溶接面五夏バチバチ、バチ、バチ───

うるさい音、とびちる火花、室温35℃の中行う溶接は地獄だ。
上下長袖作業着の皮手袋に加えて安全靴に作業帽、だらだらと流れる汗が傑の項を伝って服の中に入っていく。
寿工業高等学校の機械科は、夏真っ盛りの中溶接の実習中だった。
溶接面越しに見える薄暗い世界の中で、金属の光を頼りに繋げた部分を見ればどうやら上手くいったらしい。
初めのころよりもずっと綺麗にできるようになったのに満足して面を外せば、少し離れたところで作業をしていた悟も終わったようだった。
男所帯な工業高で使い回されるフルフェイスの溶接面、その中から現れた小さな頭も傑同様に汗みずくである。
お互いに髪の毛を額に張り付けながら、目が合う。

二人は、この間の悟の家で傑がお泊まりした夜を思い出した。
エアコンが効いていたはずなのに汗だくのまま眠って、翌朝珍しく悟が自主的にシーツとタオルケットと枕カバーと謎のバスタオルを洗濯に出したあの日。
両親は今日まで帰ってこないのは知っているのに、洗濯物よ一刻もはやく乾いてくれと焦れながら悟は傑のためにブランチを作った。
学校までの途中にある家に迎えに行くからこそ知ってはいるが、元々少しだけ寝汚く、そこに疲れもあわさった傑はシーツを剥いでからもこんこんと眠り続けている。
日曜日のAM10:00頃のことだった。



休憩所に設置された、工業用にしては弱すぎる扇風機の風が首元から少しだけ体を冷やしてくれる。
先日のことを思い出しながら悟は自販機で買ったポカリを煽り、敵対勢力であるアクエリを飲む傑を見つめた。
耳たぶのピアスを外した、頭髪検査の前の少しだけ髪が長い男子高生。
それにしては色気がありすぎる気もするが、それも全ては悟のものなので昔ほど嫉妬で焦がれるほどではない。
女子生徒なんて工業高(の特に機械科)には居ても居ないようなものなので、悟は安心して男同士の特権を振りかざせている。
そんな傑を上から下までしっかり舐め回すように見つめていたら、流し目のサービスつきでパチリと目があった。

｢なぁに、悟｣

甘じょっぱく湿らせたであろう唇にキスをして、特大の拳骨を食らうまであと少し。