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    botomafly

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    【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれ

    だんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキッチンでいつものように手を洗ってから部屋のドアを開けたアルジュナは、隅にあるベッドで丸くなっているカルナに目を眇めた。ベッドから出られなくてインターホンに出なかったのか。暖房を付けてスマートフォンでメッセージを送るのが限界だったのだ。
     アルジュナとカルナは切っても切れない縁で繋がっている。新しい生を受けてもなお前世の記憶を引き継ぎ、探すまでもなく互いを見つけた。この世界のどの人間よりもお互いのことは詳しいつもりだ。
     この時間になっても寝ているということは肉体的に厳しかったのだろう。カルナ本人はブラック企業ではないと主張しているのだが、アルジュナから見ればそうだ。早く帰れる日もあるようだが月の半分以上は深夜帯に帰宅している。唯一の良い点は週に一度必ず休みがあることだ。その休みも忙殺されればこうやって寝るだけで過ぎ去る儚いものである。
    「今週忙しかったのか?」
    「んん……いや、さっき帰ってきて、な」
     鍵が開いていたのはその為だ。
     勝手にやっておいてくれ、と言ったカルナの口調はゆっくりで普段の明朗さはない。数秒後には寝息が聞こえてきて、仕方なくアルジュナはベッド脇に上着と荷物を置くと部屋の真ん中にあるテーブルに教材を広げた。
     アルジュナはまだ学生の身だ。家は裕福で家族にも恵まれ名門の高校へも通っている。が、如何せん前世通り兄弟の多い家庭だ。記憶保持者はアルジュナ一人で他は徒人とくれば、各自の部屋は持っているが弟二人は年齢相応の落ち着きといったところである。周囲のプレッシャーで有名大学へ進路を取っているアルジュナは静かなカルナの家にこうして避難しているわけだ。彼が横で寝ていようとどうでもよかったりする。
     流石にインターホンに出てこなかったのは今回が初だが、寝息を聞きながら勉強を済ませることは珍しくない。基本的に休日のカルナは日中にどこかのタイミングで寝ている。アルジュナがカルナを起こさないのは、カルナがアルジュナを拒まず部屋に入れているからだ。お互い様である。
    (さっさと転職でも何でもすればいいのに)
     それでもっと二人の時間を作るべきだ。別に仲良しこよしをしたいわけではないだが、自分以外のものにかまけている姿はどうにもイラついてしまう。
    「私より仕事を優先するな」
     思わずついて出た言葉にアルジュナは閉口した。まあどうせ寝ているカルナには聞こえていないだろうと思い直してペンを動かしていると鼻で笑う気配が聞こえてくる。耳を澄ませると寝息は聞こえなかった。
    「寝ていたのでは?」
    「微睡むことはできるんだが、厄介なことに深くは眠れん」
     アルジュナは静かに顔を上げると布団の塊を見た。ペンを置いて教材を閉じ、嘆息しながら立ち上がる。カルナの顔を覗き込むと目元にはクマができていて、眠れないのは今日だけの話ではないと察しが付いた。
     定期的にカルナは寝つきが悪くなる。徹夜したのもどうせ眠れないからと仕事を引き受けたに違いない。そろそろそうなるとは思っていたのだ。というのも、カルナには言っていないがアルジュナも同じ時期に寝つきが悪くなるのである。どういう原理かは知らない。ただ、気力が枯渇してくるとそうなる。人間とは面倒なものだ。
     カルナを跨いでベッドの奥、彼と壁の間に入ったアルジュナは布団の中に潜り込んだ。
    「ん」
     アルジュナが腕を広げると目を細めたカルナがそこに収まるよう移動する。収まったカルナがほっと息を吐いたのを見て、アルジュナも肩の力を抜いた。
     不思議なことに、こうやってくっついていると落ち着いて知らぬ間に寝ているのだ。起きたら数日の不調が嘘のように体力も気力も戻っている。
     切っても切れない縁だから、切らずにくっついているのが正しいのかもしれないと不意にカルナが零した日を思い出した。馬鹿げたことなのにそのときは本当にそれらしく聞こえて、アルジュナも有り得ると頷いたのが始まりだ。実際そうなのかもしれないと最近は本当に信じている。欠けていたものが手元に戻ってくるような感覚がするのだ。
     見詰め合った二人はゆっくり唇を重ねると、おやすみも言わずに揃って船を漕ぎ出した。
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    botomafly

    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

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