アナイダ・アカデミア初等科の青年ハーデスは、街から外れた草むらの中で、じっと辺りを見つめていた。今日の目的は、間近に控える、入学して初めての試験への準備だ。葉からエーテルを与えると根を拡げて放出するという特殊な草を探しに来たのである。
背の高い草の中にしゃがみこんで、目を凝らす。景色を映していた視界がぼやけ、代わりに数多の輝きが、彼の世界になる。
(やはり街の外はすごいな。)
あらゆる物質、空気の中、地の奥底。彼の瞳は、この世界に満ちるエーテルを精緻に視ることができた。総てのものは、それぞれの色を持ち、世界を造り上げている。そして、街からそう離れていないとはいえ、自然の中は、人工物が大半を占める街中とはエーテルの織り成し方が全く違っていた。複雑に絡み合い、グラデーションを作る景色の中で、目的の物はなかなか見つからない。それでも、エーテルの流れには特徴のある草だ。こちらの方が、〝普通に〟探すよりはいくらか効率がいいはずだろう。
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