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    みみみ

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    みみみ

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    ハツコイ娼婦遊郭パログラアス



    「おや、おやおやおや……グランツ様、太夫が待ちくたびれておりますぞ」
     楼主は真ん中が二本欠けてヤニに黄色く染まった前歯を見せてにたりと笑う。
    グランツが父親に無理やり連れて来られていた頃から変わらない曲がった背中で楼主は遊郭の一番奥の部屋へグランツを案内した。


    「遅いわよ、グランツ」
    「ハハッ、悪ぃなピンキー」
     煙管の紫煙を燻らせて美しい牡丹が咲く打掛を纏ったピンキーは
    わざと眉を顰めてグランツを睨めつけた。
    「こらこら太夫、御贔屓様にそんな顔するじゃありませんよ」
    「構わねえよ、遅刻したのは俺だから、今日はちっこくなっとかねぇとな~、ってな」
     グランツの駄洒落にピンキーは呆れた顔で口から煙を吐き出し火皿の灰を火鉢へと落とした。
    「アンタ本当、贈ってくれる着物のセンスは最高なのに駄洒落のセンスは最低ね」
    「ちぇ、相変わらず手厳しいったら無ぇな」
     横に座ったグランツの漆と金箔が施された盃にピンキーが酒を注ぐ。
    「全く……この吉原一の花魁を晩酌相手にするだけなんてアンタくらいなもんよグランツ」
    「まあ、もうそう言う遊び方をする年じゃねえんだよ俺も」
     そう言ってピンキーが酌をした酒を煽り、松竹梅の意匠を飾った膳に載せられた豪華な台の物に箸を付けながら豪快に笑う。
    「旨い酒と、旨い飯とお前の舞を見るだけで、まるで天にも昇る気分になるってもんだ」
    「ふふ、鯛や平目の舞い踊りもないけどね」
     グランツにも昔はそれなりに遊んできた自覚はあるが
    こうして店一番の花魁を横に置くほどの太い客になった今はもう、惚れた腫れたの男女の駆け引きとは距離を置きたまに晩酌がてら馴染みの顔を見に来る程度だった。
    「ねえ、グランツ」
     ピンキーの体がグランツにしな垂れかかると、着物に焚き付けた香の甘い香りがグランツの鼻をくすぐる。
    「おいおい、どうしたいきなり」
    「アタシ、春には年季が明けるの」
    「そうかそりゃ目出度いな、祝いの品は何が欲しいんだ?着物か、煙管か、ああ……舶来の珍しい紅でも良いかもな、お前の門出だ、ドーンと祝ってやるよ」
     いつもと変わらない調子のグランツにピンキーは口の端をあげて笑った。
    「全く、馴染みの年季が明けるって言うのに俺が身請けしてやろうとか、そう言う器量を見せるような言葉は無いのかしら貴方は」
    「ハハ、お前みたいな器量良しには俺みたいなおっさんには勿体無えだろう?」
    「……そうね、全くだわ」
     そう呟いたピンキーの笑顔の奥に見えるものをグランツは敢えて見ない。
    ここは遊郭、一夜の夢を買う煌びやかで儚い虚構の世界だ
    それを分からない程お互い子供でもなかった。
    「で、お前がそんなこと言い出すなんて、着物や紅が欲しい訳じゃないんだろう?」
    「本ッ当、食えない男よね、アンタって」
    「そりゃお互い様だろう……で、本当の望みは何なんだ?」
    「うちの禿の水揚げを頼みたいの」
     その言葉に、華やかな台の物の中に盛りつけられた赤飯を突いてグランツは気乗りのしない溜息を洩らした。
    遊郭に売られた子供は、まず禿として花魁の世話や店の雑用等の下働きをして過ごす。
    その後に新造として客を取ることになるが、新造が客にお披露目をされる突き出しまでに禿には避けては通れない儀式がある、それが水揚げだ。
    遊郭で客を取ると言うことは、すなわち床の相手をすると言うことである。
    その前に少女を捨てる儀式である水揚げの相手とはつまり、その花を散らすと役目。
    店の商品である遊女の体と心を傷つけないようにその相手は初老の客が依頼されることが習わしであった。
    (俺もそんな年になっちまったとはなぁ……)
    内心の苦笑いを噛み殺しながらグランツは頭を掻いた。
    「良い子なのよ……まあちょっとおっちょこちょいなところもあるけど、ここに居るのが不思議なくらい真っ直ぐな子でね」
    「お前がそこまで入れ込むなんて、こりゃ次の花魁になるんじゃねえのか?」
    「ふふ、そうかもね……でもあの子はそうじゃない道を歩いて欲しいって気持ちもあるの」
     ピンキーはそう言うと楽しくてたまらないと言った顔で笑って見せた。
    「おいおい、そりゃどう言う意味だ?」
    「さあね~」
     すっかり機嫌を良くしたピンキーはグランツの盃から酒を煽った。
    「あ、おい!そりゃ俺の酒だろう」
    「男がそんな小さいことを気にしてんじゃないわよ」
     そう言ってケラケラと笑うピンキーにグランツは、
    敵わねえな、と呟いて猪口を傾けた。



     次の日の夜、座敷に通されたグランツの気持ちは重たかった。
    「禿なんて……子供でも可笑しくない年だろうがよ……」
     つい先刻、やはり水揚げの相手を他の客に頼むようにピンキーに直談判を試みたものの
    「男に二言があるなんて言わせないわよ!」
     鬼の形相でそう吐き捨てられて座敷に放り込まれた時のピンキーの顔を思い出して身震いしながら、味のしない酒を一気に煽ったときだった
    「失礼いたします……あの、初めまして……アステルと申します」
    静かに奥の襖が開いて手をついて深くお辞儀をした少女が、恐る恐ると言った調子で顔を上げた。
    (ちくしょう、アイツめ俺に何て役目を押し付けやがった)
     グランツは安請け合いをした昨夜の自分を酷く恨んだ。
    新造出しが終わったばかりの遊女を取ったことも一度ではない、だが押し並べて遊郭で花を売る道を選んだ女と言うのは世を恨み、擦り切れた心で、それでも生きるために艶やかに咲いているものだった。
    しかし目の前のこの少女はどうだ、蕾なんてものではない
    まだ産毛の残る新芽のような瑞々しさを欲と虚に塗れた
    この場所で未だ失わずにいるのだ。
    「あの……えっと」
     不安と畏怖の混じるか細い声にグランツが我に返って顔を上げると、挨拶の返事が返って来ないことに狼狽えるアステルの姿があった。
    「ああ……悪ぃ、ちょっとぼんやりしちまったみたいだ」
    「ご気分が悪いのでしたお茶でもお持ちしましょうか」
    「いや、構わねえ……はは、嬢ちゃんまるで狼に喰われに来た可哀そうな子うさぎ見たいな顔になってるぞ」
    「え、その……そう言う訳ではッ」
     こんなおぼこい少女とは言え、花街に身を置く以上これから何が起こるかを知らない訳ではないだろう。
    (我ながら皮肉にも程がある喩えを出しちまったな)
     これ以上、目の前の少女を怯えさせるまいとグランツは悟られないくらいの小さな溜息を吐いたあとで、にっと人好きのする笑顔でアステルの方を向いた。
    「まああれだ、ピンキーから聞いてるかもしれんが俺はとっくに隠居した身だからな、あいつの馴染みつっても茶飲み友達みたいなもんだから嬢ちゃんも楽にしてくれ」
     グランツの言葉にアステルは強張っていた表情を少し緩めてその隣に座った。
    「えっと……じゃあ、失礼いたします」
     少し緊張しながらアステルが酌をした酒をグランツが豪快に飲み干した。
    「はは、嬢ちゃんは酌が美味いなぁ」
    「本当ですか?」
    「ああ、嬢ちゃんの上手なお酌で上機嫌~ってな」
     グランツの言葉にアステルの顔が綻んだ。
    (酌を褒めた位であんなに無邪気に喜んで……ははッ、可愛いなぁ)
     そんな素直な反応にグランツも自然と口元が緩む。
    そして最初こそぎこちない様子だったが段々と緊張がほぐれたのか、グランツとアステルの会話は弾んでいった時だった。
    「失礼いたします」
     そう言って、腰の曲がった楼主が二人の様子を覗きに来た。
    「おやおや、随分と打ち解けたご様子で……アステル何か粗相はしておらんだろうな?」
    「ああ安心しな、酌も話も初めての座敷とは思えないくらい上手だ」
    「それはそれは……グランツ様に褒めていだいて良かったなアステル」
    「はい、恐れ入ります」
    「よいよい、くれぐれも床で失礼のないようにな……
    なに、グランツ様に全てを委ねておれば怖いようにはせん御方だから安心しなさい」
     そう言って笑いながら楼主は部屋を後にする。
    決して今晩の目的を忘れていた訳ではないが、あまりにも和やかに過ぎていく時間に、目を逸らしていたものを突き付けられて、グランツは小さくため息を漏らしてちらりと横を見ると、可哀そうなくらいに緊張した面持ちのアステルと目が合ってしまった。
    「あーほら……んな顔するなって、ちょっと部屋の空気でも入れ替えて気分転換しよう、な?」
     慌ててグランツが奥の襖を開け放つと、そこには板張りの部屋の真ん中に敷かれた金糸が施された真っ赤三つ布団を行燈が照らしていた。
    (しまった……完全に逆効果じゃねえかこれじゃ……)
     完全に硬直してしまったアステルを見てグランツは頭を抱える。
    「あ、あの……すみません気を使っていただいて……でも私は大丈夫ですから」
     決心を決めたアステルが、半ばぶつかり稽古の勢いでグランツに抱き着いた。
    「ははッ、嬢ちゃん……その割には体が震えてるぞ?」
     少しよろけながらもその体を抱きとめると、良く知る馴染みと同じ香の匂いがふわりと広がる。
    「うッ……すみません」
    「それにな、こう言うのは雰囲気が大事なんだよ」
    「雰囲気……ですか?」
     そうだ、と言いながらグランツは優しく布団の上にアステルの体を引き倒した。
    その上に覆いかぶさると、乱れてしまった髪を指で梳くように整えてやった。
    「安心しろ、今夜は抱かねえ」
    「え、でも……」
    「大丈夫だ、客の俺が言うんだ姐さんだって楼主だって何も言わんさ」
     そう言ってアステルの体に覆いかぶさると、ゆっくりと緊張を解すように、柔らかい頬を撫であげる
    「怖かったらちゃんと言えよ」
     耳元で低くそう囁かれて、アステルの体が小さく震える。
    心細いのか、きゅっと自分の羽織の襟をつかむ小さな手を取りグランツは唇で触れた。
    「男は初めてか?」
     その問いかけにアステルは小さく頷く。
    この可哀そうな可愛らしいおぼこは、これから自分の手で女にされ、店の商品として飾り立てられそして汚されていく、ならばせめて最初のその時だけでも、辛い記憶にならなければ良い、それがただの自己満足だと分かってはいたが、それでもグランツは目の前の少女が怯えないように優しく微笑みかけた。
    「あの、グランツさん……」
    「どうした?」
     脱いだ羽織を真っ赤な板張りに放り投げながらグランツはアステルに優しく問いかける。
    「もう少し、お傍に寄っても良いですか?」
    「ああ……構わねえよ」
     そう言って横向きに寝なおすと、アステルがおずおずと胸元に収まる。
    「はは、子猫みたいだな」
     そう言って背中をあやすように撫でてやるとくすぐったそうに身を捩らせる。
    「グランツさん……あったかい」
     緊張の糸が切れたのだろうか、同衾の温かさに安心したのだろうか、アステルはうとうとと微睡みに沈んでいく。
    眠りに落ちる前、アステルは遠くで三味線の音色を聴いていた気がした。
    それは姐女郎のピンキーが初めて遊郭に来た頃に泣いていた自分を慰める為に弾いてくれた音色で、薄らと浮かんだ涙を拭ってくれる太い指は優しくて温かかった。
     アステルが目を覚ますと、もう日が昇り隣にグランツは居なかった。
    水揚げも終わらせずに、あろうことか客が帰ったことにも気づかなかったなんて、店の人になんと言われるかと血の気が引いたが、迎えに来たピンキーからは特になんのお咎めもなく、風呂に入って部屋で休むようにと言われただけだった。
    「それで、女になった気分はどうだったんだい?」
    「お姐さん……私」
     ああ、本当にこの子は嘘が吐けない子だ、と椿油をしみこませた櫛で風呂上りのアステルの亜麻色の髪を梳かしながらピンキーは眉をさげて笑った。
    「ふふ、意地悪なことを聞いちゃったわね」
    「え、水揚げが済んでないって分かってたんですか?」
    「当たり前よ、禿の嘘を見抜けないようじゃ花魁なんてやってられないわよ」
    「……ごめんなさい」
    「こら泣かないの、良い女ってのはね涙も武器に出来るくらいにならないといけないのよ?」
    「はい……」
     アステルの水揚げが終わっていないことくらいピンキーでなくても遊郭の人間であれば一目瞭然だ。
    けれどアステルの顔が昨日までと違うことは恐らくピンキーでなければ分からなかったであろう。
    「ねえ、アステル……あんたは私に出来なかったことが出来るかもしれないわ」
    「お姐さんに出来なかったこと?」
     ふふ、と笑ってピンキーはアステルを抱き寄せた。
    「あーあ、それにしても私が蝶よ花よと育てた子を
    ぽっと出のおじさんに盗られちゃうなんて癪だわ~」
    「お姐さん?」
     小さく呟かれた言葉にアステルは首を傾げた。
    「何でもないわ、それよりも三日後グランツがまた来るからあんたも準備なさいよ」
    「え、グランツさんまた来てくださるんですか?」
     ぱっと花が咲いたように顔を紅潮させてはにかむアステルにピンキーは自分の予感を確信に変えたのだった。




     三日後の晩、座敷に通されたグランツはアステルに迎えられた。
    「お待ちしておりましたグランツ様」
    「おいおい、そう言う堅苦しいのは無しにしてくれよな、嬢ちゃん」
     そう言って眉をさげてグランツが笑うと
    「えっと……グランツ、さん」
    「ああ、まだちっと堅いがそっちの方が良いな」
     そう言って、横に座るアステルの細い腰をグランツが抱き寄せた。
    「なあ嬢ちゃん……その、嬢ちゃんが嫌なら無理強いはしない、客を取るようになるなら選り好みなんざ出来ねえかもしれないが、嬢ちゃんが気に入る客を取れるようになるまで俺が囲ってやっても良い……だからもし嬢ちゃんが初めてを捧げるのが自分の良い人がいいなら、今日も同衾だけして、水揚げは済ませたと楼主に口添えてやるがどうだ?」
     思いがけないグランツの提案に、アステルは体を強張らせた。
    そしてしばしの沈黙のあとにアステルはゆっくりと口を開いた。
    「私は、は、初めての相手はグランツさんが良いです……
    そうすれば、きっとこの先どんなに辛いことがあっても、その想い出があれば、乗り越えていけると思うんです」
    「嬢ちゃん……」
     真っ直ぐに見つめる瞳にグランツはくぎ付けになる。
    その手を引いて奥の部屋に入ると前の晩と同じようにその体をゆっくりと布団に引き倒した。
    「後悔……しねえか?」
     グランツの問いかけにアステルはゆっくりと頷いた。
    「怖かったすぐに言えよ」
     そう言ってグランツの手がアステルの着物にかかる
    白い肌に行燈の揺らめきが映りその艶めかしさにグランツは思わず唾を飲み込んだ。
    「グランツさん……」
    「どうした?」
     着物を脱ぐ手間が酷くもどかしく感じていたグランツにアステルがおずおずとすり寄った。
    「名前、呼んで欲しいです」
     可愛いおねだりにグランツは思わず口元が緩むのを押さえられなかった。
    こんな感情を抱くのはいつぶりだろうか
    「アステル……綺麗だ」
    「あッ……」
     はだけた胸元を吸い上げると、真っ白な肌にくっきりと浮かぶ真っ赤な跡。
    グランツは無垢なものを汚す罪悪感と、愛らしい少女を自分のものだと主張する高揚感に背中を震わせた。
    「口、開けろ」
     言われるままにアステルが口を開くとグランツの厚い舌が、アステルの小さな舌をいともたやすくからめとる。
    「んッ……はぁ」
     飲み込みきれない唾液がアステルの口元を伝って胸に垂れていく。
    息をすることすらままならず、布団を握って堪えていたアステルの手をグランツの手が引きはがして自分の指を絡めた。
    「駄目だ、布団なんかじゃなくて俺に縋れ」
    「ぁ……グランツ、さん」
     もう何が何だかアステルには分からない。
    口吸いの気持ち良さも、自分を弄る大きな手のひらの熱さも、耳元で囁く艶っぽい声も、何もかもが初めてで、愛おしくて、胸が張り裂けてしまいそうだった。
    「嬢ちゃん……このまま、良いか?」
     そう言って、自分の髪を一房掬い上げて唇を落とすグランツにアステルは応えたかったのに、グランツの声がどんどん遠くなっていく。
    「なんだか……頭が……クラクラします……」
    「おい嬢ちゃん、大丈夫か?」
     ああグランツさんもこんな慌てた声を出すんだと、意外な一面に愛おしさを募らせながら、アステルは意識を手放した。




    目が覚めた時にはまた朝日が部屋に差し込んでいて、慌てて隣を見るとグランツはまだ眠っていたことにアステルは安堵した。
    「ん……嬢ちゃん、目が覚めたか?」
    「ぐ、グランツさんすみません私、そのッ……」
    「ああ、嬢ちゃんは心配すんな」
     そう言ってはだけた長じゅばんを整えてやりながらグランツが微笑んだその時だった。
    「グランツ様、失礼いたしますぞ」
     少し間があった後に襖が開き楼主が様子を見にやってきた。
    「水揚げは無事に終わりましたかな?」
    「そのことなんだがな、アステルは俺が身請けする」
     グランツの言葉にアステルと楼主は目を丸くしてグランツを見上げた。
    「いやしかしグランツ様、これはまだ禿でございまして値も付けておりませんで」
    「じゃあそっちの言い値で構わん、手付で今日幾らか置いて行っても良いんだが」
    「いえ、それはもう願ったりかなったりではございますが
    では少々お待ちを」
     慌てて楼主が部屋を後にすると、あっけにとられていたアステルは我に返ってグランツの腕を掴んだ。
    「あの、グランツさん身請けって私……」
    「ああ勝手に進めちまって悪かったな、でも店を出た後は好きにして構わん、おじさんからの餞別とでも思ってくれ」
     グランツの言葉にアステルは首を横に振った。
    「私をどうかグランツさんの傍に置いてください」
    「……おいおい、いいのかこんなおじさんで」
    「私、グランツさんが良いです、不束者ですがどうかよろしくお願いします」
     そう言って胸に飛び込んだアステルをそっと抱きしめると、グランツは壊れ物に触れるようにそっと唇を重ねた。



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