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    botomafly

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    ジュナカル祭

    ジューンブライド「それで、濡れ鼠になって予定より早く帰ってきたのか」
     窓際にあるハンモックで優雅に読書をしていたアルジュナは、部屋着姿でソファーに座り髪を拭いているカルナにそう言った。
     結婚式に呼ばれたものの着ていくものがなく貸してほしいと言われたのが数日前。それを着てスコールに見舞われながら帰ってきたのは前世からの宿敵、カルナだ。家の周辺では特に雨は降っておらず、ピンポイントで彼は濡れて帰ってきたわけだが。
    「すまない。借り物を駄目にした」
     風呂から上がった彼に、濡れて色がすっかり変わり雨のにおいを付けたスーツを手渡されながらアルジュナが首を振る。着る機会はそうないので構わない。正直、大して祝いの気持ちもないのに呼ばれて行ったところで相手にも悪いし時間の無駄だ。カルナにあげるつもりですらいた。
     式が終わってから天気が急変したらしく、外で散歩をしていたカルナはあっという間に濡れ鼠。この後に披露宴があったもののとても参加できる恰好ではなかった為に帰ってきて現在に至る。
     その散歩癖、治した方がいいのでは?
     これが何年も前だったらアルジュナはそう口にしていただろう。今はしない。カルナも自分ももういい歳をした大人だ。ハプニングが起きる可能性があっても続けているということはまあそれなりに理由があり、それなりに好きだということだ。つまり自己責任である。
    「この時期に結婚したがる奴の気が知れん」
    「ジューンブライド発祥の地はこの時期特別雨が降るわけでもないからな。あちらでは縁起のいい時期なんだ」
     仕方ない。ハンモックから身を起こしたアルジュナは水を含んだ重いスーツを紙袋に入れた。明日にでもクリーニング屋に持っていこう。本当は今からでも行った方がいいのだが、このスーツにそこまでする気分でもない。
     髪を拭いていた手を止めてぼんやり天井を眺めているカルナから、アルジュナの手がバスタオルを回収する。ダイニングチェアの背凭れにでもかけておけばそのうち乾くだろう。
    「良かったか? 結婚式」
     最近は色んな式があると聞く。何か面白い話を聞けるだろうと思ったのだが、カルナは短くああと返しただけだった。それならそれで別にいい。アルジュナもそうですかと返して読書に戻る。
     それから数ページ読み進めたところで、彼は漸く式の出来事を教えてくれた。
    「ブーケが手元に飛んできた」
     紙を捲ろうとしていたアルジュナは一瞬動きを止めると静かに息を吐いた。
     帰宅時、カルナの手荷物にブーケはなかった。きっと誰か必要としている者にあげてしまったのだろう。
     それでいい。前世の記憶を持ち越した自分たちは、たとえ好きあっても過去を清算して一緒になろうとまでは思えない。それをするには互いを傷付けすぎていて、だのに抱えている感情が大きすぎて到底足りない。
     そう理解しているのだが感情というのは一筋縄ではいかないもので、安心している自分と残念に思う自分が両立する。
    「欲しそうにしている奴に渡したら喜ばれた。一度摘み取ればもう長くはないのに不思議なものだ。形はそれぞれだが、そのまま生きている方が美しい奴もいる」
    「うん……?」
     ブーケの話をしているものと思い聞いていたのだが、後半の主語がいまいち噛み合わずアルジュナは首を捻った。
     ブーケトスがどういうものかくらいはカルナも知っているはずだ。彼は花屋で働いているし、家にも花が生けてあったり花瓶にさしてあったりする。その彼が「そのまま生きている方が美しい」と言うのは矛盾している。
    「オレもお前も、ありのままでいて十分幸福なはずだ。だからブーケは手放した」
     すまんな、と謝った彼にとりあえず「別に欲しくない、これ以上家に花増やしてどうするんだ」と口が動いてから閉口する。ついうっかり、勝手に口が動いてしまったがそんなことを言いたかったわけではない。
     少し考えてカルナが何の話をしているのか思考が追い付いたアルジュナは確かにと頷いた。
    「一般人の決めた型など私たちには小さすぎる」
    「そうだろう。籍決めをする戦いすらできん」
     寂しいな。小さな呟きを拾ったアルジュナは目を細めると、いつの間にか振り始めていた雨の音に耳を傾けた。
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    botomafly

    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

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