Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    botomafly

    よくしゃべるバブ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    botomafly

    ☆quiet follow

    遠路春々 6_1

    木漏れ日の下で渓流がさらさらと音を立てて流れていく。時折後ろの道路を車が通るくらいで、人の気配は全くない。アルジュナとカルナが河原で折り畳み式のアウトドアチェアに座っているだけだ。川のせせらぎと木々が揺れる音、鳥と蝉の鳴き声ばかりである。
     渓流にルアーがちゃぽんと飛び込んで、既に川を泳いでいるもう一つのルアーを揺らす。水の中にいた黒い影がすっと遠ざかったが、ずっと釣り糸を垂らしているカルナは特に何も言わなかった。
     もうかれこれ一時間弱この静かな河原で二人は釣りをしている。チェアがぴったりくっ付いているのをいいことにアルジュナがカルナに凭れて、この避暑地のような場所で寝そうになるのを堪える。
    「本当に兄たちはここで釣ってたんですか?」
     欠伸を堪えて釣り竿を持つ手の力を少し緩めると、カルナが小さく、あ、と零した。魚でも引っ掛けたのかと思ったアルジュナが釣り糸を視線で辿る。きちんと釣り竿を握らなかったせいで傾き、アルジュナのルアーと糸がカルナのものに絡んだのだ。
     アルジュナ本体も釣り糸もカルナに絡んでいるのがおかしくて少し鼻で笑うとカルナがそれを釣り上げる。
    「何だか今凄く官能的に見えました」
    「……一応訊くがアルジュナよ、お前変な性癖持っていないだろうな」
    「失礼な」
     カルナだって以前に手遊びしているだけでセックスしているようだと言ってきた。同じようなものではないか。
    「ここでないなら、花火大会の会場になっている大きな川だ」
     話を戻して絡まったものを丁寧に解いていく白い手の邪魔をしようとアルジュナの手が伸びる。カルナの指はアルジュナのものよりも僅かに細い。その細い指を掴んで邪魔してみればカルナが振り解こうと手をぶらぶらさせた。
     一年ぶりに会ったら構ってほしくなって仕方がないのだ。カルナも同様にアルジュナへちょっかいをかけてくるのでヒートアップして最後には顔を見合わせて静かに笑って離れる。
    「その大きな川では釣らないんです?」
    「あちらは他にも釣り人がいる上に開けているからな」
     合点がいったアルジュナは座り直すと周囲を見渡した。この河原も開けているといえばそうだが、渓流の河原なので向かい側は崖だ。河原自体も広くはない。代わりに転々と渓流のあちこちに見かける。それぞれは木々に阻まれて見えないので、もし他に釣り人がいても二人を見ることは叶わないだろう。
     釣りをしながらじゃれ合ったりくっ付いたり、口吻けを交わしたりできるのはこちらの川だけだ。
     遡ること昨夜、明日は何をしようかと話をしていてアルジュナが唐突に言った。釣りをしたい。兄たちがやっていた釣りを自分も。
     カルナは車を運転できるのだから当然川まで車で移動できる。カルナの返答に妙な間があったのが気がかりだが、特に問題なく昼食後にここを訪れ現在に至る。
     絡まったものを綺麗に解いたカルナが自分のルアーを川へと放った。
    「釣りをしたいと言った張本人は釣りをせず何をしているんだ」
    「魚いないでしょう、ここ」
     無駄な労力だ。無駄な時間だと思わないのは単にカルナと二人きりで穏やかな時間を過ごしているからである。
    「いたさ。……昔はな」
     カルナが魚の名を紡いでいく。山頂で豪雨による土砂崩れで川が汚れることが増えるなどの環境の変化で魚は減った。それでもまだここは綺麗で魚も戻ってくる。
     話半分に聞いてアルジュナは相槌を打った。昨夜カルナが妙な間をあけたのはそのせいだろう。釣れる川か二人で過ごせる川。彼は釣れないが二人で過ごせる川を選んだ。釣れないと言っても一尾だけ小さいのが釣れてクーラーボックスに入っているが。
    「そのうち蛍も見られなくなるのだろうか」
     静かな呟きを軽く流そうとして、しかしアルジュナはがばりとカルナを見た。
    「蛍? いるんですか?」
     思わずカルナに詰め寄る。カルナはというと軽く目を見開いてぱちぱちと瞬きをしたが後退ることはしなかった。目の前にきたアルジュナの唇に己のものを重ねてから頷く。夜になればこの渓流で見られるはずだ。去年はいた。
     アルジュナが住んでいるところでは蛍など話題にも上がらない。いないのが当たり前だ。
    「見ていくか? 夜まで大分時間を潰すことになるが」
     黒曜石のような瞳が輝く。カルナの脳裏に五年前に虫取りをしたがっていた少年が満足げに笑った。
     五年で随分大きくなるものだ。カルナもそうだったはずだが、自分では実感ができない。今ではアルジュナの背はカルナと殆ど変わらず、体格とくればカルナよりもアルジュナの方が勝る。それでも中身はまだ子供の部分が残っている。
    「愛い奴め」
     カルナは愛おしそうに眼を細めるとアルジュナの頬を指の背で撫でて立ち上がった。はにかみながらアルジュナもそれに倣う。
     このまま外で時間を潰すのは少々難がある。車に戻ろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏🙏💴🙏😭💵👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    botomafly

    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

    recommended works