それでも彼は愛を持っている「傑、スクランブルエッグと目玉焼きどっちがいい?」
「オムレツをお願いするよシェフ」
もう何度目かわからない朝の風景だが、こんなやり取りをするたびに人間変わるものだなと実感する。
学生のころの悟はそれは寝穢なかった。朝食をとる時間があるならとにかく寝たいというタイプで、こんな風にゆっくり朝食を、しかも悟本人が作ってなんて想像も出来ないものだった。
それが今や選択肢にない料理も作ってくれる名シェフとなっている。
10年の月日の長さをここまで実感することはそうそうない。
「はい、おっ待たせー」
語尾にハートマークでもついていそうなテンションの高い声。これも学生時代は決してありえなかった光景だ。あの頃の朝の悟なんて人語を介することが出来れば上出来というありさまだった。何度首の上下だけでその意思を確認したことか。
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