ハロプラssマスターが消えて1ヶ月程が経った。ある日、まるで最初から存在しなかったかのように、消えていた。もちろん、事故や事件なども疑ったが、何か連絡が来ることもなく、時間は過ぎていった。
ふと、窓に目がいった。マスターの植えた金盞花の芽は未だ出ていない。これに水をやることが彼の日課だった。今では代わりに自分が水やりをしているが、これをするたびに奴の声が聞こえるような錯覚を起こす。しかし、その錯覚でさえ楽しみにしている自分がいることにもはや苦笑いをするしかない。
この体はマスターにしか認識されず、他の誰かと話すこともできない。つまり、マスターがいなければ事実上自分は天涯孤独の身となる。今はまだどこかで生きているという、そよ風でも吹けば消えてしまう火のような希望に縋りつつ生きている。我ながら大天才の名にそぐわないような事をしているような気もするが。もちろん探しに行こうとした。しかし、この大天才と言えどもやはり現実と向き合うことに恐れを感じているようだった。今日こそは、と思いドアノブに手を掛けようとして引き戻すことを何度繰り返したことか。
そして、今日もまた研究室と呼ばれている部屋で一日を過ごすのである。
ある日の朝、外から誰かの声が聞こえた。それはマスターの声によく似ていた。なぜだか、いつもなら躊躇っていたドアノブを握り扉を開けていた。そこには、荒れ果てた世界とアザレアの花と共に墓石があった。
窓際の金盞花の芽はひっそりと、まるで何かを告げるように出ていた。
「…ーい…おーい…起きろー」
目が覚めるとそこは見慣れた部屋とマスターの顔があった。
「大丈夫かお前?目腫れてるぞ?」
「あ…あぁ…少し夢見が悪かっただけだ。」
そっか、と言いねこ先生はファンクビートを優しく抱きしめ、何も言わず頭を撫でていた。