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    野山△

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    野山△

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    五夏!!!!!

    親指姫!!!!!その日はいつも通りの一日だった。
    任務で北は山形、南は佐賀まで赴いて、空いた時間で土産を買い高専に戻り、少しばかり生徒の体術訓練を見る。
    そしてまた呼び出しを受けて、今度はもう一度南、宮崎へ。
    日はとっくに落ちて暗闇の中を走る車の中でぼうと外を見れば、六眼が僅かな呪力を捕らえた。
    補助監督に一言告げてドアから出れば、ガードレールを越えた道のない道の先に足を進めていく。
    一粒、小指の爪よりも小さな小さな黒い丸。
    拾い上げればそれは何か植物の種らしく、乾いた感触が指先から伝わった。
    害はない、が、何かも分からない。
    呪霊の持つ力によって産み出された訳でもなさそうで、なぜか気になったそれをズボンのポケットに入れ空に浮かぶ。
    あっさりと見つかった今回の目的をちゃちゃっと祓い車に戻れば、さっきの種のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。



    「あ」
    帰宅したセーフハウスの一つで、シャワーを浴びようとしたときにその存在を思い出した。
    上半身裸のまま、リビングに戻りインテリアコーディネーターによって配置されていた鉢の前に立つ。
    とっくの昔に死んだ観葉植物の鉢、一度も水を与えたことの無い土だけのそれにポケットから取り出した種を人差し指で押し込んだ。
    流石に種を植えたら水を与えるという知識くらいはあったので、ミネラルウォーターのペットボトルから適当に水を注ぐと土は黒く湿っていく。
    死んだ観葉植物自体はどこにやったんだったか、ゴミの日に捨てたんだっけ。
    そんなことを考えながら植えたところで呪力の変化もないそれを確認し、シャワールームに戻れば種のことなんて頭から抜け落ちていた。



    そんな日から何日経った頃だろうか、家政婦もいれていないせいで埃まみれの家に帰ろうとマンションを見上げた瞬間、あり得ない呪力が目にうつった。

    「は…?」

    慌てて高専の車から部屋のルートを飛んでリビングに駆け込む。
    そこにあったのは、空っぽだった鉢からのびる歪な一輪の紅い花。
    白と黒で指定されコーディネートされた部屋にぽつりと浮かぶ赤色は、どこか禍々しい雰囲気を孕んでいた。
    京都の実家には縁起が悪いとかいう理由でなかった気がするが、その花が椿であることくらいは流石に知っている。
    しかし椿は一輪ではなく枝分かれしていくつもの花を咲かせ、こんなに枝も低くないはず。
    種の理を無視した形で花を咲かせるのは、この懐かし過ぎる呪力の影響なのか。

    無下限は当然として、何があってもいいようにアイマスクを下ろしながらソレに近づく。
    異常事態に速くなる鼓動を落ち着かせて上から花の中を覗き込めば、そこには産まれたままの姿で眠る傑が居た。

    「は…?」

    本日二度目の混乱だ。
    髪は、そう、呪術高専の頃、十五、六歳の頃くらいの長さで、小さな小さな耳には黒いピアスがしっかりとついている。
    下ろしているにも関わらず変な前髪の跡もちゃんとあって、横を向きながら眠る顔は寮の部屋で何度も何度も見ていた姿と全く同じだった。
    馬鹿みたいに力が抜けて膝から崩折れ、振動で花が揺れても傑が目覚めることはない。
    まず、本当に本当の傑かどうかは目が、鼻が、魂が本物であると脳味噌に信号を送ってきたのだ間違いないのである。
    情けなくも細かく震える両手で花弁を掻き分けて傑を掬い上げれば、僅かたが生きている温度が掌から伝わってくる。

    訳もなく、目の奥が熱くなった。
    勝手に息がし辛くなって鼻が詰まっていく。
    呼吸を整えようにもすぐに両目から涙が溢れ、ヒクヒクと肩が跳ねる中で手に力を込めないように必死に耐えた。
    ぼやけた視界では何も見えなくて、何度も瞬きを繰り返して少しでも傑を見ようと目を凝らすのに。
    もどかしくて、苦しくて、意味がわからないのに、理由も分からないのに、どうしても嬉しいという気持ちが消えなくて。
    ぐちゃぐちゃの頭の中でなんとか状況を理解しようとする。
    しかし、それは叶わなかった。

    「さとる…?」

    思わぬ耳からの情報に一度強く目を瞑り、ゆっくりと開く。
    先程よりはマシになった視界には、訳が分からなそうに体を起こして僕を見つめる傑の姿。
    髪にも体にも僕の涙であろう水滴がいくつも付いていて、通り雨にうたれた濡れ鼠みたいだ。

    「すぐる」

    涙声で名前を呼べば、小さな目を見開いた傑がその小さな手を僕に伸ばしてきたので、両手を顔に寄せてみる。
    ほんの小さな、綿棒でつつかれたような力で頬に触れた手が僕を労るように優しく撫でてくれた。
    傑だ。本物の、傑。

    「さとる、どうしておおきいの」
    「すぐるこそ、なんで小さいの」

    椿から産まれた小さな傑に質問すれば、首を傾げ、眉間を掻き、たっぷり迷った挙げ句「わからない」と返される。
    そうだよ、僕だって分からない。
    殺したのに、あの日、オマエの胸を、僕の力で射通したのに。
    ずっとずっと脳内シュミレーションってやつをやって、ちゃんと殺した後も普通に生きてきた。
    当たり前に日付は変わるし、呪霊は出るし、祓除の任務がなくなることもなければ、生徒達が急に僕みたいに強くなることもない。
    なのになんで。
    お互いが無言のまま、何を言おうか迷っているうちに時間が進んでいく。
    このまま、僕が強く両手を握り締めれば傑はもう一度殺せる。
    分かっているのに出来るわけもないから考えていれば、小さなくしゃみで両手が揺れた。

    「さとる、ふく、ちょうだい」

    ああ、傑、オマエはそういう奴だったな。
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