉を使う。IDOLiSH7の四葉環もそんなことを言うのだと壮五がいつしか言っていた。野生の勘みたいなやつか。どこまでも名前負けしない、犬のような男である。
    「で、なんでトラ傘もささずに歩いてたんだ?歩いてる途中に急に降ってきたとか?」
     傘の柄を半ば無理やりトウマから奪った後に並んで歩き始めたら、トウマが顔を覗き込んでそう聞いてきた。咄嗟にとはいえ大きめな俺の傘を持ってきてくれたようだが、それにしてもそれなりに体格のいい成人男性2人が入るとなると少し、いや、結構狭い。ついでに肩も濡れる。それでも、俺は満足だった。思わずふっと声が漏れる。
    「トウマに、早く会いたかったから」
     素直にそう言うと、トウマはぽかんと口を開けてから少し背伸びしてわしゃわしゃと俺の頭を乱雑に撫でてきた。
    「っ、おいトウマ、何す」
    「ははっ、いや、トラめちゃくちゃ健気でかわいーじゃんと思って」
     まるで犬を撫でるかのようなその触り方が気に食わなくて手を除けようとしたが、俺を見つめるトウマの顔があまりにも優しくて思わず黙ってしまう。トウマは俺が抵抗しないのをいいことに、遠慮なく俺の髪の毛を撫で回し続けた後ようやく手を離した。
    「髪ボサボサ。水も滴るイイ男が台無しだな」
    「……トウマのせいだろ」
     からからと笑うトウマに仕返しのつもりでぐしゃりと髪を片手で掻き乱したら、また楽しそうに笑ったので、つられて俺も笑ってしまう。
     そんな風にしばらく2人でふざけていたら、突然強い風が吹いて来て今まで傘で防げていた雨が俺たちの体と服を濡らす。先程より雨も強まっているし、これでは傘を差してても意味がない。家までは後5分ほどかかる。どうすべきか迷っていたら、トウマが口を開いた。
    「トラ」
    「なんだ」
    「走れる?」
     そう聞かれて額に手を当てると、頭痛がとっくの昔に治っていたことに気づく。病は気から、とよく言うが、トウマはともかく自分までこんなに単純な人間だったなんて。恋人と話しているだけで心だけでなく体も回復するなんて昔の自分が見たら笑うだろうか。そんなことを考えていていつまでも返事をしない俺をトウマが心配そうに見つめていることに気がつき、慌てて頷く。するとトウマはじゃあさ、と傘を畳んでから悪戯っ子のように微笑んだ。
    「今から家までダッシュな!」
     そう言って俺の手を引いて走り出した。突然の出来事にバランスを崩しそうになるが、トウマを巻き込む訳にはいかないので頑張って堪えた。
    「おいトウマ、風邪引いたらどうするんだ」
    「帰ったら速攻風呂入れば大丈夫だって!ちゃんと沸かしてあるから!」
     だから、一緒に入ろ。そんな魅力的な誘いを俺が断れる筈もなく、繋がれた手に指を絡ませてペースを上げる。たまに指の隙間に雨の雫が入り込み、少しくすぐったくてその度に2人で笑った。


     湯船に肩まで浸かった途端、トウマはふー、と深い息を吐いてからばしゃばしゃと顔を洗って、そのまま前髪をかきあげた。
    「あ"ーー滲みる……」
    「おっさん臭いぞトウマ」
     全く、色気もへったくれもあったもんじゃない。悪戯のつもりでトウマの首筋に顔を埋めてから鍛えられた腹筋に手を這わすと、こら、と軽くいなされた。
    「そういうのは風呂上がってから」
    「……生殺しだ」
     せっかく2人で入ってるのに。イチャイチャしないでどうする。余程声色にその気持ちが出てしまっていたのかトウマはふふっと笑った後に俺にのしかかってきた。俺が触るのはダメなのにそっちが近づくのはいいなんて不公平すぎる。
    「ここでヤったらのぼせて俺すぐへばっちまうよ」
     明日オフだし、どうせなら何回もシたいだろ?と体重を預けたまま振り返ったトウマは、先ほどとは違い、目を見張るほど妖艶だった。
    「…………髪乾かすまでちゃんと我慢する」
     また、こいつの誘いにまんまと乗ってしまうなんて。でもせめてキスだけ、と目を閉じて唇を寄せると1度だけ触れる程度の軽いキスをくれた。
    「いーこ。ちゃんと待てできたらご褒美やるからそんな顔すんなって」
    「……何してくれる?」
    「えっ今決めんの?」
     目を丸くしながらも、トウマはんー、と口元に手を置いてしっかり考え始めてくれた。
    「いっぱい頭撫でてあげるー、とか?」
    「それ別にその時じゃなくてもいいだろ。あと俺は子供じゃない」
    「……頑張って俺からいっぱいキスする」
    「もう一声」
     結構欲張るなお前!とトウマが勢いよく振り返る。それと同時にぱしゃんっ、と跳ね返ったお湯が頬にちょっとだけかかる。しばらく考えてもいい案が浮かばないのか、はたまた浮かんでても恥ずかしくて言えないのか、その時までには考えるから先に上がっててとトウマは俺から離れた。きっと、俺に抱かれるための準備をしてくれるんだろう。聞き耳を立てても良かったが、バレたら機嫌を損ねられてお預けを食らうのが目に見えていたので身体を拭いてバスローブに着替えたらすぐ脱衣所を後にした。

    「なぁ、トラ。髪乾かしてもらいながら考えたんだけど……」
     いつも通りトウマの髪を大方乾かしてドライヤーの電源を切ると、振り向きざまにそう言ってきた。俺が生活していて唯一トウマの役に立てるのはこれと洗濯物を綺麗に畳むことくらいしかないので率先してやっている。そもそも、トウマに一人で髪を乾かさせるとタオルでゴシゴシ擦ったり毛先から熱風を当てたりと大変なので、俺がしないといけない。そんな雑なケアでも元からサラサラなのが妬ましいと髪がうねりがちな巳波が前ぼやいていた気がする。いやそんなことよりも、今はトウマの言葉を聞くのが先だ。どんなご褒美をくれるんだろう。顔を覗き込んで続きを促すと、トウマはちょっと戸惑った様子を見せてから口を開いた。
    「な、ナマでしていい、って言うのじゃだめ……?」
     首や耳が赤くなっているのは、きっと風呂上がりだけが理由じゃない。しばらく黙りこくってしまった後に天を仰いで深い溜め息を吐いたら、トウマはそれをよくない方向に捉えてしまったらしい。やっぱやだった……?と不安げに俺を見つめてくる。その不安を溶かすように、瞼に音を立ててキスをした。
    「嫌じゃない。むしろ最高だ、トウマ」

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    「めちゃくちゃ甘やかされた気分だ」
    「気分じゃなくて甘やかしてやったんだよ。だいぶ。」
     思っていたことを正直に口に出したらトウマに軽く脛を蹴られた。まだそんな体力が残っているのか、なんて言ったらもっと強く蹴られるのは想像に難くないので心の中だけに留める。結局あの後、トウマのナカに欲を吐き出してお互い満足したかと思いきや、まだ足りないなんて言い出すトウマに手を引かれてちゃっかりその誘いに乗った。結局何回戦かヤった後に意識を飛ばしかけていたトウマを抱えて風呂まで連れて行き、出したものをかき出して今に至る。
    「……なんで今日は一段と俺に甘かったんだ」
     トウマの後頭部の髪を指先で弄びながら尋ねると、トウマは若干顔を赤らめて目を逸らした。
    「トラ、俺が迎え行った時あんま元気なさそうだったから。家に着いた頃には調子戻ってたみたいだけど、なんかしてやりたいなって」
     普段は無自覚の擬人化のような態度を取るのに、トウマはこういう時だけ妙に聡い。不調を気づかれてた事実がなんだかむず痒くて、下唇を少し噛んだ。
    「……ありがとう」
    「どういたしまして。なぁ、せっかくだからもっと甘やかしてやるよ」
     甘えん坊の御堂虎於くん?トウマがトレードマークの八重歯を見せて悪戯っぽく笑う。何をするつもりだ、と言葉を発する前にトウマの左腕が俺の首の下に潜り込み、両手で頭を引き寄せられた。必然的にトウマの胸元に顔を埋める形となる。首が少しきつかったので、片手をベッドにつき身体の位置を調整したら、トウマの鼓動がさっきより聞こえやすくなった。
    「トラ、寝る時いっつもこうして抱き寄せてくれるけどさ。たまには俺がやったっていいだろ」
     鼓動と共に聞こえる低く少し掠れた声は鼓膜にしっとりと馴染む。それにだけ集中していたくて、瞳を閉じて聴覚を研ぎ澄ます。そうだな、と返したら、控えめに笑うトウマに合わせて胸が上下した。その揺れも心地よくて、身体が眠る準備をし始めていることに気付く。微睡を楽しんでいると、足先にわずかな違和感を覚えた。
    「……トウマ」
    「なんだよ」
    「足が出てちょっと寒い」
     トウマの胸に俺の頭が来ていると言うことは、普段と比べるとかなり下の位置になるわけで。キングサイズのベッドはまだ少し余裕があったけど、夏用のタオルケットからは足がはみ出してしまっていた。生意気だなー、と言いつつもトウマはタオルケットを少しだけ足で蹴って下げてくれる。これだけ甘やかしてくれたのだから、明日は俺が存分に甘やかしてやろう。そう考えながらトウマの腕の中で眠りについた。
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