真冬の深夜ラーメン「なぁロージー。お腹空かない?」
時計の針が2時を指そうとした頃。キオからいきなりそう声をかけられた。ちなみに2時というのは昼ではなく夜中の2時の事だ。
「この時間ってさー、なーんかお腹空いちゃうんだよねー。で、ラーメンでも食べに行こうかなぁって思って。ロージーはどう?」
「どうって言われてもな…」
こんな夜中に、しかもクソさみぃ真冬の街を歩いてラーメンを食べにいくなんて。そんなの答えは決まってる。
「んなもん行くに決まってんだろ!」
「だよなー?」
ソファから体を起こしてハンガーにかかってるコートに手を伸ばした。
「うーー……クソさみぃ……」
「寒いなぁ…寒い時って寒いしか言えなくなるよな」
「お前夏も同じような事言ってたぞ」
昼の賑やかな雰囲気から一変し、静まり返った夜の街を震えながら2人並んで歩いている。
「寒いし、お店着くまで手繋がない?」
「あぁ!?」
夜だし誰も見てないよ、と手を差し出され数秒迷ってからその手を握ると、キオは寒さで鼻と頬が真っ赤になった顔を緩ませ満足そうに笑う。その後嬉しそうに握った手を振りながら歩みを進める。オレより年上なのにたまにガキのような行動取るよなこいつ。まぁいいけど。
握られた手に軽く力を込めて暫く歩いて行くと、目的地へとたどり着く。昼間ほどではないにしろ、夜中の2時だというのに人が並んでいた。
「少し並んでるね」
「寒いのによく来るぜ」
「それ、俺達も同じでしょ」
オレ達も列に並んで寒さに絶えながら列が進むのを待つ。
その間何を食べようか、トッピングは何を頼もうか、そう言えば隣の人がとびきり元気な犬を飼い始めたなど、そんなたわいのない話をしていたのだが、最終的には寒いしか言えなくなってしまい、やっと自分達が店に入れた時にはすっかり体が冷え切ってしまった。
「あ〜〜店内あったかいぃ〜生き返る〜」
「寒い、早くラーメン食いてぇ」
「だな!じゃあまずは食券を買って…」
店内の入り口で食券を購入。
オレが頼んだのはとんこつラーメン。トッピングはにんにくを追加した。麺の硬さも選べるのでバリカタにする。
キオもちょうど決めた様で、カウンター席へと案内され、食券を店員に渡してラーメンが出来上がるのを待つ。
「ロージーは結局何頼んだ?」
「さっき並んでる時に言った時と同じで、とんこつ、バリカタ、にんにく追加で頼んだ」
「深夜に食べるとんこつラーメンってめちゃくちゃ美味しいもんな!俺は醤油、普通、チャーシュー追加にしたよ!」
「さっき味噌か塩で散々迷ってなかったかお前」
「急に醤油の気分になって…」
そんな雑談している間にラーメンが出来上がり目の前へと出される。キオと話をしてると物事があっという間に過ぎていく。
「お、きたきた!はいロージー、お箸」
「ん、サンキュー」
「じゃあ手を合わせて…いただきます!」
「いただきます!」
レンゲを使ってスープから飲む。
濃厚で舌触りが良いとんこつスープ。後からにんにくの香りと味がガツンと来てそれだけで空腹が満たされていく。
次に麺を一気に啜る。
細くて硬い麺がスープと絡み合い、スルスルと口へ運ばれていく。咀嚼するたびにとんこつスープの濃厚な味が口の中いっぱいに広がり高揚感が一気に高まる。
「〜〜〜っうめぇ…!!」
夢中でラーメンを啜ってると視線を感じたので顔をあげて、隣に座っているキオを見るとニコニコ笑いながらこちらを見ていた。
「な、なんだよ?ジロジロ見やがって…オレの顔に何か付いてんのか?」
「あー、ごめんごめん!たださ、本当に美味しそうに食べるなって思って」
「あ?」
「美味しそうに食べるロージーを見るの、俺好きなんだよね」
「んな!?」
箸で掴んだ味玉を麺の上に落としてしまった。
「お、おま、お前!!何おかしなこと言って!?」
「えー?俺はおかしな事言ってるつもりじゃないぜ?いつも思ってた事だし?」
「あ、アホキオ!!早く食べねぇと麺が伸びちまうぞ!」
軽く脇腹を小突いて食事を促すと、笑いながら、それもそうだな。とキオもラーメンを食べるのを再開した。仕返しとばかりにその様子を横目でチラ見する。
長い前髪は耳へと掛けており、レンゲに麺を乗せ、上品にラーメンを啜っていく。
咀嚼する度にうんうんと噛み締め、幸せそうな顔を咲かせていた。
「テメェだって美味そうに食うじゃねぇか…」
「?何か言った?」
「何でもねェ」
そのあとは、お互い殆ど無言で食べ進め、麺を食べ切った後、オレは白米も追加で食べて腹を満たした。
「ご馳走様!ふー、食った食った!」
「本当によく食べたなぁ。お腹平気?動ける?」
「食後のデザート食うぐらいの余裕はあるぜ」
「それは良かった。じゃあこの後コンビニでアイスでも買って帰ろうか」
「おう!」
そうしてコンビニへ向かうべくラーメン屋を後にする。
外に出ると先程まで忘れていた寒さが一気に襲いかかってきた。その時、ふとある事を思い出し、先を歩こうとするキオの袖を掴む。
「?どうしたロージー?」
「………いいのかよ…」
「え?」
聞き取れなかったキオが耳を寄せる。ったく、恥ずかしいんだから一回で聞き取れよ。
「手……もう繋がなくていいのかよ……」
「!!つ、繋ぐ!繋ごうロージー!」
力強く手を握ったかと思ったら、そのまま抱きつかれた。
「な、何で抱きつくんだよ!」
「だって、ロージーからそう言ってくれる事なかなか無いから嬉しくてさ!」
ぎゅうぎゅうと強い力で抱きしめてくる。手も、顔も、体も熱くて、寒さなんて吹き飛んでしまった。