気力があれば進める予定の類司オメガバース……オレは忘れやすい、とよく咲希から言われることがあるがそれにはオレの過去にちゃんとした理由があった。
この世には男女という性別だけでなく「第3の性」と呼ばれるものが存在している。優秀や天才が多いα、殆どの人間が分類されているβ、そして男でも女でも関係無く妊娠できる劣等種と呼ばれたΩの3種だ。
当時小学生だったオレは咲希を笑顔にする為にスターになるのだからαであって欲しいと思っていたのだが、運命は残酷な事に小学5年生の時に行った検査でΩと言われてしまった。
その日の帰り、Ωという事実にショックでトボトボと咲希が入院している病院へと向かっていたオレはショートカットしようと歩いていた道で後ろから着いてきていた男に捕まり……レイプされた。幸い犯人は通りがかった人に通報されて現行犯で捕まり、オレもまだΩとしての機能が未成熟だった事もあり妊娠しなかったが、「レイプされた」「Ωとして生きていく人間はこれからもこんな恐怖があるのか」と心に植え付けられた恐怖は大きかった。
だからオレは過去を忘れたくて、思い出したくなくて蓋をしたのだ。楽しい過去は少し改ざんして、苦しい過去は全部まっさらに、自分がΩだと言うことも誰にも言わずに。
そうやって数年上手くやってきた
筈だったのに
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「よし、これなら明日皆に見せられる内容にはなったな!」
時刻は深夜間近といったくらい。自室の机で次のショーの為にと台本を書いていたオレは、ようやく話が纏まり満足気に台本を眺めていた。時計を見て急いで寝支度をして布団に潜る。
(とりあえず明日の朝類に確認してもらってから、放課後2人にも見てもらうとするか……)
台本を書いててすっかり忘れていた眠気も布団の温かさには勝てず、オレはすぐに眠りに落ちた。
…………と思ったが
誰かに呼ばれている声が聞こえる。寝ていた筈のフカフカのベッドは無く、背中は固く冷たい。全身を揺すられ下半身から感じる圧迫感に息が詰まる。
(…………また、この夢か)
最近頻度が増えている気がする。ようやく忘れたと思っていた痛くて苦しい記憶の夢。
最初こそは昔の自分みたいに必死に逃げようとしたが、当時のオレはまだ小学生。夢であろうが力も速さもある大人に叶うはずがなく、いつからか抵抗する事を諦めてただ現実の自分の目が覚めるまで耐え続ける事にした。
「はぁ…………司君…………ずっとずっと君を見ていたんだよぉ…………」
上の方から男の気持ち悪い息遣いと声が聞こえてくる。小児性愛者であった男は咲希が入院している病院で偶然家族とお見舞いに来ていたオレを見つけて、以降行く先々でずっと後をつけていたそうだ。あの日、ストーカーされていて初めて人通りがあまりない道を通ったが為にオレは襲われた。