5月6日、午後13時 なぜ今日だけ講義があるのかと、カレンダーに問いかけたのが今朝のことだ。GWも後半に差し掛かり、キャンパス内は普段より人が少ない。勤勉な謝憐すら、心なしかめんどくさそうに講義を聞いていた気がする。
「そういえば、風信は?」
「アイツはまだもう一限あるみたいです。何か用でも?」
「借りてた本を返そうとね」
「受け取っておきます? それとも待ちます?」
「用もないし、待たせてもらうよ」
言いながらのびをする謝憐を横目に、先ほど通知を受け取っていたスマホをちらりと見た。
(荷物が来る。受け取って適当に仕舞っといてくれ)
そういえば麦茶のパックが切れかけていた。そんなちょっとしたものをわざわざ通販で買うなんて馬鹿な男だと思う。10個パックで届くんじゃないかという不安もよぎった。一人暮らしを始めた風信の世話にはいい加減慣れたが、時たま素っ頓狂な失敗をやらかすことがある。特に料理はまるでダメ。基本野菜は生焼けで、塩辛すぎる卵焼きを作ったり、焼きそばは味がしなかったり。ひどかったのはだしパックと麦茶のパックを間違えて作られた味噌汁だった。謝憐の料理もひどいが、風信もなかなかのものなのだ。
いわゆる安アパートにたどり着くと、勝手知ったるといった感じで謝憐もくつろぎ始める。ありていに言えばたまり場のようなものだ。この辺りはそもそも学生が多く、ある程度静かにしていれば大家に咎められることもない。
風信が楽しみにしていたポテチを頬張る謝憐を横目に、軽い昼食を作り始めた。世間の休みモードの影響か、あまりにやる気が起きず残り物の野菜炒めだが。
料理に手を取られていると、ピンポンとチャイムが鳴る。
「あ、すみません出てもらえます? 多分麦茶なので開けて持ってきてください」
「わかった」
軽い足取りで謝憐は玄関に向かう。ありがとうございました、と元気な配達員の声が聞こえた。バリバリと段ボールを破りながら謝憐がこちらへくる。
「ありがとうございま――――」
「これは……」
XLの文字がでかでかと掲げたパッケージに固まった。
「麦茶じゃないな」
「……そうですね」
火を止め、その箱を謝憐の手から奪い取りそそくさとベッド脇の引き出しにしまう。ああ、やらかした。馬鹿なのは自分だった。
「男同士でも使うんだ」
謝憐のその言葉に、あなたは使わないんですかと聞き返す勇気などなかった。
(麦茶パックを買ってこい)
そうメッセージを送り、少しだけポテチをつまむ。そしてやけくそにフライパンを振るった。