軽自動車五夏白の軽自動車。
田舎ではそこら辺を走っていて、どこかしこでも見かけるありきたりな車だ。
かく言う私も乗っているのはパールホワイトなんて洒落たカラー名のつけられた軽自動車で、走行距離は五万キロ、そろそろバッテリーの心配を始め効果不明だがスマホの充電を躊躇うときが増えた。
話を戻そう、なぜ私が突然白の軽自動車について語りだしたかと言うと目の前にある無人の白の軽自動車が理由だった。
スーパーのポイント五倍を狙ってエコバックを引き下げやって来た私が、頭突っ込みで駐車して降りるときに目の前の例の車から丁度人が降りてきた。
運転席から頭をだした黒の長髪、派手なシャツのゴツい身体でロン毛の男性珍しいな、と思っていた瞬間にめちゃくちゃ頭が高い位置に伸びて目を見開いてしまったのだ。
身長約160センチの軽自動車を軽く越える長身。
南の田舎では中々お目にかかれないサイズで、脳内は勝手にその顔にテレビで見るような若者に人気のイケメンの顔を貼り付けてしまったくらいにはスタイルが良かった。
短パンから伸びる脚もこれまた長くて、中学の頃男子に面と向かって脚が短いと言われた私からすれば羨ましくて、思わずマスクの下で舌打ちをしてしまったほどである。
しかしこれで済めば良かったものを、この話には続きがあった。
もう一度ドアの開く音がしてそちらを見れば、今度は白い頭が助手席から出てきたのだ。
あまりのカラーリングにビビっていれば黒い無地Tシャツを着たゴツい男性が地に足をつける。
また伸びた。
さっきよりも伸びた。
黒の男性よりも高い。
ブリーチだかなんだかは知らないけれど綺麗すぎる白の髪の毛に、マネキンみたいなスタイル、こちらも短パンを履いていて脚の長さにあわせて色白さをも見せつけてきた。
でっかい体にしては小さく見えてしまう、企業名がデカデカと掲げられたエコバックを片手にした外国人であろう男性ののっぺらぼうな顔には今度は海外俳優の顔が貼り付けられる。
こんな人達ここら辺じゃ見たことないし、どっか都会から来た有名人なのかも。
そんな気持ちで見たナンバープレートはちゃんと"わ"ではなく、なんならこの地名が書かれていた。
でも風貌のインパクトが強すぎるので、たまたま生活圏が合わなかっただけかもしれない。
そのうち職場で噂になりそうなくらいには、何か力を秘めたような後ろ姿だ。
こんなスタイルマネキンを拝めて今日はすごい日だと思い、男性達に続き車の鍵をかければ軽自動車の天井越しに二人がお互いを見つめあった。
瞬間、貼り付けていたイケメン理想像は剥がされ上の次元の本当の顔がインプットされた。
芸能人はオーラが違うと都会に住む従姉妹が言っていたが、あれは本当だったのだ。
青色の瞳の人間を初めて見た、あんなEラインの横顔二次元でしかないはずなのに、切れ長の瞳って実在するって知らなかった、等が浮かんでは消えるくらいとにかく二人の顔が良かった。
固まってしまった私をよそに、二人はデッカイ一歩でスーパーの入り口に向かっていく。
いつまでも放心していられるわけもなく、驚きを噛み締めながら彼らの車の横を通ったときに見えたもの。
めちゃくちゃに後ろに下げられた二つの席と、狭すぎる後部座席だった。