沢山我慢したよ「……浮奇、俺は昼飯を買ってきて欲しいって頼んだはずなんだが。」
灰紫色の瞳がメガネ越しに怪訝さを顕にしてこちらを見つめる。
その美しい銀糸を軽く結いており、大きめのスウェットという完全にオフな姿でファルガーは物語の世界に入り込んでいた。
そのタイトルは確かSFだった気がする。
「えへ、沢山買ってきちゃった。」
ファルガーがくつろいでいるベッドの上にばらばらとそれらを散らす。
機械で出来た手が色とりどりの小さなそれの1つを取って、小首を傾げた。
「……リップクリーム?」
「そう。ねぇふーちゃん、ちょっとゲームしようよ。」
ベッドに乗り上げてファルガーの手に自分のを重ねて、持っている小説をぱたん、と閉じてやる。
自分の声とその仕草に良くないものを感じたのか、直ぐに距離をとろうとするのを軽く腕を引いて止めた。逃がすわけもないのに。
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