引っ越し*
スカーとアステルはギルベルト王の強い勧めで、結婚後二人の新居を構える事になった。
「スカーさんッ……これは、ここに置いておいて良いですか?」
振り返った先で覚束ない足取りで重たい荷物を運ぼうとするアステルを見るなり、スカーはギョッと目を見開いて慌てて彼女の傍に駆け寄りアステルが荷物を落とさなように手を添える。
「いけない、そう言う重たい物は私が運ぶから、君はあちらの軽い荷物を運んでくれ」
それが自分を慮っての事と分かっていながら、アステルはどうしても納得がいかなかった。
「私だって誇り高き獅子騎士団の女騎士です、これくらいの荷物一人で運べます!!」
子供じみていると分かっていながらも、それでもスカーに早く追いつきたい、肩を並べたい、そんな気持ちが先走ってしまいついカッとなって言い返してしまう。
「あの、すみません私ッ……」
ハッとした顔でうろたえるアステルに、スカーは目を細める。
「ほら、手を離しなさい」
「……はい」
素直に荷物を手放したアステルを愛らしく思いながら、荷物をそっと床に降ろした。
「また私の言葉が足りなかったようだな、すまない」
拗ねて顔を背ける仕草が、幼い頃のミュゼルカに重なりスカーの口元が緩む。
「わ、笑わないでくださいッ」
「いや……笑ったのではないんだ、君があまりにも愛らしくてつい……」
率直なスカーの言葉にアステルの頬がボンッと音がしそうな程真っ赤に染まる。
「子供みたいな言い分なのは分かってます……でも……」
「君を子供扱いなどしていない、それに君は本当に立派な騎士だ、私の背中を任せられる唯一無二の存在だ」
「じゃ、じゃあ!」
アステルの言葉を遮るように、跪いたスカーがその白くて小さな手を恭しく握った。
「だが今は、私の妻だ……自分の妻に重たい物を持たせたくない、これは私の我儘なんだ、分かってほしい」
スカーの言葉に、アステルははにかみながらも真っ直ぐにスカーの瞳を見つめる。
「でも、やっぱり私はスカーさんの妻として肩を並べられるようになりたいんです」
「ハハッ、君は相変わらずだな」
真っ直ぐなアステルの言葉にスカーは笑いながら立ち上がる。
「では、二人で運ぼうその方が早く終わる」
「はい!そうしましょう」
そうして荷ほどきの続きに取り掛かるため、二人は仲良く並んで玄関へと向かった。
-END-